開業医は本当に儲からないのか|年収の中央値と手取りの現実

この記事の結論

  • 平均3,000万円は上位に引かれた数字で実感と離れる
  • 中央値の目安は1,500〜2,000万円、勤務医との差は数百万円
  • 手取りは額面の4〜6割。元本返済が経費にならないのが要因

「これだけ働いて、残るのはこれだけなのか」。開業医は儲からない、というご相談を毎月のように頂きます。先に結論をお伝えします。開業医の年収は勤務医より額面で高くなることが多い一方、平均ではなく中央値で見ると差はぐっと縮み、さらに税金・社会保険料・借入の元本返済を引いた手取りは額面の4〜6割まで減ります。つまり「儲からない」という実感は気のせいではなく、多くの場合はクリニックの数字の構造から説明できます。

私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人の経営と、赤字になったクリニックや病院の立て直しのお手伝いをしております。毎月220名以上の医師が集まる場でも、この年収と手取りの話は最も相談の多いテーマの一つです。この記事では、実態としての数字と、どこを直せば手元に残る額が変わるのかを順にお伝えします。

目次

開業医は本当に儲からないのか|まず数字の前提を揃える

開業医の年収とは、正確には給与ではなく、診療所の医業収入から人件費・家賃・医薬品費・委託費などの経費を差し引いて残った「損益差額」のことです。個人立であればこれがそのまま院長の事業所得となり、ここから税金と社会保険料を払い、さらに開業時の借入を返済します。勤務医の年収とは性質がまったく違う数字である、という点が実感とのずれを生む最初の原因です。

公的な調査では、個人立の一般診療所の損益差額は年間おおむね3,000万円前後とされることが多く、この数字だけを見れば十分に「儲かる」ように映ります。ただし平均値は、一部の高収益な診療所に引き上げられます。私がこれまで拝見してきた範囲でも、この平均を超えている院長は決して多数派ではありません。

もう一つ前提として、診療報酬は定期的に改定される一方、人件費や光熱費は改定を待たずに上がります。ここに挙げる数字は2026年時点の目安としてお読みいただき、実際の判断の際は最新の改定内容と、ご自身の決算書の数字をご確認ください。

よくある誤解

開業すれば収入は勤務医の2倍になる

平均値の損益差額だけを見た印象

実際に起きること

額面は増えても、手元に残る額の伸びは2〜3割にとどまることがある

税・社会保険料・借入の元本返済が差を吸収するため(目安)

開業医の年収は中央値で見るといくらか

※写真はイメージです

平均ではなく中央値、つまり院長を収入順に並べたときにちょうど真ん中に来る人がいくら得ているか。これが日々の実感に最も近い数字です。開業医の年収の中央値を明示した公的統計は限られていますが、損益差額の分布は右側に長く裾を引く形になりますので、中央値は平均より2〜4割低くなると考えるのが妥当です。私の見立てでは、個人立の診療所であれば年1,500万〜2,000万円あたりが中央の帯になります。

一方、勤務医の平均年収は1,400万〜1,500万円程度といわれます。中央値どうしで比べれば、開業しても額面の差は数百万円にとどまる可能性が十分にあるということです。「開業したのに勤務医時代と変わらない」というご相談が絶えないのは、この構造を反映しています。

そしてもう一段、額面から手取りに落ちる過程で数字は大きく削られます。次の図が、多くの院長が感じている落差の全体像です。

開業医の年収が手取りになるまで(個人立・年額の目安)

損益差額の平均約3,000万円
中央値の目安約1,800万円
税・社会保険料の後約1,140万円
借入の元本返済の後約840万円

いずれも目安です。損益差額の平均は公的調査で示される水準、中央値以下は分布の形と一般的な税・社会保険料の負担、借入返済年300万円を前提に置いた私の試算です。

開業医の手取りはどこまで減るのか

ここが「儲からない」という実感の正体です。事業所得1,800万円の院長を例にとると、青色申告特別控除や社会保険料控除を差し引いた課税所得はおよそ1,600万円台になり、所得税と住民税で合わせて550万円前後、国民健康保険料と国民年金で100万円前後が出ていきます。残るのは1,100万円台です。

さらに厄介なのが、開業時の借入の元本返済です。利息は経費になりますが、元本は経費になりません。つまり税金を払った後のお金で返す必要があります。年300万円を返済していれば、自由に使えるのは800万円台まで下がります。所得としては1,800万円なのに、通帳の増え方は800万円分。この差が「働いている割に残らない」という感覚を生みます。

項目(年額の目安) 勤務医(額面1,500万円) 開業医(所得1,800万円)
所得税・住民税 約400万円 約550万円
社会保険料 約130万円(労使折半) 約100万円(国保・国民年金)
税・社保後の手取り 約970万円 約1,140万円
借入の元本返済 なし 約300万円(経費にならない)
最終的に自由になる額 約970万円 約840万円
将来の備え 退職金・厚生年金 自分で準備が必要

もちろん開業医には、医療法人化や小規模企業共済、経営セーフティ共済など、手元に残す手段が勤務医より多いという利点があります。ただし選択肢が多いことと有利であることは別で、規模によっては個人のままのほうが合理的な場合もあります。判断軸は開業医が法人化しないメリットで整理しておりますので、あわせてご覧ください。返済と手元資金の関係が気になる方は、クリニックの資金繰りが苦しい時の3つの数字のほうが先かもしれません。なお税務の取り扱いは制度改正で変わりますので、個別の判断は必ず顧問税理士にご確認ください。

「儲からない」と感じるクリニックに共通する構造

※写真はイメージです

相談を受けて決算書と月次を拝見すると、儲からないと感じている診療所には、驚くほど似た特徴が出てきます。まずは次の項目でご自身のクリニックを点検してみてください。

  • 人件費率が医業収入の50%を超えている(一般に外来中心の診療所では40%台が一つの目安といわれます)
  • 患者一人あたりの単価を、月単位で把握していない
  • 借入の年間返済額が、税引後の利益を上回っている
  • 院長自身が、診療以外の事務作業に週10時間以上を使っている
  • スタッフの離職があり、この1年で採用を2回以上行った
  • 直近3年で診療単価も患者数も、ほぼ変わっていない

三つ以上当てはまるようでしたら、収入が少ないのではなく、残らない構造になっている可能性が高いと私は考えます。特に多いのが人件費率と返済比率の二つです。人件費率が5ポイント下がるだけで、収入1億円の診療所なら年500万円が動きます。単価を100円上げるだけでも、1日60人・年250日診療なら150万円です。売上を大きく伸ばすより、こちらのほうがはるかに現実的です。

離職が続いている場合は、採用コストと教育のやり直しが静かに利益を削っています。この点は院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因で詳しくお伝えしております。

手取りを増やすために明日から何をするか

抽象的な改善策より、順番が大事です。私が立て直しのお手伝いをする際も、おおむね次の流れで進めます。3か月あれば数字の景色は変わります。

  1. まず自分の手取りを1枚で出す
    直近の確定申告書から、所得・税額・社会保険料・借入の元本返済を書き出し、最後に残った額を確認します。ここを見ないまま「儲からない」と感じている院長が、実は最も多いところです。
  2. 毎月見る数字を7つに絞る
    患者数、単価、医業収入、人件費率、変動費、返済額、月末現預金。これを毎月同じ様式で並べます。作り方はクリニック経営の指標7つにまとめております。
  3. 単価と人件費率のどちらかを先に決める
    両方に同時に手をつけると現場が混乱します。算定漏れや加算の取りこぼしが疑われるなら単価から、シフトが過剰なら人件費から。片方を3か月続けます。
  4. 借入条件を見直せるか銀行に相談する
    返済期間の延長や借換えで、年間の元本返済が下がることがあります。業績が悪化してからでは条件が厳しくなりますので、余力のあるうちにご相談ください。
  5. 院長の時間を診療に戻す
    事務作業を委任するか仕組み化して、院長の時間単価が最も高い業務に集中します。診療時間が週2時間増えれば、それだけで年間の医業収入が数百万円動く診療科もあります。

それでも開業医という選択に意味はあるか

ここまで厳しい数字を並べてきましたが、私は開業を否定しているわけではありません。開業医の価値は、額面の年収ではなく、診療の方針・働く時間・関わる相手を自分で決められることにあります。そして経営が安定すれば、診療所という資産を通じて、勤務医では作れない形の収入と将来設計を持てます。

ただしそれは、数字を見ている院長に限られます。儲からないと感じたときに必要なのは、より多く働くことではなく、どこで残らなくなっているのかを一枚の紙で確かめることです。人件費率、単価、返済比率。この三つを毎月見るだけでも、一年後の手取りは変わります。

私自身も診療を続けながら経営に向き合っておりますので、思うように数字が動かない時期のもどかしさはよく分かります。一人で抱えず、同じ立場の医師と数字を見せ合える場を持つことが、遠回りのようで一番早い道だと感じております。

よくある質問

Q. 開業医の年収の中央値はどのくらいですか

A. 公表された中央値の統計は限られますが、個人立の診療所で年1,500万〜2,000万円あたりが中央の帯というのが私の見立てです。平均の約3,000万円は上位に引き上げられた数字です。

Q. 開業医の手取りは額面のどのくらい残りますか

A. 所得税・住民税と社会保険料で3〜4割が減り、さらに借入の元本返済は経費にならないため、最終的に自由になるのは所得の4〜6割程度が目安です。

Q. 開業医は勤務医より本当に儲かりますか

A. 中央値どうしで比べると額面の差は数百万円にとどまることがあります。退職金や厚生年金がない点も含めると、経営が安定するまでは勤務医と同等というケースも珍しくありません。

Q. 儲からないと感じたらまず何を見ればよいですか

A. 人件費率、患者一人あたり単価、年間の借入返済額の三つです。収入が少ないのではなく残らない構造になっていないかを、毎月同じ様式で確認してください。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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