クリニック患者数100人の年収と損益分岐|数字で見る現実

この記事の結論

  • 1日100人なら年商1億前後、院長取り分は3,000〜5,500万円が目安
  • 税と借入返済を引いた手残りは2,000万円台に落ち着くことが多い
  • 損益分岐は1日50〜60人。100人は分岐点の約1.7倍の位置

「1日に100人も診ているのに、思ったほど手元にお金が残らない」「あと何人増やせば経営が楽になるのか」。こうしたご相談を、私は毎月のようにお受けしております。私は現役の整形外科医として外来に立ちながら、複数の法人を経営し、クリニックや病院の経営改善のお手伝いをしております。その立場から、今日は数字だけでお答えします。

結論を先に申し上げます。1日の患者数が100人のクリニックの年商は、診療科にもよりますがおおむね9,000万円〜1億5,000万円。そこから経費を引いた院長の取り分(税引前・借入返済前)は年3,000万〜5,500万円が目安です。ただし、そこから借入の元本返済と税金が引かれるため、実際に自由に使えるお金は2,000万円台に落ち着くことが多い、というのが私の見立てです。以下、その内訳を順に分解していきます。

目次

クリニックの1日平均患者数は何人か|100人はどのくらいの位置か

まず、自院の位置を確認しておきましょう。厚生労働省の医療施設調査などでは、一般診療所1施設あたりの1日平均外来患者数は30人台で推移しているとされます。診療所全体の平均という意味では、1日100人は上位に入る水準です。

もっとも、この平均値には週1〜2日のみ診療している施設や、在宅中心の診療所も含まれます。フルタイムで外来を回している一般的なクリニックだけを見れば、内科系で1日40〜60人、皮膚科・耳鼻咽喉科・整形外科など回転の速い科では60〜80人あたりが実感に近い層だと感じております。つまり1日100人は「珍しくはないが、確実に忙しい側」という位置づけです。

1日あたり外来患者数の位置づけ(目安)

一般診療所の平均約35人
損益分岐の目安約57人
本記事のモデル100人

目安。平均値は各種統計をもとにした概数で、診療科・地域・診療日数により大きく変動します。

ここで大切なのは、患者数だけを見ないことです。1日100人でも患者単価3,000円と6,000円では、年商が倍近く変わります。患者数は「単価と掛け算になって初めて意味を持つ数字」だと考えていただくのがよいと思います。

1日100人の損益をシミュレーションすると|内科モデル

※写真はイメージです

もっとも相談の多い内科系を例に、年間の損益を組み立ててみます。前提は、患者単価5,500円、1日100人、年間診療日数252日(週5.5日程度)です。年商は5,500円×100人×252日で約1億3,900万円となります。

項目 年間金額 売上比
年商(100人×5,500円×252日) 13,900万円 100%
人件費(院長を除く。常勤・パート計12〜15名) 3,500万円 25%
医薬品・衛生材料費(院外処方前提) 1,400万円 10%
家賃・共益費 1,000万円 7%
減価償却費・医療機器リース 900万円 6%
委託費・光熱・通信・広告・保険など 1,700万円 12%
経費合計 8,500万円 61%
院長の取り分(税引前・返済前) 約5,400万円 39%

数字だけを見れば「年収5,400万円」です。しかし、ここからが本題です。借入の元本返済は経費になりません。開業時に8,000万円を10年返済で借りていれば、年800万円が利益から出ていきます。さらに、課税所得5,400万円に対する所得税・住民税・事業税は、控除の状況にもよりますが年2,000万円前後になります。

よくある期待

1日100人なら、年収は5,000万円を超える

損益計算書の利益だけを見た数字

実際の手残り

返済800万円と税2,000万円を引いて、残るのは約2,400万円

ここから生活費・教育費・退職準備が出ていきます

「1日100人も診ているのに楽にならない」という感覚は、決して気のせいではありません。利益は出ているのに、返済と税で半分以上が形を変えて出ていく。この構造を理解しておかないと、増患だけを追いかけて疲弊してしまいます。毎月見る数字の整え方はクリニック経営の指標7つ|毎月見る数字表の作り方でも詳しくお伝えしております。

診療科で年収はどれだけ変わるか

同じ100人でも、診療科によって年商は2倍近い差が出ます。以下は保険診療における1人1日あたり単価の目安と、1日100人・年252日で計算した年商です。

診療科 患者単価の目安 1日100人の年商目安
内科(生活習慣病中心) 5,500〜7,000円 1.4億〜1.8億円
眼科 5,000〜6,500円 1.3億〜1.6億円
小児科 4,000〜5,500円 1.0億〜1.4億円
整形外科(リハビリ含む) 3,500〜4,500円 0.9億〜1.1億円
耳鼻咽喉科 3,500〜4,500円 0.9億〜1.1億円
皮膚科 3,000〜4,000円 0.8億〜1.0億円

あくまで目安であり、実際の単価は処置の内容、検査機器の有無、慢性疾患か急性疾患か、そして診療報酬改定によって動きます。2026年時点の目安としてご覧いただき、最新の改定内容は必ずご確認ください。

私の専門である整形外科を例に申し上げますと、単価3,800円で100人を診た場合の年商は約9,600万円。ここで注意が必要なのが人件費です。理学療法士を抱えるリハビリテーション部門を持つと、人件費率は30〜33%まで上がります。経費率が全体で65%前後になるため、院長の取り分は3,200万円前後。内科モデルと比べて2,000万円以上の差が出ます。

つまり、皮膚科や整形外科で「内科と同じ年収」を目指すなら、単純に患者数を1.5倍にするか、単価を上げる仕組み(自費診療、検査、リハビリ加算の適正な算定)を組み込むかのどちらかが必要になります。スタッフ配置と患者数のバランスについてはクリニックのスタッフ適正人数|患者数と診療科別の計算方法もあわせてご覧ください。

損益分岐点は1日何人か|自院の数字の出し方

※写真はイメージです

損益分岐点患者数とは、売上と費用がちょうど釣り合い、利益がゼロになる1日あたりの患者数のことです。この数字を知っておくと、「あと何人減ったら危ないのか」という守りの線が見えます。

計算は難しくありません。経費を、患者数に比例して増える変動費(医薬品・衛生材料)と、患者が来なくても出ていく固定費(人件費・家賃・リース・委託費など)に分けるだけです。

  1. 年間の固定費を出す(先の内科モデルでは8,500万円-1,400万円=7,100万円)
  2. 変動費率を出す(1,400万円÷1億3,900万円=約10%)
  3. 損益分岐点売上=固定費÷(1-変動費率)=7,100万円÷0.9=約7,900万円
  4. 分岐点患者数=7,900万円÷(単価5,500円×年252日)=1日約57人

この試算では、1日57人を下回ると赤字に転じます。逆に言えば、1日100人のクリニックは分岐点の約1.7倍で回っている状態です。ここに、経営としての安心感があります。

ご自身の数字で確かめる際は、次の項目を手元に用意してください。

  • 直近1年の年間売上(保険請求+自費+その他収入)
  • 年間の実診療日数(休診日・学会・夏季休暇を引いた実数)
  • 患者延べ人数(レセプト枚数ではなく延べ数)
  • 人件費の年額(院長分は含めない。法定福利費も忘れずに)
  • 医薬品・衛生材料の年間仕入額
  • 家賃・リース・委託費・広告費の年額
  • 借入の年間元本返済額(利息とは分けて把握)

特に見落とされやすいのが、最後の元本返済額です。決算書の利益には現れないのに、確実に現金が出ていきます。私が経営相談で最初にお伺いするのも、この数字であることが多いです。開業初期の資金の流れについてはクリニック開業は何年目で黒字か|黒字化期間の目安と分岐点で整理しております。

患者数を100人に増やす前に、確認していただきたいこと

ここまで読まれて「やはり100人を目指そう」と思われた先生に、一点だけお伝えしたいことがあります。患者数を増やすと、経費も一緒に増えます。60人を100人にするには、スタッフが2〜4名、待合スペース、電子カルテの端末、場合によっては診察室そのものが必要になります。増収分の4割前後が経費に消えることは珍しくありません。

そのうえ、100人体制は院長の身体的な負担が一段跳ね上がります。休診日に倒れられた先生を、私は何人も見てまいりました。数字と体力の両方が持つ形で進める、という順番をおすすめしております。

  1. まず単価を確かめる
    直近3か月の売上÷延べ患者数で、自院の実単価を出します。同科の目安より1,000円低ければ、増患より先に算定の見直しで増収が見込めます。
  2. 損益分岐点患者数を出す
    前章の計算式で、赤字に転じる線を把握します。現在の患者数が分岐点の1.3倍を下回っているなら、まずここを1.5倍まで引き上げることを目標にします。
  3. 1人あたり診療時間を測る
    実診療時間÷患者数で算出します。1人3分を切っているなら、増患ではなく待ち時間と回転の設計を先に手当てします。
  4. 増員後の人件費率をシミュレーションする
    スタッフを増やした後の人件費率が30%を超えるなら、その増患は利益に結びつきにくくなります。増員前に必ず試算します。
  5. 院長が抜けても回る日を作る
    週1日は診療から離れられる体制を先に作ります。100人体制は、院長が倒れた瞬間に売上がゼロになる構造でもあります。

1日100人という数字は、確かに一つの到達点です。ただ、その先で残るお金は、患者数よりも「単価」「経費率」「借入」の3つで決まります。まずは自院の損益分岐点を1枚の紙に書き出すところから始めていただければと思います。数字が見えると、増患すべきか、体制を整えるべきかの判断が驚くほど明快になります。

よくある質問

Q. 1日100人のクリニックの院長の年収はいくらですか

A. 診療科によりますが、税引前・借入返済前で年3,000万〜5,500万円が目安です。元本返済と税を引いた実際の手残りは2,000万円台になることが多いです。

Q. クリニックの損益分岐点は1日何人ですか

A. 固定費7,100万円・変動費率10%・単価5,500円の内科モデルで、1日約57人が目安です。固定費と患者単価によって変わるため、自院の数字で計算する必要があります。

Q. 1日の患者数の平均はどのくらいですか

A. 一般診療所1施設あたりの1日平均外来患者数は30人台とされます。ただし週1〜2日診療の施設も含む平均で、フルタイム診療のクリニックでは40〜80人が実感に近い水準です。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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