クリニックの廃業率と廃業理由|潰れる医院に共通する5つの兆候

この記事の結論

  • 一般診療所の年間廃業率は4〜5%程度が目安
  • 倒産による廃業は全体の0.1%未満と非常に少ない
  • 危ないのは数字を月次で見ていない院長

クリニックの廃業率を調べていらっしゃるということは、今の経営に何かしらの不安を抱えておられるのだと思います。開業前の先生であれば「失敗したらどうなるのか」、開業後の先生であれば「このまま続けて大丈夫か」。どちらも、口に出しにくい不安です。

結論から申し上げます。一般診療所が1年間に廃止される割合は、おおむね4〜5%といわれます。ただしその大半は院長の高齢や健康上の理由による「閉院」であり、経営が行き詰まって倒産に至るケースは全体の0.1%にも届きません。つまり、クリニックは「潰れる」のではなく「閉じる」ほうが圧倒的に多い。私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と、病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。その現場で見てきた廃業理由の中身と、危ないクリニックに共通する兆候をお伝えします。

目次

クリニックの廃業率は年に何%か

クリニックの廃業率とは、ある時点で営業していた診療所のうち、その1年のあいだに廃止(閉院)した施設の割合を指します。医師の感覚では「倒産率」と混同されがちですが、統計上の廃止には承継や移転、法人化にともなう手続き上の廃止も含まれる点に注意が必要です。

厚生労働省の医療施設調査によれば、全国の一般診療所は約10万5,000施設。年間の新規開設が7,000施設前後、廃止が5,000施設前後で推移しているといわれます。単純に割れば、廃業率は年4〜5%程度。10年でおよそ3〜4割が入れ替わる計算になります。

一方、民間調査会社が集計する医療機関(病院・診療所・歯科)の倒産は、年間で30〜60件程度。診療所に限ればさらに少なくなります。10万施設という母数に対して0.05%前後、多く見積もっても0.1%未満です。数字はいずれも2026年時点でよく引用される目安ですので、最新の医療施設調査や調査会社の公表値もあわせてご確認ください。

指標 おおよその水準 読み方
一般診療所の総数 約10万5,000施設 母数。歯科・病院は含まない
年間の廃止 約5,000施設 承継・移転・法人化も含む
年間の廃業率 4〜5%程度 10年で3〜4割が入れ替わる
倒産(法的整理) 年30〜60件程度 母数比で0.1%未満

この差が、この記事でいちばんお伝えしたいことです。「開業したら10軒に1軒は潰れる」といった話を耳にされたことがあるかもしれませんが、少なくとも統計上、そこまでの失敗確率ではありません。ただし「潰れない」ことと「続けられる」ことは別の話です。

廃業理由の内訳|経営難はむしろ少数派

※写真はイメージです

私のもとには毎月、医師のコミュニティを通じて経営の相談が寄せられます。実際に閉院に至った先生方の理由を並べてみると、経営不振はむしろ少数派です。

開業医が廃業に至る理由の構成(体感値)

院長の高齢・健康上の理由約45%
後継者がいない約25%
経営不振・資金繰り約15%
移転・統合・法人化など約15%

私のもとに寄せられる相談と、周囲で実際にあった閉院事例からの体感値です。公的統計ではなく目安としてご覧ください。

もっとも多いのは、院長ご自身の高齢と健康です。70代に入って外来を続けられなくなった、腰を痛めて立位の診察が難しくなった、脳梗塞で入院された——こうした話は決してまれではありません。クリニックは院長ひとりの労働力に売上が全面的に依存する構造ですから、院長が倒れた時点で事業が止まります。この点については開業医が病気になったらどうなるかを別記事にまとめておりますので、あわせてご覧ください。

次に多いのが後継者不在です。お子さんが医師にならなかった、あるいは別の診療科に進まれた。第三者承継という選択肢はありますが、準備なしに「来年で閉めます」となると、患者もスタッフも行き場を失います。

そして経営不振。相談の中では15%程度という感覚ですが、これは「ある日突然」ではありません。多くの場合、数年かけてゆっくり体力を失っていきます。

「閉じる廃業」と「潰れる廃業」は分けて考える

失敗確率を正しく見積もるには、この2つを混ぜないことが大切です。

よくある誤解

開業は博打で、失敗すれば借金を抱えて破産する

「廃業率◯%」という数字だけが独り歩きしている

実際

廃業の大半は院長の高齢・健康・後継者不在による計画的な閉院

倒産に至るのは母数の0.1%未満。ただし「続けるのが苦しい」状態の医院はもっと多い

私が本当に気にしているのは、統計に出てこない層です。倒産はしていない。閉院もしていない。けれども院長が自分の役員報酬を減らして資金繰りを回している、返済のためだけに週7日働いている——こうした状態のクリニックは、数字の上では「生存」に分類されます。廃業率の低さは、必ずしも開業医の安全を意味しません。

潰れるクリニックに共通する5つの兆候

※写真はイメージです

経営不振で閉院に向かうクリニックには、私が見てきたかぎり共通点があります。ご自身の医院に当てはまるものがないか、確認してみてください。

  • 月次の数字を見ていない(患者数・保険点数・人件費率を院長が言えない)
  • 通帳残高だけで資金繰りを判断している
  • 人件費率が収入の40%を超えたまま放置されている
  • スタッフの離職が年に2人以上続き、採用と教育に追われている
  • 返済額が月次の手元利益を上回っている月が続いている

いちばん危ないのは1つ目

数字を見ていない状態が、すべての入口です。診療に集中されている先生ほど、経理は税理士任せ、決算は年1回の報告だけ、という形になりがちです。しかし年1回の決算で赤字に気づいても、そこからでは打てる手が限られます。せめて月次で見る数字を決めておく。私は毎月見る7つの指標を1枚の表にして眺めることをおすすめしております。

人件費率と離職は連動する

一般に、無床診療所の人件費率は収入の30〜40%程度が一つの目安といわれます(診療科や体制によって幅があります)。これが40%を超えてくると、院長の手取りが先に削られます。厄介なのは、離職が続くと採用コストと教育負担が乗り、残ったスタッフの疲弊がさらなる離職を呼ぶことです。人手が足りないから求人を出し、また辞める。この循環に入ると、数字より先に院長の気力が尽きます。

資金繰りは「利益」ではなく「現金」で見る

決算書上は黒字なのに現金が足りない、という相談は本当に多いです。返済の元本は経費になりませんし、保険診療の入金は約2か月遅れます。苦しさを感じ始めた時点での立て直しについては資金繰りが苦しい時に見る3つの数字に手順をまとめました。

失敗確率を下げるために、今日からできること

廃業率を自分ごとに引き下げる方法は、派手なものではありません。順番が大切です。

  1. 数字を1枚にまとめる
    1日平均患者数、月の保険請求額、人件費率、月末現金残高、月の返済額。この5つを毎月同じ日に記入します。所要時間は慣れれば15分です。
  2. 6か月先の現金を予測する
    今の収支が続いた場合、6か月後の現金残高がいくらになるかを計算します。マイナスに転じる月が見えたら、そこが対策の期限です。
  3. 院長が倒れた場合の代替を用意する
    代診の連絡先を2〜3件確保し、就業不能に備えた保険の内容を確認します。廃業理由の最多が健康である以上、ここは経営対策そのものです。
  4. スタッフの定着に手を入れる
    採用より先に、今いる方が辞めない仕組みを整えます。給与だけでなく、業務範囲と評価の伝え方を見直すほうが効くことが多いです。
  5. 相談できる相手を院外に1人つくる
    院長は孤独です。判断を1人で抱えると、決断が遅れます。同じ立場の開業医、または利害のない第三者に、月1回でも数字を見せられる関係を持っておく。

特別なことは書いておりません。ただ、閉院に至ったクリニックの多くは、このどれかが欠けていました。

それでも続けられないと感じたときの選択肢

廃業は失敗ではありません。むしろ、体力が残っているうちに動いたほうが、患者・スタッフ・ご自身の資産のすべてを守れます。私が相談を受けるときにお伝えしている選択肢は、おおむね次の4つです。

選択肢 向いている状況 準備期間の目安
第三者承継(譲渡) 患者は付いているが、院長が続けられない 1〜2年
規模縮小・診療日短縮 収入は減ってもよいが、地域に医療を残したい 3〜6か月
計画的な閉院 後継も譲渡先もなく、負債の整理が可能 6か月〜1年
勤務医への復帰 経営から離れ、診療に専念したい 3〜6か月

いずれの場合も、患者へのカルテの保存と告知、スタッフの雇用、保健所や厚生局への届出、リース・借入の整理が必要になります。手続きと期限は制度改正で変わりますので、実際に動かれる際は税理士・社会保険労務士・弁護士など、それぞれの専門家に個別にご確認ください。医療法や広告規制に関わる部分も、一般論と個別判断は分けて考える必要があります。

クリニックの廃業率という数字は、先生を脅かすためのものではありません。10万を超える診療所のうち、経営破綻で閉じるのは年に数十件。その数十件に入らないために必要なのは、才能でも運でもなく、毎月15分、自分の医院の数字を見る習慣です。今日その1枚をつくることから始めていただければと思います。

よくある質問

Q. クリニックの廃業率は何%ですか

A. 一般診療所で年4〜5%程度が目安です。ただし承継や移転にともなう廃止も含まれ、経営破綻による倒産は母数の0.1%未満といわれます。

Q. 開業医の廃業理由で最も多いものは何ですか

A. 院長の高齢や健康上の理由です。次いで後継者不在が多く、経営不振はむしろ少数派というのが私の実感です。

Q. クリニックが危ない状態かどうか、どこで判断できますか

A. 月末現金残高と月の返済額、人件費率の3つです。6か月先の現金がマイナスに転じる見込みなら、その月が対策の期限になります。

今の経営課題を整理したい先生へ

採用・集患・お金の残り方・将来の承継など、お悩みを書き出せるヒアリングシートも用意しております。内容を拝見し、私から率直な見立てをお返しします。

経営課題ヒアリングシートを開く

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

目次