クリニック経営の指標7つ|毎月見る数字表の作り方

この記事の結論

  • 見るべき指標は7つ。増やすほど続きません
  • 数字表はA4一枚・月1回30分で十分です
  • 毎月動かす指標は1つだけに絞ります

毎月の売上はなんとなく分かる。ただ、それが良い数字なのか悪い数字なのか判断できない——クリニック経営の指標についてご相談をいただくとき、院長が最初におっしゃるのはたいていこの感覚です。私も自分の法人を持つまでは同じでした。試算表は届くのですが、届いた瞬間に「見た」で終わってしまう。

結論から申し上げます。毎月見る数字は7つで足ります。そして表はA4一枚、見る時間は月30分で構いません。多くの院長がつまずくのは数字が足りないからではなく、集めすぎて続かないからです。今回は、私が経営改善のお手伝いに入るとき院長に最初に作っていただく数字表を、そのままお伝えします。

目次

クリニック経営の指標とは、何を指すのか

クリニック経営の指標とは、診療所の状態を毎月同じ物差しで測るために選んだ、数点の数値のことです。会計事務所から届く試算表が「結果の記録」だとすれば、指標は「次の一手を決めるための道具」です。ここが分かれ目で、記録は見ても行動は変わりませんが、道具は行動を変えます。

もう一つ大事なのは、指標は比較して初めて意味を持つという点です。今月の1日平均患者数が42人と言われても判断できませんが、先月が46人、昨年同月が45人と並べば「落ちている」と分かります。だから単発の分析より、粗くても毎月同じ形で並べ続けることのほうが価値があります。クリニックのKPI作りは、精度より継続です。

なお診療報酬は定期的に改定されます。単価に関わる数字を扱うときは、2026年時点の最新の改定内容をご確認ください。改定の前後で単価が動いたのに、それを「自院の努力不足」と受け取ってしまう院長を何度か見てきました。

毎月見るべきクリニックの指標7つ

※写真はイメージです

私が院長にお願いするのは次の7項目です。患者の流れ、収入の質、人、お金——この4つの側面が最低限そろうように選んでいます。

指標 計算式 見方の目安
①1日平均患者数 月の延べ患者数 ÷ 診療日数 前月・前年同月と比較。診療日数の差を吸収できる
②患者単価 医業収入 ÷ 延べ患者数 診療科で幅がある。自院の推移を見るのが基本
③新患数・新患比率 新患数 ÷ 延べ患者数 一般に1割前後が一つの目安。集患施策の効き目が出る
④再来率 3か月以内に再来した患者の割合 下がるときは待ち時間・接遇・説明のどれかが原因のことが多い
⑤人件費率 人件費 ÷ 医業収入 無床診療所では概ね20〜30%程度といわれる(目安)
⑥1人あたり医業収入 医業収入 ÷ 常勤換算人数 採用の可否を感覚でなく数字で判断できる
⑦手元現預金の月商倍率 手元現預金 ÷ 平均月商 3か月分以上を一つの安全圏として見ています

①〜④は「患者さんとの関係」を映す数字

①と②は掛け算で医業収入になります。収入が落ちたとき、患者数が減ったのか単価が下がったのかで打ち手はまったく変わります。人が減っているなら集患や動線の話、単価が下がっているなら診療内容や算定漏れの話です。ここを分けずに「売上が落ちた」とだけ捉えると、広告費を増やして単価問題を放置する、といったズレが起きます。

③と④は先行指標です。新患が細り始めてから収入に響くまでには数か月の時間差があります。逆に言えば、新患比率を毎月見ておくと数か月先の景色が読めます。④の再来率は算出が少し面倒ですが、レセコンで「初診月別の再来有無」を追える施設なら四半期に一度でも構いません。

⑤〜⑦は「経営体力」を映す数字

人件費率は、私がもっとも相談を受ける項目です。高いから悪いとは限りません。リハビリや在宅のように人員が売上を生む体制なら、率は高くて当然です。問題は、率が上がっているのに⑥の1人あたり医業収入が下がっているときで、これは人が増えた分だけ生産性が落ちている状態を示します。人数そのものの考え方はクリニックのスタッフ適正人数|患者数と診療科別の計算方法で詳しく整理しておりますので、あわせてご覧ください。

⑦は地味ですが、経営が苦しくなるときに最初に効いてくる数字です。利益が出ていても納税や設備投資で現金は動きます。月商の何か月分あるかを毎月一行書くだけで、資金繰りの不安がかなり具体的になります。

医業収入を100としたときの費用構造(無床診療所の一例・目安)

人件費25
その他経費20
医薬品・材料費15
賃料・設備10

診療科・立地・体制で大きく変わるため、あくまで構造をつかむための目安です。自院の試算表の実数に置き換えてご覧ください。

クリニックKPI表の作り方|A4一枚で始める5ステップ

ここからが本題です。指標を選ぶことより、表を「回し続ける」ほうが何倍も難しい。私が実際にお願いしている手順です。

  1. 枠だけ先に作る
    表計算ソフトで1枚。縦に7つの指標、横に12か月。中身が空でも構いません。まず器を作ります。
  2. 数字の出どころを1つに決める
    ①〜④はレセコン・電子カルテ、⑤⑥は給与ソフト、⑦は通帳。「どこから取るか」を表の欄外にメモしておくと、担当が代わっても続きます。
  3. 入力担当と締め日を決める
    院長が入力してはいけません。毎月◯日までに事務長または受付リーダーが埋める、と決めます。担当の置き方はクリニックの事務長は妻でいいのか|仕事内容と報酬・代行の選び方もご参考になるかと思います。
  4. 見る日を予定表に入れる
    月1回30分、診療枠と同じように予定に入れてしまいます。「時間ができたら見る」は、私の経験上ほぼ実行されません。
  5. 今月動かす指標を1つだけ選ぶ
    7つ全部を改善しようとすると何も進みません。「今月は新患比率」と決め、翌月にその1行だけを確認します。

3か月分たまると、表は急に読み物になります。半年たつと季節変動が見え、1年たつと前年同月比という一番強い物差しが手に入ります。私は最初の3か月を「我慢の期間」と呼んでお伝えしています。

なぜ指標を集めても経営が変わらないのか

※写真はイメージです

数字表を作ったのに何も変わらなかった、というご相談もよくいただきます。そのとき起きていることは、だいたい共通しています。

よくある形

会計事務所の資料を眺め、20項目以上を月ごとに追う。忙しい月は入力が飛び、半年で自然消滅する。

集めることが目的化している状態

見直し後

7項目に絞り、毎月同じ日に30分。動かす指標は1つだけ決めて、翌月にその行だけ確認する。

判断のための道具になっている状態

もう一つ、経営分析でつまずきやすい点を挙げます。数字をスタッフへの詰めに使ってしまうことです。「今月は患者数が減った、なぜだ」と朝礼で問うと、翌月から現場は数字を怖がるようになり、正確な入力すら上がってこなくなります。指標は院長が自分の判断を点検するためのもので、評価のための道具ではありません。この線引きが崩れたときに何が起きるかは、院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因|信頼を取り戻す順番で整理しております。

また、単月の上下に反応しすぎないことも大切です。診療日数、天候、感染症の流行、連休の位置——ひと月の変動要因は思いのほか多い。私は3か月の移動平均で見るようにしており、それでも下がり続けているときに初めて手を打ちます。

今月から始めるためのチェックリスト

最後に、今日から着手できる形にまとめます。全部そろわなくても、上から3つ埋まれば表は動き始めます。

  • 先月の延べ患者数と診療日数を、レセコンから出せる状態か確認した
  • 先月の医業収入(保険+自費)の実数を把握している
  • 新患数を月単位で集計できる仕組みがある
  • 人件費に、院長報酬・法定福利費を含めるかどうかのルールを決めた
  • 常勤換算の人数(パートは時間換算)を算出した
  • 手元現預金と平均月商を書き出し、何か月分あるか計算した
  • 入力担当者と毎月の締め日を決め、本人に伝えた
  • 院長が数字を見る日を、今後3か月分の予定表に入れた

クリニックの経営指標は、増やすほど賢く見えますが、続かなければゼロと同じです。7つ、A4一枚、月30分。まずはこの形で3か月続けてみてください。数字が並び始めると、これまで「なんとなく不安」だったものの正体が、驚くほどはっきりと輪郭を持ちます。私自身、そこから経営が変わりました。

なお、人件費率や単価の水準は診療科・地域・体制によって適正値が大きく異なります。具体的な判断や税務・制度に関わる部分は、顧問税理士や社会保険労務士など専門家にご確認いただくのが確実です。

よくある質問

Q. クリニックの経営指標は何個くらい見るべきですか

A. 毎月見るのは7つ程度で十分です。患者数・単価・新患・再来率・人件費率・1人あたり収入・手元現預金の月商倍率。増やすほど入力が滞り、続かなくなります。

Q. クリニックの人件費率の目安はどのくらいですか

A. 無床診療所では概ね20〜30%程度が一つの目安といわれます。ただしリハビリや在宅など人員が売上を生む体制では高くなるため、率だけでなく1人あたり医業収入と併せて見ます。

Q. KPI表は誰が作るのがよいですか

A. 入力は事務長や受付リーダーに任せ、院長は月1回30分「見る側」に回るのが続くコツです。院長が入力担当になると、忙しい月に必ず止まります。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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