この記事の結論
- 厳しさは売上・コスト・資金繰りの3型に分かれます
- 月商1,000万円でも固定費で7割前後が消えるのが目安です
- 打ち手は数字の把握→単価→人員→借入の順で選びます
「このまま続けて大丈夫だろうか」。診療は真面目にやっている、患者さんも来ている、それでも通帳の残高が思うように増えない。クリニック経営が厳しいと感じておられる先生から、そうしたご相談を毎月いただきます。先に結論をお伝えします。厳しさの正体は先生の努力不足ではなく、売上・コスト・資金繰りのどこに詰まりがあるかを分けずに、全部まとめて「経営が難しい」と感じてしまっている状態にあることがほとんどです。分解すれば、打つ手はたいてい3つか4つに絞れます。私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と、経営が傾いた病院・クリニックの立て直しのお手伝いをしております。その現場で毎回同じ順番で数字を見ておりますので、その順番をそのままお伝えします。
クリニック経営が厳しいのはなぜですか|まず3つの型に分ける
クリニック経営の厳しさとは、医業収益に対して固定費の割合が高く、患者数がわずかに減っただけで手元資金が急速に痩せる収益構造のことです。売上が数%落ちただけで利益が半分になる、という経験をされた先生は多いはずです。これは経営が下手なのではなく、人件費・賃料・借入返済という動かしにくい費用が先に決まっている業態だから起きます。
ですので最初にやることは、原因を1つに決めつけないことです。私は必ず次の3つに切り分けてから話を始めます。
| 厳しさの型 | 典型的な症状 | 最初に見る数字 | 効きやすい打ち手 |
|---|---|---|---|
| 売上型 | 1日の患者数が想定を下回る/単価が低い | 1日平均患者数・患者単価・新患比率 | 診療時間帯の見直し、自費や検査の適正化、導線改善 |
| コスト型 | 売上はあるのに利益が出ない | 人件費率・材料費率・賃料比率 | シフトの再設計、委託内容の棚卸し、仕入の見直し |
| 資金繰り型 | 利益は出ているのに現金が足りない | 手元現金月数・借入返済額・納税予定額 | 返済条件の相談、納税資金の別管理、回収サイトの把握 |
この3つは対処法がまったく違います。売上型に人件費削減で対応すると、残ったスタッフが疲弊して離職が続き、かえって回転が落ちます。逆に資金繰り型に集患対策を重ねても、広告費が出ていく分だけ苦しくなります。現金が足りない感覚が強い先生は、先にクリニックの資金繰りが苦しい時の3つの数字の順で確認していただくと、どの型かの当たりがつきます。
数字で見ると何が厳しいのか|費用構造の目安

感覚ではなく数字で見ると、厳しさの理由はかなりはっきりします。以下は無床の外来クリニックで月の医業収益が1,000万円程度の場合の、費用配分の一般的な目安です。診療科・立地・開業年数で大きく振れますので、あくまで自院の数字を当てはめる枠としてご覧ください。
月商1,000万円の外来クリニックの費用内訳(目安)
診療科・立地・開業年数で変動するため、いずれも目安です。自院の月次試算表の数字に置き換えてご確認ください。
注目していただきたいのは、人件費率が一般に医業収益の20〜30%程度といわれる点と、借入返済が損益計算書の費用ではなく現金だけが出ていく項目である点です。減価償却費より元金返済のほうが大きい時期は、帳簿上黒字でも現金が減ります。ここが「利益は出ているはずなのに厳しい」と感じる最大の理由です。
もう一点、近年の難しさとして、人件費と外部委託費が上がりやすい一方で、診療報酬は自院の判断で値上げできないという非対称があります。2026年時点の制度を前提にしても、改定内容は都度変わりますので、最新の改定は必ずご確認ください。値上げできない業態では、単価と回転と原価の3つを同時に少しずつ動かすしかありません。
「開業医は儲からない」は本当ですか
開業医は儲からない、という言葉をよく目にします。私の見立てでは、半分は誤解で、半分は事実です。誤解と実際を並べます。
よくある誤解
開業すれば勤務医時代より当然に収入が増える。売上が増えれば手取りも比例して増える。
開業前に描きやすい絵
実際に起きること
売上の増加分は人員増と材料費でかなり相殺され、残った利益から借入元金と税金を払った残りが手取りになる。増えるのは収入だけでなく、責任と固定費でもある。
院長報酬を決める前に、返済と納税の額を先に置く
つまり「儲からない」のではなく、手取りに変わるまでの控除項目が勤務医より多いというのが実態に近いと考えております。特に開業から数年は、元金返済と設備投資が重なるため、損益と現金のギャップが大きく出ます。開業当初に赤字が続いても、それ自体は異常ではありません。どの時点で黒字転換を見込むかの目安はクリニック開業は何年目で黒字かで整理しております。
一方で、事実の側面もあります。診療圏の人口が減っている地域、同一科の競合が増えた地域では、努力の量に対して患者数が伸びにくくなります。この場合は「頑張り方」ではなく「立地と診療内容の組み合わせ」を見直す話になりますので、労働時間を延ばして解決しようとしないほうが安全です。
クリニック経営が難しいのは、院長が二役を担うからです

数字の話に加えて、もう一つ構造的な難しさがあります。院長は診療のプロとして採用も労務も資金調達も判断しなければならず、しかもその判断について誰からも評価も助言も受けにくい立場にあります。企業であれば分業されている機能を、一人で兼務している状態です。
経営が厳しいと感じたとき、それが数字の問題なのか、体力と時間の問題なのかを分けておくと打ち手を間違えません。次の項目のうち、当てはまるものにチェックを入れてみてください。
- 直近3か月の月次試算表を、届いた週のうちに開いていない
- 1日平均患者数と患者単価を、今この場で言えない
- 手元現金が固定費の何か月分あるか把握していない
- 借入の元金返済額と、次回の納税予定額を分けて管理していない
- スタッフの退職が年に2人以上続いている
- 院長が休むと診療が止まる(代診の当てがない)
- 経営の判断を相談できる相手が、院外に一人もいない
3つ以上当てはまる場合、まず着手すべきは集患ではなく数字の見える化です。毎月どの指標を見るかを決めるだけで、意思決定の速度が変わります。私が実際に毎月確認している項目はクリニック経営の指標7つにまとめております。逆に、後半の3項目に多く当てはまる先生は、数字よりも先に休める体制づくりのほうが優先度が高いと考えます。院長が倒れることが、クリニックにとって最大の経営リスクだからです。
厳しさから抜けるための5ステップ
ここからは順番の話です。同時にすべてやろうとすると必ず途中で止まりますので、上から順に進めていただくことをおすすめします。
- 現金の残り月数を出す
手元現金÷月の固定費で、何か月もつかを計算します。3か月を切っているなら、以下より先に金融機関へ相談する段階です。 - 売上を分解する
月商を「1日平均患者数×患者単価×診療日数」に分けます。落ちているのがどれかで打ち手が変わります。単価か人数かを混ぜて考えないことが要点です。 - 人件費率を確認して人員配置を組み直す
まず削るのではなく、忙しい時間帯と暇な時間帯にどれだけ人がいるかを並べます。総数より配置のずれが原因のことが多くあります。 - 固定費を1つずつ棚卸しする
保守契約、リース、委託、通信、広告を一覧にし、直近12か月で成果が測れないものから見直します。年単位で数十万円が動くことは珍しくありません。 - 借入の条件を相談する
返済が重い時期であれば、返済期間や当面の返済方法について金融機関に早めに相談します。資金が尽きてからでは選択肢が減ります。個別の可否は取引先の金融機関と顧問税理士にご確認ください。
この5つを1〜2か月で一巡させると、「経営が厳しい」という漠然とした不安が、「7月は単価が落ちた」「委託費が3年前より20万円増えている」といった具体的な課題に変わります。不安が具体的になれば、それはもう解ける問題になっております。
それでも厳しいときはどうすればよいですか
打ち手を尽くしても数字が戻らない場合があります。診療圏そのものが縮小しているとき、建物や設備の更新時期と借入返済が重なったとき、院長ご自身の健康に不安があるときです。こうした局面では、続ける・縮小する・引き継ぐという選択肢を、感情を交えずに並べておくことが必要になります。
私がお伝えしているのは、判断を先送りしないこと、そして一人で決めないことの2点です。承継や譲渡は、体力が残っている段階のほうが条件を整えやすく、資金が尽きてからでは選べる形が限られます。医療法や広告規制、税務の扱いは制度改正で変わりますので、一般論としてお読みいただき、実際の判断は顧問税理士・弁護士など専門家にご確認ください。
そして、経営の悩みは診療の悩みと違って、院内では相談しにくいものです。同じ立場の医師と話すだけで整理がつくことも多くあります。私が医師向けのコミュニティを続けているのも、院長という役割が構造的に孤独だと実感しているためです。厳しいと感じている状態は、経営者として当然に通る道であって、先生の能力の問題ではありません。まずは今月の試算表を開いて、現金の残り月数を出すところから始めていただければと思います。
よくある質問
Q. クリニック経営が厳しいと感じたら、最初に何をすべきですか
A. 手元現金÷月の固定費で残り月数を計算してください。3か月を切っていれば金融機関への相談が先です。余裕があれば売上を患者数と単価に分解します。
Q. 人件費率はどのくらいが目安ですか
A. 無床の外来クリニックでは医業収益の20〜30%程度が一般的な目安といわれます。診療科や有床・在宅の有無で大きく変わるため、自院の推移で判断してください。
Q. 黒字なのに現金が足りないのはなぜですか
A. 借入の元金返済と納税が費用として計上されないためです。減価償却費より元金返済が大きい時期は、帳簿上黒字でも現金は減っていきます。
Q. 開業医は本当に儲からないのですか
A. 収入が増えない訳ではなく、手取りになるまでに人件費・返済・納税という控除が勤務医より多い構造です。特に開業数年は現金と利益の差が大きく出ます。
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