電子カルテの乗り換えで後悔しない手順|データ移行の落とし穴

この記事の結論

  • 乗り換えの成否は製品選びよりデータ移行の設計で決まる
  • 過去カルテは全部そのまま移らない。参照方式が現実解
  • 切替日は連休明けを避け、レセプト月をまたがせない

「今の電子カルテのサポートが終わると言われた」「動作が遅くて診療が滞る」——電子カルテの乗り換えについてのご相談が、ここ数年で目に見えて増えました。結論から申し上げます。乗り換えの成否は、製品選びよりもデータ移行の詰め方と、切り替え当日からの一か月でほぼ決まります。

私は整形外科医として今も診療に立ちながら、複数の法人を経営し、クリニックや病院の経営改善のお手伝いをしております。その中で、カルテの入れ替えに立ち会ったり、切り替え直後に混乱した院内を一緒に立て直したりする機会が何度もありました。うまくいった院と、半年経っても不満が残る院の差は、驚くほどはっきりしています。ここでは2026年時点で私がお伝えしている実務の順番と、見落とされやすい落とし穴を整理してお伝えします。なお診療報酬や電子処方箋、オンライン資格確認まわりの要件は改定されますので、契約前に必ず最新の情報をご確認ください。

目次

電子カルテの乗り換えとは、結局なにを移す作業なのか

電子カルテの乗り換えとは、ソフトを入れ替えることではなく、①診療データ、②レセプト・請求まわりの設定、③院内の業務手順、という三つの層をまとめて移し替える作業です。この三層を分けて考えられるかどうかが、最初の分岐点になります。

ご相談をいただくと、ほとんどの院長が①の心配をされます。「十年分のカルテは全部移りますか」と。ところが実際に院内が止まる原因は、②と③に集中しています。過去カルテは最悪、前のシステムを参照用に残せば診療は回ります。しかし公費の設定が飛んでいたり、受付の入力手順が決まっていなかったりすると、切り替えた翌朝から待合室が滞ります。

層 移すもの つまずきやすい点
①診療データ 患者基本情報、病名、処方、検査結果 シェーマ・手書き所見・添付画像は形が崩れやすい
②請求まわり 保険情報、公費、労災・自賠責、継続コメント 設定が引き継がれず、切替月のレセプトで返戻が増える
③業務手順 セット登録、文書テンプレート、受付から会計までの流れ 作り直す時間を見込まず、現場が診療中に迷う

見積書に並ぶのは①と、せいぜい②の一部です。③は誰の見積にも載っていません。ここを院長ご自身が「うちの担当」と決めて時間を確保しておく。それだけで、乗り換えの体感はかなり変わります。

電子カルテのデータ移行は、どこまで引き継げるのか

※写真はイメージです

ここが最大の落とし穴です。先に申し上げると、過去カルテがそのままの見た目で新システムに入ることは、まずありません。移行できるのは、システムが項目として管理している構造化データ——患者番号、氏名、生年月日、保険情報、病名、処方歴、検査値といったものが中心です。

よくある期待

十年分のカルテが、今と同じ画面でそのまま新しい電子カルテに移る。

「全件移行」という言葉から受ける印象

実際に起きること

基本情報・病名・処方は移り、経過記録の多くはPDFや旧システムのビューアで参照する形になる。

手書き所見、シェーマ、画像の紐付けは崩れやすい

これは業者が手を抜いているのではなく、ベンダーごとにデータの持ち方が違うためです。SS-MIX2やHL7といった標準規格に対応していれば移行はしやすくなりますが、対応範囲は製品によって差があります。ですから現実的な着地は、次の三つの組み合わせになります。

  1. 構造化データは新システムへ本移行する
  2. 直近1〜2年の経過記録はPDF化して患者ごとに添付する
  3. それ以前は旧システムを参照専用で残す、または全件PDFで保管する

旧システムを参照用に残す場合、保守契約をどうするか、端末1台だけ残せるか、ライセンス料が発生するかを必ず事前に確認してください。「解約したら翌日から見られなくなった」という相談は、残念ながら実際にあります。カルテの保存義務は診療完結の日から5年ですが、実務上はそれ以上を求められる場面もありますので、参照手段は余裕をもって確保しておくのが安全です。

クラウド電子カルテの問題点として、私が必ず確認すること

乗り換え先としてクラウド型を選ぶ院が増えました。初期費用が抑えられ、法改定への対応が自動で降りてくるのは大きな利点です。ただし、クラウド電子カルテの問題点として挙げられる点は、契約前に潰しておかないと後から効いてきます。

  • 回線が落ちた時の代替手段があるか(モバイル回線の二重化、紙運用の手順書)
  • 解約時にデータをどの形式で、いくらで返してもらえるか(CSVか、PDFか、有料か)
  • 院独自のテンプレートやセット登録を、どこまで自由に作れるか
  • バージョンアップの時期をこちらで選べるか、強制適用か
  • レセコン・画像・検査機器との連携が、今の機器のままで通るか
  • サポートの受付時間と、診療時間中の電話がつながるか
  • 月額に含まれる範囲と、オプションで増える項目の内訳

特に一つ目と二つ目です。回線が止まれば診療が止まります。数年に一度あるかないかの話ですが、起きた時のダメージが大きいので、モバイルルーターを予備に置き、「紙カルテで受けて後入力する」手順を紙一枚にまとめておく。これだけで院内の緊張感がまったく違います。

そして解約条件。クラウドは月額が積み上がる契約ですから、数年後に「合わなかった」と感じた時に、身軽に次へ移れるかどうかが効いてきます。入る前に出口を確認しておく、というのは事業の基本だと考えております。

乗り換えの費用と期間は、どのくらいを見ておくべきか

※写真はイメージです

費用は構成によって幅が大きく、一概には言えません。目安として、クラウド型は初期費用が数十万円、月額でおおむね3万〜6万円台、オンプレミス型は一式で数百万円規模というご相談が多い印象です。これに加えて、見積の隅に小さく載る、あるいは載っていないのがデータ移行費用で、対象件数と項目次第で数十万円になることも珍しくありません。

むしろ院長に意識していただきたいのは、時間のほうです。

乗り換えにかかる期間の目安(着手から安定まで)

ベンダー選定・比較1〜2か月
データ移行の検証2〜3か月
テンプレート再構築約1か月
切替後の並行対応約1か月

私がお手伝いした案件からの目安です。規模・診療科・データ量で前後します。

つまり、思い立ってから落ち着くまで半年前後。「三か月後のサポート終了に合わせて」という日程は、正直かなり厳しい。サポート終了の通知が来たら、その日に動き出すくらいでちょうどよいと考えております。あわせて、切り替え月は診療がわずかに落ちる前提で資金繰りを見ておくと安心です。毎月の数字を定点で追う仕組みがまだない院は、クリニック経営の指標7つ|毎月見る数字表の作り方もあわせてご覧ください。

私がお伝えしている、乗り換えの6ステップ

順番を守るだけで、事故はかなり減ります。

  1. 不満の言語化から始める
    「使いにくい」で製品を探すと、また同じことになります。入力に何秒かかるのか、どの動線で詰まるのか。スタッフに一週間、気づいたことを書き出してもらってから比較検討に入ります。
  2. 移行仕様を新旧ベンダーと同じ場で握る
    どの項目を、何件、どの形式で渡すのか。旧ベンダーの協力度合いで難易度が変わります。口頭ではなく、対象項目の一覧を紙にして三者で確認します。
  3. テスト移行して、自分の目で見る
    本番前に必ず試験移行を行い、院長ご自身が10〜20人分のカルテを新旧で見比べてください。ここで見つかる不整合が、本番後のクレームの大半を先取りできます。
  4. テンプレートとセット登録を作り直す
    ここが③の層です。よく使う処方・文書・所見の型を、切替前に作り込んでおく。当日に間に合わせで作ると、その形が数年残ります。
  5. 切替日を「暇な日」に置く
    連休明けや月初は避ける。レセプト業務が月をまたがない日程を組み、切替後2週間は予約枠を1〜2割抑える。これは減収ではなく保険です。
  6. 切替後1か月のレセプトを点検する
    返戻・査定は必ず増える前提で、初回の請求を通常より丁寧に確認します。設定漏れはここで一気に見つかります。

乗り換えで後悔しやすい3つのパターン

最後に、私が実際に見てきた「うまくいかなかった」ケースの共通点を挙げます。

一つ目は、院長が比較検討を一人で完結させてしまうこと。電子カルテを一日中触るのは、院長よりも受付と看護スタッフです。デモには必ず現場の代表に同席してもらい、「自分たちが選んだ」という手触りを持ってもらう。導入後の不満の量が明らかに変わります。切り替え期は院内が疲れる時期でもありますので、院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因で触れた「決める前に相談する」姿勢が、そのまま効いてきます。

二つ目は、値引きの大きさで決めてしまうこと。初期費用を大きく引いた提案は、月額やオプション、保守で回収する設計になっていることがあります。5年間の総額に引き直して比べる。これは業者の良し悪しではなく、こちらの見方の問題です。提案を受ける側の姿勢については、開業コンサルは悪徳か|必要性の判断と見分け方・費用の目安で書いた考え方と同じだと思っております。

三つ目は、乗り換えを「今の不便の解消」だけで考えること。これから数年、記録のあり方は確実に動きます。音声入力や要約の仕組みをどう載せていくかまで視野に入れて選んでおくと、次の入れ替えまでの期間が延びます。私自身の使い方は生成AIをクリニックで活用する7つの場面にまとめました。

電子カルテの乗り換えは、決して軽い作業ではありません。ただ、順番を守り、テスト移行を自分の目で確認し、切替日を無理のない日に置く。この三つを外さなければ、大きな事故にはなりにくいというのが私の見立てです。判断に迷われる場面があれば、契約書の条件面は顧問の税理士や弁護士にも一度目を通していただくことをおすすめします。

よくある質問

Q. 電子カルテを乗り換えると、過去のカルテは全部見られなくなりますか

A. いいえ。基本情報や処方などは移行でき、経過記録はPDF化や旧システムの参照用保管で残せます。解約後も参照できるか、契約前の確認が必須です。

Q. 電子カルテのデータ移行にはどのくらい費用がかかりますか

A. 対象件数と項目次第ですが、数十万円規模になるご相談が多い印象です。見積に含まれない場合があるため、項目一覧を出して個別に確認してください。

Q. クラウド電子カルテの問題点は何ですか

A. 回線障害時に診療が止まる点、月額が積み上がる点、解約時のデータ返却形式、カスタマイズの制約です。予備回線と紙運用の手順を用意しておくと安心です。

Q. 乗り換えの切替日はいつがよいですか

A. 連休明けと月初は避け、レセプト業務が月をまたがない日程が無難です。切替後2週間は予約枠を1〜2割抑えると、現場の負担が大きく減ります。

今の経営課題を整理したい先生へ

採用・集患・お金の残り方・将来の承継など、お悩みを書き出せるヒアリングシートも用意しております。内容を拝見し、私から率直な見立てをお返しします。

経営課題ヒアリングシートを開く

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

目次