開業医の節税でNGな5つ|税務調査で指摘されるパターン

この記事の結論

  • NGの境目は手段ではなく事業関連性を説明できるか
  • 家族給与・MS法人委託料・生活費の経費化が指摘の定番
  • 仮装隠蔽とされると重加算税35%が上乗せされます

「決算対策に、この保険はいかがですか」「奥様に給与を出せば所得が分散できます」。決算期が近づくと、院長のもとにはこうした話が集まってまいります。私自身も整形外科医として診療をしながら複数の法人を経営しておりますので、税負担の重さも、目の前の提案に気持ちが動く感覚も、正直よく分かります。

ただ、経営改善のご相談をいただいた医療機関で、数年前の「節税」が追徴課税という形になって資金繰りを直撃している場面を、私は何度も見てまいりました。結論を先に申し上げます。開業医の節税でNGになるかどうかの境目は、手段の名前ではありません。その支出や契約が診療という事業とどう結びついているのかを、第三者に説明できるかどうかです。この記事では、税務調査で指摘されやすい5つのパターンと、危ない節税の見分け方、そして明日からの見直し手順をお伝えします。なお税制は毎年のように変わりますので、以下は2026年時点の一般論として読んでいただき、個別の判断は必ず顧問税理士にご確認ください。

目次

開業医の節税でNGになるのはどこからですか

開業医のNG節税とは、税法上の根拠や診療との関連性を説明できないまま、税負担を減らすことだけを目的として行う経理処理や契約のことです。逆に言えば、同じ「家族に給与を払う」という行為でも、実態と根拠があればまったく問題になりませんし、なければ否認されます。手段の善悪ではなく、実態の有無で分かれます。

整理すると、開業医の節税はおおむね三層に分かれます。

ひとつ目は、制度が最初から用意している枠です。小規模企業共済、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)、iDeCo、青色申告特別控除、そして社会保険診療報酬の概算経費特例(いわゆる措置法26条)などがこれにあたります。要件を満たすかどうかの判断は必要ですが、使うこと自体が咎められる性質のものではありません。ただし適用要件や上限額は改正されますので、その年の最新の内容を確認してください。

ふたつ目は、金額の妥当性が問われる領域です。家族への給与、MS法人(メディカルサービス法人=院長の医療以外の業務を担う会社)への業務委託料、社宅、車両、交際費などが典型です。ここは「やってよいかどうか」ではなく「その金額が妥当かどうか」で争われます。

三つ目は、仮装や隠蔽と評価される領域です。自費診療の売上を計上しない、実際にない外注費を計上する、といったものはもはや節税ではありません。ここに足を踏み入れると、後述する重加算税の対象になります。

よくある誤解

税理士が決算書に載せてくれたのだから、その経費は税務署にも認められたということだ。

申告は自主申告が原則です

実際のところ

申告した時点では誰も可否を判断していません。適否が問われるのは数年後の調査の場であり、説明責任は院長本人に残ります。

資料を残すのは調査の日のためです

税務調査で指摘されやすい開業医のNG節税5つ

※写真はイメージです

1.勤務実態のない家族への給与

もっとも相談が多いのがこれです。配偶者やご両親に月30万円、年間360万円の給与を出しているものの、実際の業務内容を伺うと「たまに書類を見てもらっている」程度、というケースです。調査官が確認するのは、勤務時間、業務内容、他の職員と比べた金額の釣り合い、そしてタイムカードや業務記録が家族分も残っているかどうかです。第三者を同じ条件で雇ったらいくら払うかという基準に照らして、説明できる水準に収める必要があります。金額の考え方は開業医の妻に役員報酬を払う正しい形でも整理しておりますので、あわせてご覧ください。

2.MS法人への根拠のない業務委託料

MS法人自体は違法なものではありません。問題になるのは、契約書はあるのに業務の実体が伴っておらず、委託料の算定根拠も示せない場合です。「毎月200万円」といった丸めた固定額で、業務報告書も請求明細も残っていない形は、利益移転とみなされやすくなります。委託業務の範囲、単価の根拠、外部に頼んだ場合の相場との比較、この三点を書面で残せているかが分かれ目です。

3.生活費の経費化

車両、交際費、旅行、通信費あたりが定番です。とくに高級車の全額経費計上と、学会出張に家族旅行が混ざっている経費は目に留まりやすい項目です。車であれば走行記録と按分割合、学会であれば参加証やプログラムの保存で、事業性を説明できる形にしておく。按分の基準は毎期同じルールで運用することが大切で、年によって割合が動くと合理性を疑われます。

4.出口を決めていない節税商品

保険やオペレーティングリースの多くは、減税ではなく課税の繰延です。今期の所得は圧縮できても、解約返戻金や償還益が戻ってきた期に利益が立ちます。退職金の支給時期や設備投資の時期と重ねる出口設計がないまま契約すると、数年後に「使えない資金が寝ているうえに、戻ってきた年に課税される」という状態になります。これは否認されないタイプの失敗ですが、資金繰りを痛める点では追徴と変わりません。

5.自費診療の計上もれと期ずれ

自費のリハビリ、診断書、健診、物販などは現金取引が混ざりやすく、日計表・レセコン・預金入金の三者が一致しているかを必ず見られます。意図がなくても、院長個人の口座に窓口現金が入っていた、といった経理は疑いを招きます。決算期末に売上の計上を翌期に送る「期ずれ」も、繰り返していると仮装と評価される危険があります。

項目 指摘されやすい形 説明できる形
家族給与 勤務記録なし・職務不明の高額固定 業務内容と勤務時間の記録、他職員との整合
MS法人委託料 丸めた固定額、報告書なし 業務範囲・単価根拠・毎月の業務報告
車両・交際費 全額経費、相手先の記載なし 走行記録と按分基準、領収書に相手先と目的
保険・リース 出口の時期を決めていない 退職金や設備投資の時期と紐づけ
自費収入 現金の管理が院長個人任せ 日計表・レセコン・入金の三者一致

なぜ税務調査で見つかるのですか

「うちの規模なら来ないだろう」とおっしゃる先生は多いのですが、税務署が見ているのは規模だけではありません。私が伺う限り、開業医の情報は主に三つの経路から集まっています。

ひとつは、取引の相手方から届く情報です。保険会社、リース会社、不動産業者、医療機器メーカーなどから支払や契約の情報が渡ります。院長側が経費にしている支出は、相手方では収入として記録されている、という当たり前の構造です。

ふたつ目は反面調査です。MS法人への委託料が問題になれば、MS法人側の帳簿と突き合わせが行われます。両者の記録が食い違えば、そこが論点になります。

三つ目は同業比較です。同じ診療科・同じ規模の医療機関と比べて、特定の経費率だけが突出していると目に留まりやすくなります。人件費率や委託費率がどのあたりに位置しているかは、クリニック経営の指標7つのように毎月の数字表で自院を把握しておくと、自然と気づけるようになります。

  • 家族従業員の1週間の勤務時間と具体的な業務を、その場で即答できる
  • タイムカードや業務日報が、家族分についても残っている
  • MS法人との契約書に、業務内容と料金の算定根拠が書かれている
  • MS法人からの業務報告書と請求明細が、毎月保存されている
  • 自費診療の売上が、日計表・レセコン・預金入金で一致している
  • 学会出張の旅費に、参加証やプログラムが添付されている
  • 車両について、走行記録など按分の根拠がある
  • 交際費の領収書に、相手先と目的が記入されている
  • 診療所の窓口現金が、院長個人の口座に直接入っていない

節税に失敗する医師に共通する3つの考え方

※写真はイメージです

節税で失敗される先生に、経営能力の問題があるわけではありません。むしろ真面目な方ほど、次の三つに当てはまりやすいという印象を持っております。

ひとつ目は、手取りではなく税額だけを見てしまうことです。100万円の税金を減らすために300万円を支出すれば、手元のお金は200万円減ります。判断すべきは税額ではなく、数年先までの手元資金です。

ふたつ目は、繰延を減税と取り違えることです。前述のとおり、多くの節税商品は課税の時期を動かしているだけです。出口の年に何が起きるかを一度紙に書けば、契約するかどうかの判断は変わってきます。

三つ目は、提案してくれた方に判断を預けてしまうことです。診療で手一杯の中、詳しい方の言葉に任せたくなる気持ちは分かります。ただ、調査の場で説明を求められるのは院長本人です。少なくとも「なぜこの支出が診療に必要なのか」を自分の言葉で言えるかどうかは、契約前に確認しておきたいところです。

そして、指摘を受けたときの負担は、本税だけでは終わりません。

指摘された場合に上乗せされる加算税の率(原則)

過少申告加算税10%
無申告加算税15%
重加算税(申告あり)35%
重加算税(無申告)45%

2026年時点の原則的な率の目安です。金額帯による加重や、自主的な修正申告による軽減の定めがあり、実際にはこれに延滞税が加わります。税率・要件は改正されますので、最新の内容を税理士にご確認ください。

本税に加えてこの水準が上乗せされ、しかも複数年分をまとめて求められるのが通常です。数百万円単位の一括支出が突然発生すると考えれば、目先の節税額と釣り合うものではないと分かっていただけると思います。

危ない節税を見分ける3つの問い

提案を受けたその場で判断するために、私は次の三つを自分に問うようにしております。

  1. これは誰の、どんな業務に対する対価か、口頭で30秒説明できるか。説明が「節税になるから」で始まってしまう支出は、事業との関連性が薄い可能性が高いと考えます。
  2. 3年後、5年後にお金はどう動くか。戻ってくる年に何の費用をぶつけるのかまで決まっていない繰延商品は、いったん保留にします。
  3. 同じ内容を、家族ではない第三者と契約するとしたら同じ金額を払うか。払わないのであれば、その差額が論点になります。

この三つに答えられる形に整えていくと、結果として法人化やMS法人の設計そのものを見直すべきだと気づく場合もあります。そもそも法人化が自院に合っているかという論点は、開業医が法人化しないメリットで判断基準を整理しております。

明日からできる見直しの手順

すでに走っている契約や経理を、いきなり全部やり直す必要はありません。順番があります。

  1. 直近3期分を並べる
    決算書と総勘定元帳を出し、経費のうち「根拠となる紙が残っていないもの」に印をつけます。印の数が、今の説明力の現在地です。
  2. 家族給与の実態を書き出す
    業務内容、1週間の勤務時間、記録の有無、第三者に頼んだ場合の金額。この4点をA4一枚にまとめます。書けない項目があれば、そこが是正対象です。
  3. MS法人の契約書と報告書を突き合わせる
    契約書に書かれた業務が実際に行われ、毎月の報告と請求が残っているかを確認します。金額の根拠が説明できなければ、契約内容のほうを実態に合わせて作り直します。
  4. 私費と事業費の線引きを文書化する
    車両、交際費、旅費、通信費の按分基準を1枚のルールにし、翌期から同じ運用を続けます。基準が固定されていること自体が説明材料になります。
  5. 顧問税理士に調査想定で質問する
    「この経費を調査で聞かれたら、どう答えますか」と項目ごとに尋ねてみてください。答えに詰まる項目こそ、先に手を打つべき箇所です。

節税は、経営を良くするための手段のひとつにすぎません。私がお手伝いしている医療機関でも、最終的に効いてくるのは、税金を1円減らす工夫よりも、診療単価や人件費率といった本業の数字を1%動かす積み重ねのほうです。危ない節税に時間と資金を使うより、説明できる形に整えたうえで、本業の改善にエネルギーを向けていただければと思います。個別の適否については、必ず顧問税理士にご確認ください。

よくある質問

Q. 開業医が妻に給与を払うのはNGですか

A. 支払うこと自体は問題ありません。勤務時間や業務内容の記録があり、第三者を同条件で雇う場合と釣り合う金額かどうかで判断されます。実態と記録がない高額給与が否認の対象です。

Q. MS法人への業務委託は税務調査で否認されますか

A. MS法人自体は違法ではありません。否認されやすいのは、業務の実体が乏しく委託料の算定根拠や毎月の業務報告が残っていない場合です。契約内容を実態に合わせることが先決です。

Q. 節税保険は入らないほうがよいですか

A. 一律にNGではありませんが、多くは減税ではなく課税の繰延です。解約返戻金が戻る年に退職金や設備投資をぶつける出口設計がないまま契約すると、資金繰りを痛めます。

Q. 税務調査は開業医に何年おきに来ますか

A. 頻度は一律に決まっておらず、規模や取引情報、同業比較などから選定されます。頻度を気にするより、経費の根拠資料を常時残しておく体制のほうが実効性があります。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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