療養病床から介護医療院へ転換|損益はどう変わるか60床で試算

この記事の結論

  • 単価は下がるが稼働率と人件費で逆転しうる
  • 分岐点は医療区分2・3の比率と実稼働率
  • 決め手は病床あたりの年間営業利益で比べること

「療養病床を介護医療院に転換したほうがいいのか、判断がつかない」というご相談を、毎月のようにいただきます。単価が下がることは分かる。人員基準が緩むことも分かる。ただ、では最終的に手元に残る利益が増えるのか減るのか、そこが見えないまま数年が過ぎている――というお話が、本当に多いのです。

先に結論をお伝えします。療養病床から介護医療院への転換は、1日あたりの単価だけを見ると必ず下がります。しかし判断すべきは単価ではなく、病床あたりの年間営業利益です。そして分岐点は、ほぼ2つの数字に集約されます。医療区分2・3の患者さんの比率と、実際の稼働率です。この2つが低いほど、転換は有利に働きます。

私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人を経営し、病院・クリニックの経営改善や再生のお手伝いをしております。その中で療養病床の出口を一緒に考える機会も増えてまいりました。この記事では、実際の相談で私が使っている試算の組み立て方を、60床のモデルでお示しします。数値はいずれも2026年時点の一般的な目安であり、地域区分・加算の取得状況・人件費水準で相当に振れることを、はじめにお断りしておきます。

目次

療養病床から介護医療院への転換とは、そもそも何を変える選択か

介護医療院とは、長期にわたる療養が必要な方に対して、医療的な管理と介護、そして「生活の場」としての住まいを一体で提供する、介護保険上の施設です。2018年に創設され、2024年3月末で経過措置が終了した介護療養病床の受け皿として整備されてきました。

ここで整理が必要なのは、今なお転換を検討している病院の多くが持っているのは「医療保険の医療療養病床」だという点です。介護療養病床はすでに制度として終了しておりますので、現在議論になっているのは医療療養病床から介護医療院への転換である、という前提を押さえておくと話が早くなります。

転換で変わるのは、大きく次の3つです。

項目 医療療養病床 介護医療院(I型)
財源 医療保険(診療報酬) 介護保険(介護報酬)
収入の形 入院基本料+加算(医療区分・ADL区分で変動) 日額の施設サービス費+各種加算+食費・居住費の自己負担
人員配置(目安) 医師48:1相当、看護20:1、看護補助20:1 医師48:1、看護6:1、介護5:1〜4:1
療養室 1人あたり6.4㎡以上 定員4人以下・1人あたり8.0㎡以上(転換時は経過措置あり)
位置づけ 病院・病床 介護保険施設(住まい)

表の最後の行が、実は経営上いちばん効いてきます。介護医療院は「住まい」ですので、食費・居住費が利用者負担として別建てで入ります。診療報酬の入院料に含まれていた部分が、外に出て収入として立つわけです。ここを見落として「単価が◯千円下がるから減収だ」と結論を出してしまうと、判断を誤ります。

転換で損益はどう変わるか|60床モデルで試算する

※写真はイメージです

では具体的に見ていきます。60床の療養病棟を持つ病院を想定し、転換前後を並べます。数値は目安であり、実際の判断はご自身の直近12か月の実績値に置き換えてください。

項目 医療療養病床(現状) 介護医療院I型(転換後)
病床・定員 60床 60床
稼働率 88% 96%
1日あたり単価(目安) 約21,000円 約17,500円(食費・居住費を含む)
年間収入 約4.05億円 約3.68億円
人件費 約2.35億円 約1.90億円
その他経費(給食・委託・減価償却等) 約0.95億円 約0.95億円
営業利益 約0.75億円 約0.83億円

収入は約3,700万円落ちます。それでも営業利益が増えているのは、次の2点によります。

  1. 人件費が年4,000万円台で下がる。看護20:1から看護6:1・介護4〜5:1へ移ることで、看護師の必要数が減り、単価の異なる介護職に置き換わります。60床規模では看護職を6〜8名相当減らせるケースが多く、これが差の大半をつくります。
  2. 稼働率が上がる。医療療養では医療区分の要件や在院日数の管理が常につきまといますが、介護医療院は生活の場ですので、長期の入所が前提です。空床が生まれにくく、稼働率90%台後半で安定させやすい構造にあります。

この「単価は下がるのに利益は増えうる」という構図が、療養病床 転換 損益を考えるときの出発点になります。

60床モデルの年間営業利益(目安)

医療療養(稼働88%)約7,500万円
介護医療院I型(稼働96%)約8,300万円
医療療養(稼働78%に低下)約2,900万円

目安。人件費・その他経費は固定と仮定した単純試算です。加算の取得状況、地域区分、給与水準で結果は大きく変わります。

3本目の棒を見ていただきたいのです。医療療養のまま稼働率が10ポイント落ちると、利益は3分の1近くまで縮みます。人件費が固定費として重くのしかかるためです。介護医療院への転換は「収入を増やす打ち手」ではなく、この下振れリスクを構造的に小さくする打ち手だと理解すると、位置づけがはっきりします。

よくある誤解

介護医療院は診療報酬より単価が低いので、転換すれば必ず減収・減益になる

1日あたりの入院単価だけを比べた判断

実際に見るべきこと

比べるのは「1床あたりの年間営業利益」。単価×稼働率×365から人件費と経費を引いた後の数字で並べる

食費・居住費の自己負担分と、人件費の削減幅を必ず織り込む

転換が有利になるのはどんな病院か|分岐点は医療区分と稼働率

とはいえ、すべての療養病床が転換すべきという話ではまったくありません。私がご相談を受けたとき、最初に確認するのは次の項目です。

  • 医療区分2・3の患者さんの比率が、直近1年で低下傾向にある
  • 病棟の実稼働率が90%を下回る月が年に何度もある
  • 看護師の採用が慢性的に難しく、夜勤体制の維持に無理が出ている
  • 入院患者さんの平均在院日数が長期化し、実態は「生活の場」に近い
  • 退院支援をしても地域に受け皿がなく、行き先が見つからない
  • 療養室の面積が1人8.0㎡を満たすか、経過措置で対応できる見通しがある
  • 市町村の介護保険事業計画に、介護医療院の整備が位置づけられている

該当が5つ以上であれば、私は転換の試算を本格的に始めることをおすすめしています。逆に、医療区分2・3が8割前後で安定し、稼働率も95%前後で維持できている病棟は、無理に動かないほうがよいというのが私の見立てです。その状態の療養病棟は収益性が高く、転換すれば単価の低下を人件費削減で埋めきれない可能性が高いためです。

もう一点、見落とされがちなのが最後の項目です。介護医療院は介護保険施設ですので、開設には都道府県の許可が必要で、市町村の介護保険事業計画との整合が問われます。地域の総量規制に触れれば、経営試算が良くても前に進みません。構想の初期段階で自治体の担当部署に相談しておくことを強くおすすめします。

介護医療院の収益を落とさない3つの実務ポイント

※写真はイメージです

転換後に「思ったより残らない」となる病院には、共通点があります。介護医療院 収益を設計どおりに出すには、次の3点が要になります。

1. 加算を取り切る体制を、転換前に組む

介護報酬は基本サービス費だけを見ると低く感じますが、実際の収益は加算の積み上げで決まります。栄養マネジメント、口腔衛生管理、排せつ支援、自立支援促進、科学的介護情報システムへの提出に関する評価など、算定できる項目は幅があります。これらは記録と多職種の会議体が要件になりますので、転換してから慌てて整えるのでは半年以上を失います。開設前から様式と担当者を決めておくことです。

2. 入所の入口を、病院の外に作る

医療療養時代は自院の急性期病棟からの転棟が主な入口だったと思います。介護医療院になると、居宅介護支援事業所のケアマネジャー、地域包括支援センター、他院の医療連携室が入口になります。ここを転換と同時に開拓しないと、稼働率96%という前提が崩れます。転換の6か月前から地域の連携先へ説明に回る、というのが私の実感としてぎりぎりのラインです。

3. 移行期の資金繰りを別枠で見ておく

改修工事の期間は病床を止める、あるいは減らすことになります。加えて、医療保険から介護保険へ移ると入金サイクルが変わり、報酬の受け取りが一時的に空白になる月が生じます。私は最低でも月商の3か月分を移行用の運転資金として別枠で確保することをお願いしております。この考え方は規模が違っても同じで、資金繰りが苦しい時に見る3つの数字の整理が、そのまま使えます。

転換の進め方|6つのステップ

実際の手順です。私が伴走する場合、概ねこの順序で進めます。全体で1年半から2年をみておくのが現実的です。

  1. 現状の数字を12か月分そろえる
    病床稼働率、医療区分別の患者構成、1床あたり月次収入、職種別人件費。ここが曖昧なまま試算しても意味がありません。数字の並べ方は毎月見る経営指標の作り方の考え方が病院規模でも通用します。
  2. 自治体に事前相談する
    介護保険事業計画上の整備枠、総量規制、協議の時期を確認します。ここで枠がなければ、計画期の切り替わりを待つ判断もあります。
  3. 2案以上で損益を試算する
    全床転換、一部転換(ケアミックス)、現状維持の3案を必ず並べます。一部転換は医療と介護の両方の入口を残せる反面、人員配置が複雑になり管理コストが上がります。
  4. 建物・設備の要件を確認する
    療養室面積、多床室のプライバシー確保、談話室・食堂・浴室の基準。改修費の概算と、地域医療介護総合確保基金など活用しうる支援制度を並行して調べます。
  5. 人員計画を作り直す
    看護職の配置転換と介護職の採用計画を、転換日から逆算します。看護師の雇用をどう守るかは最もセンシティブな論点で、系列施設への異動や外来・訪問部門の新設も含めて早めに設計します。必要人数の考え方は適正人数の計算方法の枠組みが参考になります。
  6. 開設許可申請と地域への周知
    申請書類の準備と並行して、ケアマネジャー・地域包括・近隣医療機関への説明を回ります。開設日に満床でスタートできるかどうかは、この期間の動きで決まります。

転換の判断で、最後に立ち返る問い

数字を並べたあとで、私が必ずご一緒に確認することがあります。「この病棟に、10年後も患者さんは来るか」という問いです。

療養病床の入院単価は、診療報酬改定のたびに医療の必要度への傾斜が強まってきました。2026年度の改定でもその方向は変わらないとみておくのが安全です。一方で介護医療院の報酬も、2027年度の介護報酬改定を含め、今後動きます。どちらを選んでも制度リスクからは逃れられません。

ですから判断の軸は「どちらが得か」ではなく、「自院の患者さんと職員が、どちらの形でなら10年続けられるか」に置くのが結局のところ健全です。医療の必要度が高い方が集まる地域なら医療療養で磨き込む。生活の場を必要とする方が待っている地域なら、介護医療院へ移る。そのうえで損益試算が耐えられるかを確認する、という順序です。

試算のフォーマットや医療区分別の構成の見方など、具体的な部分でお困りでしたら、私が主宰する医師のコミュニティでも同じ論点をよく扱っております。ひとりで抱え込まず、同じ悩みを通った院長の話を聞くところから始めていただければと思います。

※本記事の数値は2026年時点の一般的な目安です。診療報酬・介護報酬および人員・施設基準は改定されますので、最終的な判断にあたっては最新の告示と、自治体および税理士・社会保険労務士など専門家への確認をお願いいたします。

よくある質問

Q. 療養病床を介護医療院に転換すると減収になりますか

A. 1日あたり単価は下がりますが、食費・居住費が別収入となり、人件費と稼働率の改善で営業利益は増える場合があります。単価ではなく1床あたり年間利益で比較してください。

Q. 転換にはどれくらいの期間がかかりますか

A. 自治体への事前相談から開設まで、一般に1年半から2年が目安です。療養室の改修が必要な場合はさらに延びます。人員計画と地域への周知は6か月以上前から始めます。

Q. 介護療養病床はもう存在しないのですか

A. 介護療養病床は経過措置が2024年3月末で終了しています。現在、転換の検討対象となるのは主に医療保険の医療療養病床です。

Q. 転換しないほうがよいのはどんな病院ですか

A. 医療区分2・3の比率が8割前後で安定し、稼働率も95%前後を維持できている療養病棟です。収益性が高く、単価低下を人件費削減で埋めきれない可能性があります。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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