病院統合が失敗する5つの理由|民間中小病院が陥る落とし穴と対策

この記事の結論

  • 病院統合の失敗は、統合の是非より統合後18〜24か月の設計不足で起きます
  • 人件費は高い方の待遇に合わせるため、当面は下がりません
  • 統合1年目は中堅職員の離職を前提に採用計画を組みます

「近隣の病院と統合する話が進んでいるが、本当にうまくいくのか」。病院統合が失敗すると、統合前の二つの病院より弱い組織が残ってしまいます。私は整形外科医として診療を続けながら、複数の法人の経営と、経営が傾いた病院・クリニックの立て直しのお手伝いをしております。その経験からお伝えすると、失敗の原因はほとんどが「統合すべきかどうか」ではなく、「統合後の18〜24か月をどう設計したか」にあります。この記事では民間中小病院の視点で、統合が失敗する五つの落とし穴と、契約前に確認していただきたい数字を整理してお伝えします。

目次

病院統合とは何か、なぜ失敗が起きるのか

病院統合とは、二つ以上の病院が経営主体や診療機能を一つにまとめ、病床・人員・設備・システムを再編することです。医療法人同士の合併、事業譲渡、持分の取得、あるいは法人はそのままで診療機能だけを分担する連携型など、形はいくつかあります。

統合の話が持ち上がる背景は、おおむね共通しております。医師の確保が難しい、当直が回らない、病床稼働が上がらない、建て替えの投資額が単独では重すぎる。どれも切実な事情であり、統合という選択肢そのものは決して間違いではありません。

ただ、私が相談を受ける中で多いのは、統合の「効果」だけが数字で語られ、統合の「費用」と「時間」が見積もられていないケースです。規模拡大による効果は資料に載りますが、システム統合の費用、離職に伴う採用コスト、重複した管理部門を一本化するまでの期間は、なぜか資料に載りません。ここが失敗の入口になります。

なお、医療法人同士の合併には所轄庁(都道府県知事)の認可が必要とされており、手続きにも相応の期間を要します。2026年時点でも地域医療構想や診療報酬をめぐる見直しの議論は続いておりますので、具体的な要件と前提数値は、最新の制度と所轄の担当課で必ずご確認ください。

病院統合のデメリットは何ですか|失敗を招く5つの落とし穴

※写真はイメージです

「病院 統合 デメリット」と調べられる方が気にされている点を、私なりに五つに整理しました。期待されていることと、実際に起きやすいことを並べます。

項目 統合で期待されること 実際に起きやすいこと
人件費 管理部門の重複が解消され人件費率が下がる 待遇は高い方に合わせざるを得ず、当面は上がる
職員 規模が大きくなり採用しやすくなる 統合1年目に中堅層が抜け、採用が追いつかない
システム 電子カルテを統一して効率化できる 統一費用と教育負荷が数年分の効果を先に食う
診療機能 重複する科を集約し稼働が上がる 「どちらを残すか」が決まらず両方残る
意思決定 経営基盤が安定し判断が速くなる 決裁者が二人並立し、何も決まらない期間ができる

特に重いのは、人件費と意思決定です。給与表・退職金規程・住宅手当を一本化するとき、低い方に合わせて引き下げることは実務上ほとんどできません。高い方に寄せる前提で試算してください。人件費率は一般に中小病院で50〜60%程度といわれますが、これが統合直後に1ポイント上振れするだけでも、医業収益20億円の病院なら年2,000万円の差になります。

意思決定については、統合日より前に「最終決裁者は誰か」を紙に落としておくことをお勧めします。旧A病院と旧B病院の代表が対等に並んだまま走り出すと、投資も人事も止まります。止まっている間にも、職員は答えを待っております。

病院統合で職員が辞めるのはなぜか

「病院 統合 職員」というキーワードで検索される方は、おそらく現場の空気に不安を感じておられるのだと思います。統合で最初に動くのは数字ではなく人です。

よくある想定

統合すれば規模が大きくなり、給与も休みも良くなるのだから、職員は歓迎してくれるはずだ

経営側から見た景色

実際に起きること

待遇差が可視化され、役職が重複し、電子カルテとシフトが変わる。説明が遅れるほど噂が先に回る

現場から見た景色

職員が辞める理由は、私が伺ってきた範囲では次のあたりに集中します。第一に、統合で初めて両院の給与差・手当差が見えてしまうこと。第二に、師長・主任・事務長といった役職が重複し、片方が実質降格になること。第三に、就業規則や勤務シフトの変更で生活設計が崩れること。第四に、電子カルテや部門システムの入れ替えによる残業増。そして最後に、「どちらの病院の出身か」という見えないラベルが残ることです。

看護職の常勤離職率は全国的に10%台前半で推移しているといわれます。統合の年は、ここに数ポイント上乗せされる前提で採用計画を組んでおくのが安全です。中堅看護師をひとり採用し直すコストは、紹介手数料と立ち上がりまでの期間を含めれば100万円単位になりますから、離職の抑制はそのまま経営数値の話でもあります。統合の有無にかかわらず、この土台については院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因で整理しておりますので、あわせてご覧ください。

契約前に確認したい数字|統合で下がる費用と下がらない費用

※写真はイメージです

統合の効果を検討するときは、費用のどこにスケールメリットが効くのかを先に押さえます。

中小病院の費用構造(医業収益に対する比率・目安)

人件費約55%
医薬品・診療材料費約20%
委託費・設備関係費約18%
減価償却費約6%

一般に中小病院の人件費率は50〜60%程度といわれます。数値はあくまで目安で、診療科構成や委託範囲によって大きく変わります。

この図でお伝えしたいのは一点です。統合による規模のメリットが素直に効くのは、医薬品・診療材料費と委託費、合わせて4割弱の部分であり、最も大きい人件費は短期では下がらないということです。「統合すれば人件費率が改善する」という前提で組まれた事業計画は、私は一度立ち止まって見直していただくようにしております。

あわせて、相手方の数字は最低でも直近3期分を確認します。医業利益、病床稼働率、平均在院日数、外来単価、借入残高と残返済年数、退職給付に関わる負担、そして未払残業やリース残債といった表に出にくい負担です。日常的に追う数字の作り方はクリニック経営の指標7つ|毎月見る数字表の作り方で書いた考え方が、病院規模でもそのまま応用できます。

失敗を減らす進め方|統合を決める前の5ステップ

  1. 単独で続けた場合の5年計画を先に作る
    比較対象がないと、統合案は常に魅力的に見えます。まず「統合しない未来」を数字で描いてから並べてください。
  2. 相手の数字を悪い前提で引き直す
    提示された計画を、稼働率マイナス5ポイント、常勤医1名減で再計算します。それでも成立するかが判断軸です。
  3. 統合後の組織図と決裁権限を紙にする
    理事長、院長、看護部長、事務長を誰にするか。統合日ではなく、合意の前に決めます。
  4. 人事・給与の一本化コストを金額で出す
    高い方の水準に寄せた場合の年間増額、退職金規程の差、想定離職に伴う採用費まで含めて一枚にまとめます。
  5. 職員への説明を、決定と同時に、同じ言葉で
    両院で説明会の日と資料を揃えます。片方が先に知る状態が、最も不信を生みます。

それでも統合を選ぶかどうかの判断

統合は目的ではなく手段です。当直と病床稼働の問題であれば、連携型の機能分担や、非常勤体制の見直しで足りることもあります。判断の前に、次の点をご確認ください。

  • 統合しない場合の5年後の資金繰りを、数字で説明できる
  • 統合後の最終決裁者が一人に決まっている
  • 給与・退職金の一本化コストを年額で把握している
  • 電子カルテ等システム統合の費用と移行期間の見積もりがある
  • 両院の管理職(師長・主任クラス)と個別に話ができている
  • 相手方の未払残業・リース残債・係争の有無を確認している
  • 統合1年目の離職増を織り込んだ採用計画がある

このうち三つ以上が「まだ」であれば、合意を急がず準備に時間を充てる方が、結果的に早いと私は考えております。外部のアドバイザーを入れる場合も、統合を成立させること自体が報酬要件になっていないかは確認しておきたいところです。支援者の見極め方については開業コンサルは悪徳か|必要性の判断と見分け方・費用の目安で述べた基準が参考になるかと思います。

私自身、経営の傾いた医療機関に関わるたびに感じるのは、統合そのものが病院を救うのではなく、統合後に誰がどう決めるかが救うのだということです。制度や税務の個別判断は顧問の専門家にご確認いただきつつ、まずは自院の数字を並べるところから始めていただければと思います。

よくある質問

Q. 病院統合で職員はどれくらい辞めますか?

A. 一律の目安はありませんが、看護職の常勤離職率は全国的に10%台前半といわれます。統合の年はここに数ポイント上乗せされる前提で採用計画を組むと安全です。

Q. 病院統合のデメリットは何ですか?

A. 人件費が高い方に揃う、システム統合費用がかさむ、決裁者が並立する、重複科の整理が進まない、中堅職員が離職する、の五つが代表的です。効果より先に費用と期間を見積もってください。

Q. 病院統合にはどれくらい期間がかかりますか?

A. 医療法人の合併は所轄庁の認可が必要で、準備から組織の一本化まで18〜24か月程度を見込む例が多いと感じます。要件は最新の医療法と所轄庁にご確認ください。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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