この記事の結論
- 赤字の原因は患者数より費用構造の崩れにある
- 人件費率・病床稼働率・診療単価の順に点検する
- 医業損益と医業キャッシュフローを最終利益と分けて見る
毎月の試算表を開くたびに、医業損益の行が赤字のまま並んでいる。補助金でなんとか最終利益は保っているけれど、本業では負けている。そうしたご相談を、私は毎月のようにいただいております。病院経営が赤字になる原因は、多くの場合「患者が減ったから」ではありません。人件費率・病床稼働率・診療単価という3つの数字のどれかが、自院の今の規模や機能と合わなくなっているだけです。結論から申し上げると、手を付ける順番は「人件費率の分解」「病床の使い方の見直し」「算定漏れの点検」です。
私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と、中小病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。ここでは実際に数字を見てきた立場から、赤字構造の切り分け方をお伝えします。
病院の赤字割合はどのくらいなのか
まず前提として、赤字は自院だけの問題ではありません。各種の病院経営実態調査では、医業損益が赤字の病院は全体の6〜7割にのぼるとされています。とくに200床未満の中小病院と、公立・公的病院で比率が高い傾向です。2026年時点でもこの構図は大きく変わっておりませんが、最新の調査値と診療報酬改定の内容はその都度ご確認ください。
ただし「どこも赤字だから仕方ない」で終えてしまうと、資金繰りは確実に痛みます。補助金や施設整備の補填で最終損益が黒字に見えていても、医業損益が赤字であれば、本業で毎月現金が出ていっている状態です。私が最初に確認するのは、最終利益ではなく医業損益と、そこに減価償却費を戻した医業キャッシュフローの2つです。
病院経営の赤字とは、医業収益から人件費・材料費・委託費・減価償却費などの医業費用を差し引いた医業損益がマイナスの状態を指します。補助金や資産売却益を含む経常損益・当期純損益とは、必ず分けて見る必要があります。
病院経営が赤字になる本当の原因はどこにあるか

ご相談を受けて費用構造を分解していくと、原因はほぼ3つの領域に集約されます。患者数そのものより、収益に対する費用の「形」が崩れている場合が大半です。
一般病院の費用構造(医業収益に対する比率の目安)
目安です。急性期・ケアミックス・療養など機能により幅があります。自院の直近決算と並べてご確認ください。
この中で自院の数字が目安から大きく外れている箇所が、赤字の入口です。順に見ていきます。
原因1|人件費率が収益規模に対して重い
一般病院の人件費率は50〜55%が一つの目安で、60%を超えると医業利益はほとんど残りません。ここで申し上げたいのは「人を減らす」話ではなく、配置と時間帯が需要とずれているという話です。
私が見てきた中でとくに多いのが、病床稼働が落ちたあとも看護配置と夜勤体制を以前のまま維持しているケースです。稼働率が10ポイント下がっても、夜勤の人員は簡単には減らせません。結果として、入院収益は減ったのに人件費だけが元の水準で残ります。外来と病棟の人員配分、事務部門の業務量、委託と直接雇用の線引きを、時間帯別に見直すところから始めます。
原因2|病床の使い方が今の機能と合っていない
病床稼働率は、急性期一般で80%前後、療養で90%前後が一般的な目安とされます。空床は収益がゼロでも、人件費・光熱費・減価償却といった固定費は発生し続けます。平均在院日数、新入院患者数、入院単価の3つを並べると、稼働が落ちている原因が「入口(入院患者が来ない)」なのか「出口(退院調整が滞る)」なのかが見えてきます。
構造的に病床が余っているなら、病床数そのものを見直す判断も必要です。制度上の支援策や機能転換の損益については、病床削減の補助金はいつまで|病床数適正化支援事業の判断軸と療養病床から介護医療院へ転換|損益はどう変わるか60床で試算で試算の考え方をまとめております。
原因3|診療単価と算定漏れが放置されている
3つ目は収益側です。施設基準の届出漏れ、加算の取りこぼし、指導管理料の算定忘れ。1件あたり数百円の差でも、年間の延べ件数を掛けると数百万から数千万円の差になります。私の見立てでは、単価が低い病院の多くは「診療の中身が薄い」のではなく「算定できるはずのものを算定していない」状態です。点検の具体的な手順は診療単価を上げる正しい方法|算定漏れを防ぐ5つのチェックに整理しました。
3つの原因はどの数字で見分けるか
| 原因 | 見る指標 | 目安 | 資料 |
|---|---|---|---|
| 人件費 | 人件費率/職員1人あたり医業収益 | 人件費率50〜55%以内 | 月次試算表・給与台帳 |
| 病床 | 病床稼働率/平均在院日数 | 急性期80%・療養90%前後 | 病棟日報・DPCデータ |
| 単価 | 入院単価/外来単価 | 前年同月比・同規模比較 | レセプト集計・施設基準届出一覧 |
この3行を毎月同じ様式で並べるだけで、赤字がどこから来ているかは、かなり絞り込めます。数字の並べ方はクリニック経営の指標7つ|毎月見る数字表の作り方の考え方がそのまま応用できます。
赤字の病院経営改善は何から手を付けるべきか

手を付ける順番には理由があります。効果が出るまでの時間と、現場への負担が違うからです。私は次の順でお勧めしております。
- 直近12か月の医業損益を月次で並べる
年度単位ではなく月次で見ます。赤字がいつから始まったかが分かると、原因の候補が一気に絞れます。 - 算定漏れを点検する(〜1か月)
収益側は現場の人員を動かさずに改善できるため、最初に着手します。施設基準の届出状況と加算の算定率を洗い出します。 - 退院支援と病床運用を整える(1〜3か月)
平均在院日数と空床の発生曜日を可視化し、入院の入口と出口を調整します。設備投資を伴わない改善です。 - 人員配置を時間帯別に組み替える(3〜6か月)
採否ではなく配置の問題として扱います。夜勤体制と外来応援の見直しから入ります。 - 病床規模・機能そのものを判断する(6か月〜)
1〜4で医業損益が黒字に届かない場合に検討します。ここは資金と制度が絡むため、単独では決めません。
赤字対策でよくある誤解
よくある発想
赤字だから、まず人を減らす。委託費と広告費を止める。
短期の支出は減るが、退院支援や算定精度が落ち、翌期の収益がさらに下がることがあります。
私がお勧めする順番
まず収益側の取りこぼしを止め、次に病床の回し方、最後に人員配置。
現場の信頼を保ったまま着手でき、効果が数字に出るまでの時間も短く済みます。
コストカットから入った病院で、優秀な看護師と医事課の中堅が先に辞めてしまい、かえって収益が落ちた例を何度も見ております。人が抜けた影響は、半年後の数字に遅れて出てきます。院長と現場の関係が崩れかけている段階なら、院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因|信頼を取り戻す順番も併せてご覧ください。
自力での立て直しが難しいと判断する目安
すべてを院内で抱える必要はありません。次の項目に複数当てはまる場合は、外部の力を検討する段階だと考えております。
- 医業損益の赤字が24か月以上続いている
- 減価償却費を戻しても医業キャッシュフローがマイナス
- 手元現預金が月商の1か月分を下回っている
- 借入の元本返済が、返済猶予(リスケ)に入っている
- 常勤医の退職が続き、外来・当直体制が組めない
- 建物・設備の更新時期が5年以内に来ている
この状態からの選択肢としては、スポンサーを迎える再生、近隣病院との統合、機能転換などがあります。いずれも進め方を誤ると条件が悪化しますので、実際に何が起きるかを先に知っておくことをお勧めします。病院再生のスポンサーとは|医療法人の経営再建で実際に起きることと病院統合が失敗する5つの理由|民間中小病院が陥る落とし穴と対策に、私が現場で見てきた注意点をまとめております。
病院経営の赤字は、ある日突然に生まれるものではなく、収益と費用のずれが月単位で積み上がった結果です。逆に言えば、月次で3つの数字を追い続けていれば、崩れ始めた時点で気づけます。今月の試算表を開いて、人件費率・病床稼働率・入院単価の3行を書き出すところから始めていただければと思います。個別の制度適用や税務の判断については、顧問の税理士や社会保険労務士など専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. 病院の赤字割合はどのくらいですか
A. 各種の経営実態調査では、医業損益が赤字の病院は全体の6〜7割とされます。とくに200床未満の中小病院と公立・公的病院で比率が高い傾向です。最新値は調査年ごとにご確認ください。
Q. 病院経営が赤字になる一番多い原因は何ですか
A. 収益規模に対して人件費率が重いケースが最も多いです。病床稼働が下がったあとも看護配置や夜勤体制が以前のまま残り、入院収益だけが落ちている状態が典型です。
Q. 病院の経営改善は何から始めればよいですか
A. まず算定漏れの点検です。現場の人員を動かさずに収益側を改善できます。次に退院支援と病床運用、最後に人員配置の見直しという順番が、現場への負担が小さく効果も早く出ます。
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