クリニックの待ち時間対策|クレームを減らし患者を逃さない工夫

この記事の結論

  • 待ち時間対策は短縮より「見える化」が先です
  • クレームの正体は分数ではなく見通しのなさです
  • 予約枠を絞りすぎると患者数が落ちます

「あと何分ですか」と受付で聞かれる回数が増えた、口コミに「待ち時間が長い」と書かれた、そういうご相談をよくいただきます。私は整形外科医として今も外来に立ちながら、複数の法人経営と、病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。先に結論をお伝えします。待ち時間対策で最初に取り組むべきは「待ち時間を短くすること」ではなく「待ち時間を患者さんに読めるようにすること」です。総待ち時間が同じでも、あと何人・あと何分かが分かるだけで、クレームは目に見えて減ります。順序を逆にすると、診察を削り、スタッフを消耗させ、それでも不満が残る、という一番つらい形になりがちです。

目次

クリニックの待ち時間対策とは|「短縮」より先に「見える化」

クリニックの待ち時間対策とは、診察までにかかる実際の時間を短くする取り組みと、待っている時間の体感を軽くする取り組みを組み合わせて、患者さんの不満と離脱を減らす一連の運営改善です。この二本立てで考えるところが出発点になります。

実際の時間を削る方は、どうしても限界があります。医師は1人、診察室は1つ、検査機器も台数が決まっています。ところが体感の方は、掲示・呼び出し・案内の言葉といった、ほとんど費用のかからない手段で動かせる余地がまだ大きく残っています。私が経営改善に入るとき、最初の1か月は設備投資の話をしません。まず見える化から手をつけます。

もうひとつ押さえておきたいのは、患者さんが体感している「待ち時間」は、診察を待っている時間だけではないということです。受付から会計を終えて外に出るまでの滞在時間の全体が、その日の印象を決めます。会計で15分待たされた記憶は、診察までの快適さを簡単に打ち消してしまいます。

来院から会計までの滞在時間の内訳(目安)

診察までの待ち45分
会計待ち14分
受付・問診10分
診察そのもの8分

私がご相談を受けるクリニックでよく見かける配分の目安です。診療科・曜日・時間帯で大きく変わります。自院の実測値に置き換えてご覧ください。

この配分をご覧いただくと分かる通り、患者さんが院内で過ごす時間のうち、医師と向き合っている時間は1割程度しかありません。残りの9割をどう設計するかが、待ち時間対策の実質です。院長が診察スピードを上げても、全体の1割の中の話にしかなりません。手をつける場所を間違えないことが大切です。

待ち時間クレームが起きる3つの理由

※写真はイメージです

「何分待たせたらクレームになりますか」とよく聞かれます。私の見立てでは、分数そのものより、次の3つが揃ったときに不満が言葉になって出てきます。

1|見通しが立たない

一番大きいのはこれです。人は、終わりが見えない待ち時間に強いストレスを感じます。同じ45分でも、「あと3人です、40分ほど見ていただけますか」と最初に伝えられていれば、多くの方は納得して待ってくださいます。何も言われずに45分過ぎると、そこで初めて「どうなっているんですか」になります。

2|順番の公平性が疑われる

後から来た人が先に呼ばれた、という場面です。予約患者と当日受付が混在すると必ず起きます。理由を説明しないまま運用すると、「あの人は知り合いだから先に通したのでは」といった誤解にまで発展します。予約枠と当日枠が別の流れであることを、掲示と受付の一言で必ず伝えるようにしてください。

3|待った時間に対して診察が短い

60分待って診察3分だと、待ち時間の意味が失われます。診察時間そのものを延ばす必要はありません。「お待たせしました」の一言、前回からの経過に触れる一言があるだけで、受け取り方はかなり変わります。

現状

45分待ち・案内なし。受付は「もう少しです」を繰り返す。患者さんは何度も受付に確認しに来る。

受付の手が止まり、さらに流れが滞る悪循環に入ります

見直し後

同じ45分待ち。受付時に「現在4人待ち、40分ほどの見込みです」と伝え、番号表示で進行を掲示。

待ち時間の実測値は変わっていませんが、問い合わせと苦情は減ります

実際、待ち時間の数字は1分も変えずに、案内の設計を直しただけで受付への苦情が落ち着いた、というご報告をいただくことがあります。逆に、ここを放置したまま不満が口コミサイトに出てしまうと、対応の手間はずっと大きくなります。もし既に書き込まれてしまっている場合の対応は、クリニックの悪い口コミ返信例文|院長が書いてはいけないNG返信で整理しておりますので、必要な方はそちらもご覧ください。

待ち時間はどこで生まれているか|まず1週間だけ測る

改善の前に、必ず実測をお願いしております。院長の体感と実際の数字は、かなりの確率でずれます。「混んでいるのは月曜の朝」と思っていたら、実際に一番滞留していたのは水曜の夕方だった、ということが普通に起こります。

測り方は難しく考えなくて大丈夫です。受付票に受付時刻・診察開始時刻・会計終了時刻を書き込むだけでも、1週間分あれば十分に傾向が見えます。電子カルテや予約システムにログが残っているなら、それを出力するのが早いです。

  • 曜日別・時間帯別の受付人数(30分単位で数える)
  • 受付から診察開始までの時間(患者ごとに記録)
  • 診察終了から会計終了までの時間
  • 予約患者と当日受付患者の比率
  • 初診と再診の比率、初診にかかっている時間
  • 検査(レントゲン・採血など)を挟んだ患者の滞在時間
  • 受付スタッフが「あと何分ですか」と聞かれた回数

この記録を取ると、詰まっている工程はたいてい1か所か2か所に絞られます。多いのは、初診の問診に時間がかかっているケースと、会計処理が診察の波にそのままぶつかっているケースです。問診が原因であれば、来院前や待合での事前入力に切り替えるだけで、診察室の中の時間が短くなります。この考え方はAI問診の導入効果を数字で見る|費用とデメリットの判断基準でも費用面から検討しておりますので、投資判断の前にご確認いただければと思います。

予約システムの選び方|時間帯予約と順番待ちの違い

※写真はイメージです

予約システムは待ち時間対策の中心的な道具ですが、方式の選択を誤ると、かえって不満が増えます。大きく分けて、時間を指定して枠を押さえる「時間帯予約」と、順番だけを取って呼ばれたら来院する「順番待ち受付」があります。どちらが優れているという話ではなく、診療科と患者層で向き不向きが分かれます。

項目 時間帯予約 順番待ち受付 併用型
仕組み 15〜30分単位の枠を指定して予約 順番を取り、進行状況を見て来院 予約枠+当日枠を並行運用
院内の待ち時間 短くなりやすい 短くなりやすい(院外で待てる) 設計次第で差が出る
向く診療科 内科・皮膚科・自由診療など 整形外科・小児科・耳鼻科など波の大きい科 初診と再診で流れを分けたい科
弱点 枠が埋まると当日受診を断ることになる 呼び出し時に不在だと順番が崩れる 公平性の説明を怠ると不満が出る
費用の目安 初期費用0〜10万円程度、月額1万〜5万円程度が目安(2026年時点。機能・規模で幅があります)

私が整形外科で運用していて実感するのは、波の大きい科ほど時間帯予約だけでは回らないということです。急性外傷の方が飛び込みで来られますし、リハビリの方の流れもあります。そこで、再診と予定検査は時間帯予約、初診と急患は当日枠、という併用型が現実的な落としどころになりやすいと考えております。

システム選定の際にひとつ申し上げておきたいのは、機能の多さで選ばないことです。実際に使うのは受付スタッフです。操作が複雑だと運用されなくなり、月額だけが残ります。導入前に必ず、受付スタッフに触ってもらってから決めてください。あわせて、電子カルテやレセコンとの連携可否も先に確認しておくと、後の二重入力を避けられます。

明日から始める待ち時間改善の5ステップ

ここまでの内容を、実際に動かす順番にまとめます。同時に全部やろうとすると必ず止まりますので、上から順にお願いいたします。

  1. 1週間、滞在時間を実測する
    受付票に受付・診察開始・会計終了の3時刻を記録します。費用はかかりません。ここを飛ばすと、後の判断がすべて勘になります。
  2. 詰まっている工程を1つに絞る
    問診なのか、検査待ちなのか、会計なのか。データを見れば必ず偏りがあります。一番太いところ以外は、いったん触らないと決めます。
  3. 見える化を先に入れる
    受付時に待ち人数と目安時間を必ず口頭で伝える、待合に順番を掲示する。この2つだけで、問い合わせ対応の手間と苦情がまず減ります。
  4. 仕組みを入れ替える
    予約システムや事前問診の導入はこの段階です。実測データがあるので、必要な機能と不要な機能を切り分けて選べます。
  5. 月1回、同じ指標で振り返る
    平均滞在時間と、時間帯別の待ち人数のピーク値を毎月見ます。数字を見続けないと、半年で元の運用に戻ります。

ステップ3までは、追加の支出がほとんど発生しません。それでいて、患者さんが感じる不満の大きい部分に直接効きます。予算の話を持ち出す前に、まずここまでを終わらせることをおすすめしております。

待ち時間を削るときに患者数を落とさない注意点

最後に、待ち時間対策で私が一番心配している点をお伝えします。待ち時間を短くすること自体を目的にしてしまうと、患者数が落ちます。実際に、こういう相談をいただくことがあります。

ひとつは、予約枠を絞りすぎるパターンです。院内が空いて待ち時間は短くなりますが、当日「今から行きたい」という方を断り続けることになります。急に具合が悪くなった方に「次の空きは来週です」と答えるクリニックは、静かに選ばれなくなっていきます。当日枠は必ず残してください。目安として、午前・午後それぞれで1〜2割は当日用に空けておく設計を考えます。

もうひとつは、予約をウェブだけに寄せてしまうパターンです。高齢の患者さんの比率が高い診療科では、電話と窓口の受付を残しておかないと、通っていた方が離れます。デジタル化は進めつつ、入口は複数持っておく。この二本立てが安全です。

そして、受付体制そのものが足りていない場合は、仕組みを入れる前に人の配置を見直す必要があります。1人の受付で予約対応・会計・電話・問い合わせをすべて受けている状態では、どんなシステムを入れても詰まります。適正な人数の考え方はクリニックのスタッフ適正人数|患者数と診療科別の計算方法に整理しておりますので、あわせてご確認いただければと思います。

待ち時間対策は、派手さのない地味な改善の積み重ねです。ただ、患者さんが次も来てくださるかどうかを決める要素として、私は診察内容の次に大きいと考えております。まずは1週間の実測と、受付での一言の案内から。そこだけでも、来月の外来の空気は変わってくるはずです。なお、予約システムの費用や医療広告の表示に関わる部分は制度・サービスの改定がありますので、導入前には最新の情報と、必要に応じて顧問の専門家へのご確認をお願いいたします。

よくある質問

Q. クリニックの待ち時間は何分までなら許容されますか

A. 分数より見通しの有無が影響します。受付時に待ち人数と目安時間を伝えていれば、40分程度でも納得いただけることが多いと感じております。

Q. 待ち時間のクレームを受けたとき、まず何をすべきですか

A. 反論せず事実確認から入ります。その方の受付時刻と診察開始時刻を確認し、遅れた工程を特定して、翌週の運用に1つだけ反映させる形が現実的です。

Q. 予約システムを入れれば待ち時間は解決しますか

A. 工程の詰まりが問診や会計にある場合、予約システムだけでは改善しません。まず1週間の実測で原因工程を特定してから、導入を判断してください。

Q. 予約制にすると患者数は減りますか

A. 枠を絞りすぎると減ります。当日受診を断らないよう、午前・午後それぞれ1〜2割を当日枠として残す設計をおすすめしております。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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