この記事の結論
- 返信は投稿者ではなく未来の患者へ向けて書く
- 受診の事実に触れる返信が最も危険
- 型は共感・事実整理・改善・導線の4段で150〜250字
Googleに星1の口コミが付いた朝は、診療前から気が重くなります。クリニックの悪い口コミへの返信は、例文をそのまま貼るのではなく、型を決めて短く返すのが安全です。
私は整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と、病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。院長先生から「この口コミにどう返せばよいか」とご相談をいただくことは本当に多く、そのたびに感じるのは、返信の巧拙より先に「何を書かないか」を決めておくほうが大切だということです。この記事では、ケース別の返信例文と、院長が書いてしまいがちなNG返信を、そのまま使える形でお伝えします。
悪い口コミに返信したほうがいいのか
結論は「返信する」です。ただし、目的を取り違えないでください。悪い口コミへの返信とは、投稿した方を説得したり反論したりする文章ではなく、それを読む未来の患者さんに向けた説明文です。読み手は投稿者ではありません。来院を迷いながら口コミ欄をスクロールしている、まだ会ったことのない患者さんです。
星1の投稿が無返信のまま並んでいると、内容の真偽にかかわらず「言い分がないのだろう」と受け取られます。逆に、事実を淡々と整理した落ち着いた返信が付いていれば、読み手は投稿ではなく返信のほうを信用します。私の見立てでは、口コミ対応の成果はここでほぼ決まります。
一方で、返信を急がないほうがよい場合もあります。明らかな荒らしや同一人物と思われる連投、名誉毀損として法的手続きを検討している案件は、先に弁護士へご相談ください。返信した文面が後の手続きで不利に働くことがあります。
院長が書いてはいけないNG返信は何か

ご相談を受けていて最も危険だと感じるのが、受診の事実に触れてしまう返信です。投稿者本人が「◯月に受診した」と書いていたとしても、医療機関の側が公開の場でその事実や診療内容を認めることは、まったく別の問題になります。守秘義務の観点から、一般論としても避けるべき対応です。
やりがちな返信
「◯月◯日にお越しになった方かと存じますが、あの日は検査の結果をご説明したうえで…」
受診事実と診療内容の両方に触れており、守秘義務の観点で最も危険
書き直した返信
「ご不便をおかけし申し訳ありません。個別の受診状況についてはこの場でお答えできかねますが、ご心配な点は当院代表電話までご連絡ください。」
誰の投稿かを確定させず、窓口だけを示す
このほか、次の5つも避けたい返信です。
- 反論・訂正の応酬:「事実と異なります」から始まる長文。読み手は内容ではなく、争っている姿勢のほうを記憶します。
- 他責:「混雑は近隣の医療機関が減ったためで」など。理由の説明は必要ですが、責任の所在を外に置くと冷たく映ります。
- 全件コピペ:同じ定型文が並ぶと、読んでいないことが一目で伝わります。
- 長文:400字を超えると、それだけで言い訳に見えます。
- 来院・購入の勧誘:「ぜひもう一度お越しください、初診料を…」といった特典の提示。医療広告の規制に触れる可能性があり、謝礼と引き換えに口コミを依頼する行為も同様に避けてください。
悪い口コミ返信の型はどう作るか
返信は毎回ゼロから考えるものではありません。次の4段で組み立て、全体を150〜250字に収めます。院内で型を共有しておけば、院長が診療の合間に悩む時間もなくなります。
- 感謝と受け止め(1文)
「ご意見をお寄せいただきありがとうございます」「ご不便をおかけし申し訳ありません」。謝罪は不快な思いに対して行い、事実関係の非を認める形にはしない。 - 事実の整理(1〜2文)
個人を特定せず、院としての仕組みを説明する。「予約枠は1枠15分で設定しております」など、誰にでも当てはまる形で書く。 - 改善したこと(1〜2文)
すでに手を打った内容を具体的に。「朝礼で受付の案内文言を確認する時間を設けました」。予定ではなく実行済みのことを書く。 - 個別対応の導線(1文)
「詳しい状況は当院代表電話までお知らせください」。公開の場での応酬を、非公開の窓口に移す出口を必ず用意する。
投稿から返信までの間隔は、3日から1週間程度を目安にしています。当日の返信は感情が残りやすく、1か月を超えると放置している印象になります。
ケース別の返信例文

実際にご相談の多い5つのケースについて、方針と例文を挙げます。そのまま使わず、自院の実情に合う部分だけ差し替えてお使いください。
| 口コミの内容 | 返信の方針 | 書いてはいけないこと |
|---|---|---|
| 待ち時間が長い | 仕組みと改善策を示す | その日の混雑理由の詮索 |
| スタッフの態度 | 責任者として受け止める | 個人の特定・処分の明言 |
| 説明が足りない | 説明の機会を案内する | 診断名・治療内容への言及 |
| 料金が高い | 制度と掲示場所を説明 | 他院との料金比較 |
| 事実無根・中傷 | 短く事実確認の窓口へ | 受診の有無を認める記述 |
待ち時間に関する口コミへの返信例文
「このたびはご意見をお寄せいただきありがとうございます。長らくお待たせする状況が続いており、心苦しく思っております。当院では予約枠を1枠あたりの診察時間に合わせて見直し、混雑時には受付でおおよその待ち時間をお伝えする運用に変更いたしました。引き続き改善に努めてまいります。」
スタッフの接遇に関する口コミへの返信例文
「不快な思いをさせてしまったとのこと、責任者として申し訳なく思っております。いただいたご指摘は院内で共有し、受付および診察室での案内の言葉づかいについて、あらためて確認する時間を設けました。差し支えなければ、当院代表電話までご状況をお聞かせいただけますと幸いです。」
接遇の指摘が続くときは、返信の文面より院内の状態が原因です。院長とスタッフの間で何が起きているかは、院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因で整理しておりますので、あわせてご確認ください。
説明不足を指摘された場合の返信例文
「ご説明が十分でなかったとのご指摘、申し訳ございません。当院では診察時にお伝えしきれない内容について、ご希望があればあらためてお時間をいただく形をとっております。受診の際に受付でその旨をお申し出ください。ご不安を残さないよう努めてまいります。」
料金への不満に対する返信例文
「費用についてご不安を与えてしまい申し訳ありません。保険診療の窓口負担は国が定めた点数に基づくもので、当院が個別に増減できるものではございません。保険外の項目については院内掲示とホームページに一覧を掲載しております。ご不明な点は受付までお尋ねください。」
事実と異なる口コミへの返信例文
「ご投稿を拝見いたしました。個別の受診状況に関することはお答えできかねますが、当院で確認できる内容と異なる点がございます。お心当たりのある方は、当院代表電話までご連絡いただけますでしょうか。事実関係を確認のうえ、あらためてご対応いたします。」
削除申請できるのはどんな口コミか
Googleのポリシーに反する投稿は、削除を申請できます。ただし「内容が事実と違う」というだけでは通らないことがほとんどです。申請が通りやすいのは、なりすまし、スパム、個人情報の記載、差別的・わいせつな表現、来院実態のない第三者による投稿といった、ポリシー違反が形式的に判断できるものです。
- Googleビジネスプロフィールにログインし、該当の口コミから「不適切なクチコミとして報告」を選ぶ。
- 違反理由を選択し、事実関係のメモを院内に残す(申請日・投稿日・投稿者名の表示・スクリーンショット)。
- 結果は数日から数週間で反映される。却下された場合は、内容を変えて再申請するか、返信で対応する方針に切り替える。
- 名誉毀損に当たりうる悪質な内容は、申請と並行して弁護士に相談する。発信者情報開示の手続きには期限があるため、判断は早いほうが選択肢が残ります。
制度や画面の仕様は変わりますので、申請前に最新のGoogleヘルプをご確認ください。
返信より効くのは口コミの件数を増やす運用
ここが本題かもしれません。悪い口コミ1件の影響は、母数によってまったく違います。平均4.5の状態に星1が1件入ったときの平均評価の下がり幅を、件数別に単純計算したものが次の図です。
星1が1件入ったときの平均評価の下がり幅(平均4.5の場合・単純計算の目安)
平均4.5の母数に星1を1件加えた場合の算術平均の変化。実際の表示は四捨五入や重み付けの影響を受けるため、あくまで目安です。
口コミが10件しかない状態では、1件の低評価が院の評価を決めてしまいます。件数が増えれば、同じ1件が誤差の範囲に収まります。つまり、悪い口コミへの対策の本体は、返信文の推敲ではなく母数を増やす運用です。
ただし、謝礼や割引と引き換えに投稿を依頼することは避けてください。Googleのポリシーに反しますし、医療広告の規制の観点でも問題になりえます。会計時に案内カードをお渡しする、院内にQRコードを掲示するといった、感想を書く場を知らせるところまでに留めるのが安全です。
- Googleビジネスプロフィールの管理者が院長を含め2名以上いる
- 新しい口コミが付いたときの通知が、確実に届くアドレスに設定されている
- 返信の型(4段・150〜250字)を文書化し、事務長と共有している
- 返信の最終確認は院長が行うと決まっている
- 会計時に感想の投稿先を案内する導線がある(謝礼は伴わない)
- 診療時間・休診日・駐車場など、基本情報が最新に更新されている
- 星1の投稿が付いた場合の初動(誰が・何日以内に)が決まっている
返信文の下書きに時間が取られるようでしたら、型を渡したうえで生成AIに素案を作らせ、院長が事実確認と語尾だけ直す形が現実的です。私が実際に使っている場面は生成AIをクリニックで活用する7つの場面にまとめております。
なお、口コミ欄は患者さんだけでなく、求職者も必ず見ています。応募が集まらない時期に口コミの内容を確認すると、原因が見えることがあります。募集要項側の見直しについてはクリニックの求人に応募が来ない理由もご覧ください。
悪い口コミが付いた日は、どうしても気持ちが揺れます。それでも、返信は投稿者との勝負ではありません。まだ会っていない患者さんに、院の姿勢を伝える数行です。型を決めておけば、その数行に迷う時間はかなり減らせます。
よくある質問
Q. クリニックの悪い口コミには必ず返信すべきですか
A. 基本は返信します。ただし荒らしや連投、法的手続きを検討中の案件は、返信前に弁護士へご相談ください。返信文が後の手続きに影響することがあります。
Q. Google口コミの返信で受診の事実に触れてもよいですか
A. 避けてください。投稿者本人が受診に言及していても、医療機関側が公開の場で受診事実や診療内容を認めることは守秘義務の観点で問題になりえます。
Q. 事実と異なる口コミは削除できますか
A. 内容が事実と違うだけでは通りにくく、なりすましやスパム、個人情報、差別的表現などポリシー違反が明確な場合に削除されやすい傾向です。悪質な例は弁護士へ。
この分野の全体像をまず読む
今の経営課題を整理したい先生へ
採用・集患・お金の残り方・将来の承継など、お悩みを書き出せるヒアリングシートも用意しております。内容を拝見し、私から率直な見立てをお返しします。
