クリニック閉院の費用はいくらか|1000万円の内訳と手続き

この記事の結論

  • 閉院費用の目安は総額500万〜1500万円
  • 最大の変動要因は原状回復と借入・リース残債
  • 解約予告は6ヶ月前、準備期間は1年を見る

「そろそろ閉めることも考えないといけない」。そうお話しになる院長から、必ず出てくるのが費用の話です。開業のときは情報も相談相手もあったのに、閉院となると途端に何も出てこない、というお声をよくいただきます。結論から申し上げます。テナント開業の一般的なクリニック(30〜40坪)の場合、閉院にかかる費用は総額500万〜1500万円が目安です。よく言われる「1000万円」という数字は、原状回復工事と借入・リース残債の清算が重なったときの金額とお考えください。

私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と、病院・クリニックの経営改善や再生のお手伝いをしております。閉院のご相談も、毎年いくつかいただきます。この記事では、費用の内訳、保健所などへの閉院手続きの順番、そして「どこなら下げられるのか」を、実際に相談を受けている立場から整理してお伝えします。

目次

クリニックの閉院費用とは何を指すのか

閉院費用とは、診療をやめると決めてから、事業や法人の後始末が完全に終わるまでに出ていく現金の総額をいいます。ここで大事なのは、工事費のような目に見える支出だけではない、ということです。

実際に見誤りが起きるのは、次の3つを数え落としたときです。ひとつ目は借入金とリースの残債。閉院しても借金は消えませんし、医療機器のリースは中途解約ができず、残リース料の一括清算を求められるのが原則です。ふたつ目はスタッフの退職金と解雇予告手当。3つ目が、閉院を公表してから最終診療日までの「空走り」の固定費です。閉院を告知した瞬間から患者数は目に見えて減りますが、家賃とスタッフ給与は最後の日まで満額出ていきます。

私がご相談を受けるとき、工事見積もりだけを持ってこられる院長が多いのですが、資金繰りが厳しくなるのはむしろ後者の3つです。まずはクリニックの資金繰りが苦しい時の3つの数字で挙げた考え方と同じで、出ていく現金を時系列で並べるところから始めてください。

閉院費用が1000万円になる内訳はどうなっているか

あくまで一つのモデルケースですが、30〜40坪のテナントで、開業から10年前後、スタッフ5〜6名という条件で試算すると、次のような姿になります。

閉院費用の内訳(30〜40坪テナント・スタッフ5〜6名の目安)

借入・リース残債の清算400万円
原状回復工事250万円
退職金・解雇予告手当150万円
最終月までの固定費の持ち出し100万円
医療機器の撤去・廃棄80万円
税理士・司法書士等の専門家費用30万円

目安です。契約条件・借入残高・法人形態によって上下します。

原状回復は、一般的な事務所であれば坪5万〜10万円程度といわれますが、クリニックは坪単価が上がりやすい業種です。エックス線室の鉛入り遮蔽壁の解体、増設した給排水設備の撤去、床のダウンや医療ガス配管など、開業時にお金をかけた部分がそのまま解体費用に跳ね返ります。40坪でスケルトン返しなら200万〜400万円を見ておくと大きくは外れません。

医療機器の撤去も見落としがちです。エックス線装置やCTは、専門業者による解体と搬出経路の確保が必要で、機種によっては撤去だけで数十万円かかります。医薬品の返品・廃棄、感染性廃棄物の処理も最後にまとめて発生します。

そして退職金です。就業規則に退職金規定があれば支払義務が生じますし、解雇として扱う場合は30日前の予告が必要で、予告が間に合わなければ平均賃金の30日分以上を支払うことになります(2026年時点の労働基準法の考え方です。個別の判断は社会保険労務士にご確認ください)。長く支えてくれたスタッフほど、ここは削る発想を持たないほうがよいと私は考えております。

閉院の手続きは保健所から始めるのか

「閉院の手続き」と聞くと保健所を思い浮かべる方が多いのですが、実は保健所への届出は最後です。診療所の廃止届は、廃止した日から10日以内に管轄の保健所へ提出する事後の手続きだからです。最初に動くべきは、テナントの賃貸借契約書と借入契約書の読み直しです。

解約予告は6ヶ月前という契約が少なくありません。つまり、決めた月に閉められるものではなく、最短でも半年、余裕を見れば1年の準備期間が必要になります。

  1. 12ヶ月前:契約と残債の棚卸し
    賃貸借契約の解約予告期間と原状回復条項、借入残高、リースの残回数と中途解約清算額を一覧にします。ここで総額が見えます。
  2. 9〜6ヶ月前:貸主へ解約予告/承継の可否を最終判断
    第三者に譲る道が残っているかを、この時点までに決めます。解約通知を出した後では選択肢が狭まります。
  3. 6〜3ヶ月前:スタッフへの説明
    法律上の予告は30日前が下限ですが、次の職場を探す時間を考えれば3ヶ月以上前にお伝えするのが筋だと考えております。
  4. 3〜1ヶ月前:患者さんへの掲示と紹介先の確保
    院内掲示とホームページで告知し、通院中の方の紹介先を確保します。医療広告規制に触れない表現で、事実を淡々と掲示します。
  5. 閉院月:最終診療日と撤去工事の段取り
    最終月のレセプト請求、医薬品の返品、機器撤去と原状回復工事の日程を、明渡し期限から逆算して押さえます。
  6. 廃止後10日以内:保健所・地方厚生局への届出
    診療所廃止届とエックス線装置廃止届を保健所へ、保険医療機関の廃止届を地方厚生局へ提出します。麻薬施用者の廃業届は15日以内が原則です。
  7. 廃止後1〜2ヶ月:税務・社会保険・法人の後始末
    税務署へ廃業届、年金事務所・労働局・ハローワークへの各種届出、医師会の退会。医療法人であれば解散認可の申請と清算に進みます。

届出先と期限は制度改正で変わりうるため、着手前に必ず管轄の保健所と地方厚生局に一度ご相談ください。窓口によって求められる書類や事前相談の運用が異なります。

もうひとつ、忘れられがちなのがカルテです。診療録は完結の日から5年間の保存義務があり、この義務は閉院しても消えません。閉院後に誰がどこで保管し、開示請求が来たら誰が対応するのかを決めておく必要があります。電子カルテの場合はサーバー解約後にデータが読めなくなる事故が起きますので、契約終了前にエクスポート形式を確認してください。

閉院と承継と休院はどう違うのか

※写真はイメージです

閉院を決める前に、一度だけ第三者承継を検討していただきたいと思っております。譲渡価格がつかなかったとしても、原状回復と機器撤去を買い手側が引き継いでくれるなら、それだけで数百万円の差が出るからです。

項目 閉院 第三者承継 一時休院
手元の現金 500万〜1500万円の持ち出し 0円〜譲渡代金 収入が止まり固定費は継続
原状回復工事 原則必要 買い手が使えば不要 先送り
スタッフ 全員退職・退職金 雇用継続の可能性 休業手当や離職
借入・リース 一括清算を求められることがある 引き継ぎ交渉の余地 返済は続く
期間の目安 6〜12ヶ月 6〜18ヶ月 即日〜

医療法人の場合はさらに時間がかかります。解散には社員総会の議決に加えて都道府県知事の認可が必要で、清算結了まで数ヶ月から1年以上を見ておくのが現実的です。持分のある社団医療法人では、退社する社員への払い戻しをめぐって話がこじれることがありますので、医療法人の出資持分の払い戻しの論点を先に確認しておかれることをおすすめします。

閉院費用はどこを下げられるのか

削れる余地が最も大きいのは、実は原状回復です。ここは「スケルトンに戻すしかない」と思い込んでいる方が多いのですが、条件は契約書と貸主の意向次第です。

よくある誤解

原状回復はスケルトンに戻すしかなく、金額は業者の見積もりどおりに払うもの。

指定業者1社の見積もりだけで進めてしまう

実際に起きること

次の借り手が医療機関なら、内装を残した居抜き返却が認められる交渉余地があります。

早めに貸主へ相談すると数百万円単位で変わることがある

もう一点、金融機関への相談は早いほど選択肢が残ります。残債の一括返済が難しい場合でも、閉院後に分割返済を継続する形で話がまとまることがあります。返済が滞ってから相談するのと、閉院を決めた段階で計画書を持って相談するのとでは、受け止められ方がまるで違います。

逆に、削らないほうがよいものもあります。スタッフの処遇と、患者さんの紹介先の確保です。この二つを雑に扱うと、地域での評判という形で後から必ず返ってきます。閉院後も同じ地域で非常勤として働く可能性があるなら、なおさらです。

閉院を決める前に確認する10項目

ご相談をいただいたとき、私が最初に一緒に埋めていただく項目です。ここが埋まると、閉院すべきかどうかの判断そのものが変わることがあります。

  • 賃貸借契約書の解約予告期間と原状回復条項(スケルトン返しか居抜き可か)を読み直した
  • 借入金の残高と、返済原資(自己資金・不動産・退職金)を突き合わせた
  • リース契約の残回数と中途解約時の清算額を、各社に確認した
  • 医療機器と内装の売却価格を、1社以上に査定してもらった
  • スタッフの人数・勤続年数と、就業規則の退職金規定を確認した
  • 通院中の患者さんの紹介先となる近隣医療機関に話を通せる見込みがある
  • カルテと画像データの5年保存を、閉院後どこで誰が管理するか決めた
  • 医療法人の場合、定款で解散の議決要件と残余財産の帰属を確認した
  • 第三者承継の可能性を、断る前に一度は検討した
  • 閉院後の自分の収入(勤務医復帰・非常勤)の目処が立っている

最後に申し上げたいことがあります。閉院のご相談は、経営が行き詰まったときよりも、体調やご家族の事情で急に来ることのほうが多いのです。動けなくなってからでは、解約予告の6ヶ月も、承継先を探す時間も取れません。開業医が病気になったらどうなるかでも触れましたが、閉院の見積もりは、閉院を決めていない今のうちに一度作っておく価値があります。金額を知ったうえで続ける決断と、知らないまま走り続けるのとでは、日々の経営判断の重さが変わってきます。

数字を並べてみて、思ったほど怖くなかったという院長もいれば、想定の倍だったという院長もいらっしゃいます。どちらにせよ、まずはご自身の契約書を机に出すところからお始めください。

よくある質問

Q. クリニックの閉院費用は総額いくらかかりますか

A. 30〜40坪のテナントで総額500万〜1500万円が目安です。原状回復200万〜400万円に加え、借入・リース残債、退職金、機器撤去費が重なると1000万円前後になります。

Q. 閉院の手続きは保健所にいつ届け出ますか

A. 診療所の廃止届は、廃止した日から10日以内に管轄の保健所へ提出するのが原則です(2026年時点)。エックス線装置の廃止届も同様で、保険医療機関の廃止は地方厚生局へ届け出ます。

Q. 閉院を決めてから実際に閉めるまでどのくらいかかりますか

A. テナントの解約予告が6ヶ月前という契約が多く、最短でも半年、余裕を見て1年です。医療法人の解散は知事の認可が必要で、清算結了までさらに数ヶ月から1年以上かかります。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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