クリニックの経費率の目安と下げ方|削ってよい経費・危ない経費

この記事の結論

  • 経費率は総額でなく項目別・年間金額順で見る
  • 先に削るのは診療の質に触れない固定費
  • 材料と教育を先に削ると半年後に収入が落ちる

試算表を開いて、売上は前年並みか少し伸びているのに手元にお金が残らない。そんなご相談を毎月のようにいただきます。私は整形外科の診療を続けながら複数の法人を経営し、赤字のクリニックや病院の立て直しのお手伝いをしておりますので、この感覚はよく分かります。数字は悪くないのに、通帳だけが減っていくときの落ち着かなさです。

先に結論をお伝えします。クリニックの経費率は「全体で何%か」を眺めていても手は打てません。項目別に分解し、年間金額の大きい順に並べ替えたうえで、診療の質に直接触れない固定費から着手する。遠回りに見えて、これが一番確実です。逆に医薬品・材料や人の教育を先に削ると、半年後に患者数と単価が落ち、経費率だけ改善して利益は減る、という結果になりがちです。

目次

クリニックの経費率とは|まず自院の数字を分解する

クリニックの経費率とは、医業収入に対して医業費用(人件費、医薬品費・診療材料費、設備関係費、委託費など)が占める割合のことです。平たく言えば「100万円売り上げて、いくら出ていったか」の割合です。

一般に無床診療所では経費率70〜80%前後、残る利益率が20〜30%前後といわれます。ただしこの水準は、診療科と院長報酬の扱い(個人事業か医療法人か、院長給与を人件費に含めているか)で大きく動きます。他院の平均と比べて一喜一憂するより、自院の3期推移で「どの項目が何ポイント増えたか」を見るほうが、はるかに使える情報になります。

費目 医業収入に占める割合の目安 見直しの効きやすさ
人件費(院長報酬を除く) 20〜25% 中(時間の配分で効かせる)
医薬品費・診療材料費 10〜20%(診療科差が大きい) 中(仕入条件は交渉余地あり)
設備関係費(賃料・リース・減価償却) 8〜12% 大(契約単位で下がる)
委託費(検査・清掃・保守) 3〜6% 大(相見積りが効く)
その他経費(水光熱・通信・広告・保険) 5〜10% 中〜大(少額が積み上がる)

数値はいずれも目安です。診療報酬や電気料金の水準は変わりますので、2026年時点の感覚として受け取っていただき、最新の改定内容や契約条件はその都度ご確認ください。自院の水準が気になる方は、クリニックの利益率の平均|診療科別の目安と自院の位置の確かめ方もあわせてご覧いただくと、経費率の裏返しとして位置が掴みやすくなります。

経費率が静かに上がるクリニックに共通する3つのこと

※写真はイメージです

1. 開業時の契約を一度も見直していない

賃料、リース、保守、検査委託、通信、損害保険。開業準備で一気に契約したものは、条件も開業当時のままであることが多いです。5年、10年と経てば相場も機器の残存価値も変わります。「更新の通知が来たから同条件で押印した」が積み重なると、気づかないうちに数十万円単位の差になります。

2. 「売上が伸びたから」で人と物が増えた

患者数が増えた時期にスタッフを増員し、機器を追加する。ここまでは自然な判断です。問題は、その後に患者数が落ち着いても体制だけが残ることです。人件費率についてはクリニックの人件費率の目安|内科・整形外科の水準と下げ方で詳しく整理しております。

3. 少額の固定費が積み上がっている

月3,000円のサブスク、使っていない回線、解約し忘れた広告枠。1件ずつは気にならない金額ですが、10件あれば年間36万円です。私が関わる法人でも、ここを棚卸しするだけで初年度に一定の効果が出ることは珍しくありません。

よくある受け止め方

経費削減とは、日々こまごまと我慢して切り詰めること

スタッフの士気が下がり、長続きしない

実際に効くやり方

年に1〜2回、契約と単価をまとめて見直すこと

一度の作業で12か月分効き、現場の手間は増えない

削ってよい経費・削ってはいけない経費

ここが今日一番お伝えしたい線引きです。判断の基準はひとつ、削った結果が診療の質と患者さんの体験に跳ね返るかどうかです。

削ってよい経費(診療の質に触れないもの)

  • 賃料・共益費(更新時の交渉、あるいは条件の見直し)
  • リース契約(満了機器の再リース料、買い取りとの比較)
  • 保守契約・検査委託・清掃などの外部委託費
  • 通信費、複合機のカウンター料、少額サブスク
  • 借入金利(借換や条件変更の相談)
  • 効果を測っていない広告枠

削ってはいけない経費(削ると半年後に返ってくるもの)

  • 診療材料の品質(安価品への切替は、感染管理や処置時間に影響しうる)
  • スタッフの教育・研修と、それに充てる時間
  • 採用にかける費用(欠員が出たときの損失のほうがはるかに大きい)
  • 電子カルテ・予約システムなど、待ち時間と業務時間に直結する仕組み
  • 院内の清潔感に関わる部分(内装補修、備品の更新)

私の見立てでは、経営が苦しくなったクリニックほど後者から削り始めます。目に見えて金額が動くからです。しかし材料と教育を削れば、処置の質とスタッフの定着が同時に落ちます。人が辞めれば採用費と教育コストが再び発生し、待ち時間が延びれば再診率が下がる。結局、収入側で失うほうが大きくなります。

固定費削減はどこから手をつけるか|年間金額の大きい順に

※写真はイメージです

手順はきわめて単純で、年間金額の大きい順に並べ、上から交渉するだけです。同じ「10%下げる」でも、年1,700万円の項目と年150万円の項目では成果が11倍違います。下は、月商600万円・年商7,200万円規模の無床クリニックを想定した金額イメージです。

年間コストの内訳イメージ(年商7,200万円のクリニック)

人件費約1,700万円
医薬品・材料費約1,000万円
賃料・リース約720万円
委託・保守費約300万円
水光熱・通信費約150万円

上記は費目構成の目安から試算したイメージであり、実額は診療科・立地・体制で大きく異なります。

金額で見ると、賃料・リースが「診療の質に触れずに動かせる最大の塊」であることが分かります。賃料は更新時期の半年前から、周辺の募集条件を調べたうえで相談するのが現実的です。リースは満了機器の再リース料が割安になることが多く、買い取りや他社見積りとの比較で判断できます。借入も、金利情勢が動く局面では条件変更の相談余地があります。いずれも一度の交渉で12か月分効きますので、時間を使う価値のある作業です。

経費見直しの進め方|今日から動ける5ステップ

  1. 3期分の試算表を費目別に並べる
    会計事務所に「過去3期の費目別推移表」を依頼すれば、たいてい1週間ほどで出てきます。増えた費目に印を付けます。
  2. 年間金額の上位10項目を抜き出す
    比率ではなく金額で並べ替えます。ここに載らない項目は、当面は触らないと決めてしまってかまいません。
  3. 契約書と直近の請求書を集める
    単価×数量に分解します。「台数が多い」のか「単価が高い」のかで、打ち手はまったく変わります。
  4. 削る・据え置く・むしろ増やす、の3つに仕分ける
    教育や採用は「増やす」に入れて構いません。全部を削る前提で臨むと判断を誤ります。
  5. 3か月後に効果を検証し、月次で定点観測する
    削減額を月次の数字表に載せて追います。載せない削減は、半年で元に戻ります。

この5つを、私は年に1回、決算の少し前に行うようにしております。院長がすべて自分で交渉する必要はなく、事務長や会計事務所と分担していただいて問題ありません。

経費率が下がったのに利益が増えないときは

経費率は分数です。分子(経費)を下げても、分母(医業収入)が同時に減っていれば、比率は改善しても手取りは増えません。経費削減に取り組んだあと、次のチェックリストで収入側を確認してみてください。

  • 1日あたり患者数が、前年同月と比べて減っていないか
  • 患者単価が下がっていないか(材料や検査の見直しが影響していないか)
  • 再診率・予約の埋まり方が落ちていないか
  • スタッフの残業が減った分、待ち時間が延びていないか
  • 削減の当月だけでなく、3か月・6か月後も効果が続いているか
  • 削減額が月次の数字表に記載され、毎月確認されているか

もし収入側が落ちているようであれば、経費ではなくそちらが本題です。毎月見るべき数字の作り方については、クリニック経営の指標7つ|毎月見る数字表の作り方にまとめておりますので、あわせてご覧いただければと思います。

経費の見直しは、我慢比べではありません。契約を年に一度点検し、金額の大きいところから順に交渉する。それだけで、診療の中身を一切変えずに利益が残る形に近づきます。まずは直近3期の費目別推移表を取り寄せるところから、始めてみてください。

よくある質問

Q. クリニックの経費率の目安は何%ですか

A. 無床診療所では70〜80%前後が一つの目安といわれます。ただし診療科と院長報酬の計上方法で大きく変わるため、他院平均との比較より自院の3期推移で見るほうが実用的です。

Q. 経費削減はどの費目から手をつけるべきですか

A. 年間金額が大きく、診療の質に触れない固定費からです。賃料、リース、保守・委託契約、通信費、借入金利が代表例で、単価と数量に分解してから交渉すると効果が出やすくなります。

Q. 人件費は減らしたほうがよいのでしょうか

A. 総額を減らすより、残業時間と業務配分の見直しが先です。人員を減らして待ち時間が延びると再診率が下がり、採用と教育の費用も再び発生するため、収入側で失うほうが大きくなります。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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