この記事の結論
- 院長報酬を除く人件費率は20〜25%が一つの目安
- 整形外科は25〜35%でも構造上おかしくない
- 率を下げる前に分母と一人あたり生産性を見る
「人件費が重い気がするけれど、うちの数字が高いのか普通なのかが分からない」。院長先生からいただくご相談で、集患と並んで多いのがこのお悩みです。決算書を見て漠然と不安になり、かといってスタッフを減らす決断もできず、そのまま数年が過ぎてしまう。私自身も複数の法人を運営しながら、同じ迷い方をしてきました。
結論を先にお伝えします。無床診療所の人件費率は、院長(理事長)報酬を除いた場合で医業収入の20〜25%程度が一つの目安といわれます。ただしこれは診療科によって大きく動き、リハビリスタッフを多く抱える整形外科では25〜35%でも構造上おかしくありません。そして人件費率が高いと感じたとき、最初に手を付けるべきは人数ではなく、分母である収入と、スタッフ一人あたりの生産性です。この記事では、その順番を整理してお伝えします。
クリニックの人件費率の目安は何%か
まず言葉の定義を揃えておきます。人件費率とは、医業収入に占める人件費の割合を示す指標で、「人件費 ÷ 医業収入 × 100」で計算します。ここでいう人件費には、給与・賞与だけでなく、社会保険料の事業主負担(法定福利費)、通勤手当、退職金の積立、健康診断や慰労にかかる福利厚生費までを含めるのが一般的です。給与だけを見ていると、実際より3〜5ポイント低く見積もってしまいます。
一般的な水準としては、無床診療所で院長報酬を除いた人件費率が20〜25%、30%を超えてくると「構造を一度点検したい範囲」と考えられています。ただしこれはあくまで平均的な目安であり、診療科・立地・診療体制によって適正値は変わります。数字そのものより、自院の数字が去年からどちらに動いているかのほうが、経営判断としては重要です。
診療科別の人件費率の目安(院長報酬を除く/医業収入比)
各種の診療所経営データから私が実務でよく使っている目安です。地域・体制で幅があり、確定値ではありません。
内科と整形外科で人件費率が違うのはなぜか

同じ「クリニック」でも、内科と整形外科では収益の作り方がまったく違います。ここを理解しないまま他院の数字と比べると、必要な人まで削ってしまいます。
内科の人件費率は20〜25%程度が目安です。医師一人が診療の中心にいて、看護師と受付でその周りを支える構造のため、スタッフ数は比較的抑えられます。ただし在宅診療や生活習慣病の指導管理に力を入れると、看護師・管理栄養士・事務の増員が必要になり、人件費率は上がります。この場合の上昇は「悪化」ではなく「投資」で、単価と継続率で回収できているかを見るべきものです。
一方、整形外科の人件費率は25〜35%程度が目安になります。理学療法士や柔道整復師、リハビリ助手を配置し、その人たちが動くことで収入が生まれる構造だからです。つまり整形外科は人件費率が高くて当たり前の科であり、率だけを見て「多すぎる」と判断すると収益源を削ることになります。整形外科の場合は率よりも、リハビリスタッフ一人あたりが月にどれだけの収入を生んでいるかを見ます。単価の考え方は整形外科の患者単価はいくらが目安かで詳しくまとめておりますので、あわせてご覧ください。
| 項目 | 内科 | 整形外科(リハ併設) |
|---|---|---|
| 人件費率の目安 | 20〜25% | 25〜35% |
| 主なスタッフ | 看護師・受付 | PT/柔整・リハ助手・看護師・受付 |
| 収入の作り方 | 医師の診察が中心 | 医師+スタッフの施術が中心 |
| 増員が効く場面 | 在宅・指導管理の拡大 | リハ枠の増設・時間帯の拡張 |
| 率より重視する数字 | 患者一人あたり単価 | スタッフ一人あたり月間収入 |
自院の人件費率を正しく計算する|院長報酬をどう扱うか
人件費率でいちばん混乱が起きるのが、院長(理事長)自身の報酬の扱いです。個人立のクリニックでは院長の取り分は給与ではなく事業主の利益ですから、人件費に入りません。ところが医療法人化すると理事長報酬が人件費に計上されるため、事業の中身が何も変わっていないのに人件費率が10ポイント以上跳ね上がることがあります。
「法人化した年から急に人件費率が悪化した」というご相談は毎年いただきますが、その多くはこの計算上の段差です。他院の数字や書籍の目安と比べるときは、必ず院長報酬を除いたベースに揃えてから比較してください。
よくある計算
決算書の給与手当だけを医業収入で割り、法人の理事長報酬もそのまま含めて他院と比較する。
法定福利費が抜け、法人だけ率が高く出る
見直し後
給与・賞与・法定福利費・通勤手当・退職金積立までを人件費とし、院長報酬を除いた率で年次推移を追う。
個人・法人どちらでも同じ土俵で比べられる
人件費率が高いときに最初に見る3つの数字

率が高いという事実だけでは、原因は分かりません。私が経営改善のお手伝いをするとき、最初に確認するのは次の3つです。
1つ目は、常勤換算スタッフ一人あたりの月間医業収入です。クリニックでは月70〜100万円程度が一つの目安になります。リハビリ併設の整形外科では月50〜70万円でも成立することがありますが、40万円台が続く場合は配置か稼働のどちらかに無理があります。
2つ目は、患者一人あたりの単価です。人件費率が高い医院の相当数は、人が多いのではなく単価が低いだけです。同じスタッフ数でも単価が1割上がれば、人件費率は2〜3ポイント下がります。
3つ目は、時間帯別の患者数とシフトの重なりです。午前のピークに人が足りず、午後の閑散帯に同じ人数が残っている。この山谷のズレが、残業代という形で人件費を押し上げます。この3つを含めて毎月見るべき数字はクリニック経営の指標7つに一覧でまとめております。
人件費率を下げる順番|人を減らすのは最後
順番を間違えると、スタッフの信頼を失ったうえに収入まで落ちます。私がお勧めしているのは次の順番です。
- 分母(医業収入)を点検する
算定漏れ、指導管理料の取りこぼし、予約枠の空きを先に潰します。収入が5%増えれば、人を一人も減らさずに人件費率は1ポイント以上下がります。 - 業務を棚卸しする
誰が何に何分使っているかを2週間だけ記録します。レセプト前の残業、電話対応、予約変更など、仕組みで減らせる業務が必ず見つかります。 - 配置を患者の波に合わせる
常勤を増やす前に、ピーク帯だけのパートで埋められないかを検討します。必要人数の考え方はクリニックのスタッフ適正人数をご参照ください。 - 採用の補充を一度立ち止まって判断する
退職者が出たときが唯一、痛みの少ない調整の機会です。反射的に同数を補充せず、業務が回るかを検証してから決めます。 - 定着に投資する
採用と教育には一人あたり数十万円規模のコストがかかります。離職率を下げることが、結果として最も確実な人件費対策になります。
やってはいけない人件費の下げ方
短期的に数字は良くなっても、1年以内に採用コストと欠員で跳ね返ってくるやり方があります。以下に一つでも当てはまるなら、実行前に社会保険労務士へご相談ください。労務は個別事情で判断が変わる領域です。
- 説明のないまま一律で手当をカットする
- 固定残業代を実態と合わない形で導入し、超過分を支払わない
- 給与の高いベテランから先に整理しようとする
- 賞与を前触れなく取りやめる
- 院長が空いた業務を全部引き取り、自分の診療時間を削る
特に最後の一つは、多くの院長先生が無自覚にやってしまいます。院長の時間は院内で最も単価の高い資源です。そこに事務作業を積み上げるのは、帳簿に出ない人件費の増加にほかなりません。人件費率は削って下げる数字ではなく、収入と業務設計を整えた結果として下がる数字だと、私は考えております。
なお、診療報酬や社会保険料率は改定されます。2026年時点の目安として書いておりますので、実際の判断では最新の改定内容と、顧問税理士・社会保険労務士のご確認を経てお進めください。
よくある質問
Q. クリニックの人件費率は何%までなら適正ですか
A. 院長報酬を除いて20〜25%が一つの目安です。30%超なら点検の対象ですが、リハビリ併設の整形外科など人手で収入を作る科は25〜35%でも構造上妥当です。
Q. 人件費に院長(理事長)の報酬は含めますか
A. 個人立では事業主利益のため含めません。医療法人では人件費に計上され率が上がります。他院と比べる際は院長報酬を除いたベースに揃えてください。
Q. 内科と整形外科で人件費率の目安が違うのはなぜですか
A. 内科は医師の診察が収入の中心ですが、整形外科は理学療法士等が動くことで収入が生まれるためです。整形外科は率よりスタッフ一人あたりの月間収入で見ます。
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