クリニックでスタッフがすぐ辞める原因|院長が見落とす3つの理由

この記事の結論

  • すぐ辞める原因は人柄ではなく仕組みの空白
  • 役割・評価基準・入職30日の設計が抜けている
  • 1名の早期離職で50〜60万円が消える(目安)

「先月入った受付の方が、もう辞めたいと言っています」。こうしたご相談を、私は毎月のように受けております。求人費をかけ、面接に時間を割き、ようやく来てくださった方が三か月ももたない。院長ご自身は誠実に診療に向き合っておられるのに、人だけが定着しない。私も複数の法人で人の出入りを経験してきましたので、あの消耗のつらさはよく分かります。

先に結論を申し上げます。クリニックのスタッフがすぐ辞める離職原因は、院長の人柄や相性ではなく、多くの場合「仕組みの空白」にあります。私が経営改善のお手伝いに入るとき、まず疑うのは次の3つです。①仕事の線引きが決まっていない、②評価と昇給の基準が院長の頭の中にしかない、③入職後30日の教育が設計されていない。この3つは、院長の位置からはほとんど見えません。見えないからこそ、同じことが何年も繰り返されます。

目次

クリニックのスタッフが「すぐ辞める」とは、どのくらいの期間を指すのか

早期離職とは、一般に入職から1年以内、とくに試用期間前後の3か月以内に退職することを指します。院長が「またか」と感じるのはほぼこの期間で、辞める側にも「思っていた仕事と違った」という共通した言い分があります。

医療・福祉分野の離職率は年間14〜15%前後で推移しているといわれます(2026年時点。統計は毎年更新されますので最新値はご確認ください)。ただし、これは業界全体の平均です。スタッフ8名のクリニックであれば、1名辞めるだけで離職率は12.5%になります。平均と比べて一喜一憂しても意味はありません。見るべきは率ではなく「辞めた方が何か月で辞めたか」という一点です。3か月以内が続いているなら、採用の運が悪いのではなく、受け入れ側の設計に穴があると考えたほうが早いです。

そして早期離職は、静かに利益を削ります。受付スタッフ1名が3か月で辞めた場合、私が試算に使っている目安は次のとおりです。

受付スタッフ1名が早期離職したときのコスト(目安)

求人媒体・紹介手数料20〜30万円
教育期間の非効率15万円前後
既存スタッフの残業増8万円前後
院長の面接・書類対応5万円前後

私が相談を受ける際に使っている目安です。地域・媒体・診療科により大きく変動します。

合計すると1回あたり50〜60万円前後。年に2回起きれば100万円を超えます。人件費率はクリニックで売上の40〜50%程度が一つの目安といわれますが、この「辞めたコスト」は人件費率の表には出てきません。だからこそ院長が気づきにくいのです。

離職原因①|「誰の仕事か」が決まっていない

※写真はイメージです

一つ目は、業務の線引きの不在です。10人以下の組織では「気づいた人がやる」で回ってしまいます。院長にとっては柔軟で良い状態に見えますが、スタッフから見ると「よく気がつく人だけが損をする仕組み」です。掃除、電話、レセプトの締め、備品発注、クレーム対応。名前のない仕事ほど、特定の1〜2名に寄っていきます。

そして寄せられた側は、院長に相談しません。「忙しい先生に言うことではない」と判断して、黙って求人サイトを見ます。私が退職面談に同席させていただくと、「不満はありません。ただ、ずっとこのままかと思って」という言い方をされる方が本当に多いです。これは不満がないのではなく、改善される見込みがないと結論づけられた状態です。

現状

業務分担は口頭のみ。「手が空いた人がやる」で運用している。

負荷が一部に偏り、本人も院長も気づかない

見直し後

名前のない業務を書き出し、担当者と実施タイミングを1枚の表にする。

偏りが可視化され、増員か削減かの判断ができる

やることは単純で、まず1週間、実際に発生した業務をすべて書き出していただきます。だいたい40〜60項目出ます。そのうち担当が決まっているのは半分以下、というのがよくある結果です。書き出したうえで人数が足りないのか、業務が多すぎるのかを分けて考えます。人数の考え方はクリニックのスタッフ適正人数|患者数と診療科別の計算方法で整理しておりますので、併せてご覧ください。

離職原因②|評価と昇給の基準が、院長の頭の中にしかない

二つ目は、処遇の基準が言語化されていないことです。院長は「よく見ている」つもりでも、スタッフには伝わっていません。昇給の時期も金額も、院長がその年の業績を見て決めている。悪意はまったくありませんが、受け取る側からは「基準がない」と映ります。

基準がないと何が起きるか。スタッフ同士が推測で比較を始めます。「あの人は院長のお気に入りだから」という言葉が出たら、その組織はすでに評価が機能していません。そして比較は、必ず退職の話とセットで広がります。

項目 基準がない運用 基準を決めた運用
昇給の決め方 院長がその年ごとに判断 時期と評価項目を年度初めに公開
スタッフの受け取り方 「頑張っても変わらない」 「ここを満たせば上がる」
不満の出方 陰で比較され、伝聞で広がる 面談の場で本人に返る
院長の負担 その都度説明が必要 年1〜2回の面談に集約できる

難しい人事制度は不要です。私がお勧めしているのは、A4で1枚、評価項目を5つに絞る形です。たとえば「遅刻欠勤」「レセプト算定の正確さ」「患者対応」「後輩指導」「改善提案」。それぞれ3段階で、昇給時期は毎年◯月と明記する。これだけで「基準がない」という不満はかなり減ります。金額の大小より、先に決まっていることが効きます。

離職原因③|オープニングスタッフが辞めるのは、最初の30日に理由がある

※写真はイメージです

三つ目は、入職直後の設計です。とくに開業時のオープニングスタッフが辞める割合は高く、開業1年以内に初期メンバーの一部が入れ替わるのは珍しいことではありません。理由ははっきりしています。開業直後は院長も内装・機器・保健所対応・集患で手一杯で、教える人が誰もいない状態だからです。

オープニングスタッフには「教えてくれる先輩」が構造上存在しません。全員が新人で、全員が手探りです。そこに患者数が読めない不安が重なると、「この職場は大丈夫だろうか」という判断が入職2〜3週間で下されます。院長が忙しさを抜けて余裕を持てるころには、もう決まっているのです。

  1. 初日|1日の流れを紙で渡す
    始業から終業まで、時間軸で「誰が何をするか」を書いた1枚を用意します。口頭説明だけにしないことが要点です。
  2. 1週目|毎日5分の振り返り
    終業後に「今日困ったこと」を1つだけ聞きます。長い面談は不要で、聞く場が毎日あるという事実が効きます。
  3. 2〜3週目|担当業務を1つ任せる
    備品発注でも予約枠の管理でも構いません。「自分の持ち場がある」状態を早くつくります。
  4. 30日目|院長との面談
    15分で十分です。困っていること、思っていた仕事との差を確認し、その場で1つは改善を決めます。
  5. 3か月目|試用期間の締めくくり
    できるようになったことを具体的に伝え、今後の期待と評価の基準を共有します。

この5つを回すだけで、早期離職はかなり減ります。特別なことは何もしておらず、単に「放置しない」という設計です。なお、そもそも採用段階で見極めを外している場合もありますので、面接の質問設計はクリニックの受付パート採用|失敗しない見極め基準と質問例もご参照ください。

辞める前に必ず出るサイン|院長のチェックリスト

退職の申し出は突然に見えて、実際には1〜2か月前から兆候が出ています。診療の合間でも観察できるものを挙げます。3つ以上当てはまるようでしたら、面談の時間を取っていただくことをお勧めします。

  • 雑談に加わらなくなり、休憩時間に一人でいることが増えた
  • 「これはどうしますか」という質問が来なくなった
  • 有給の取得希望が、これまでより早めに出るようになった
  • ミスを報告せず、自分で処理しようとする場面が増えた
  • 特定のスタッフ同士の会話が、院長の前で止まるようになった
  • シフト希望に「この日は出られません」が増え、理由を言わない

質問が来なくなるのは、特に重い兆候です。改善を諦めた人は、質問をしません。ここで院長が「最近どう」と声をかけても、返ってくるのは「大丈夫です」だけです。関係が冷えてからの回復には順番がありますので、院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因|信頼を取り戻す順番もあわせてご確認ください。

明日から始める、離職を止める順番

すべてを一度にやろうとすると続きません。私が現場でお願いしている順番は次のとおりです。

  1. 今週:1週間分の業務をすべて書き出し、担当が決まっていない項目に印をつける。
  2. 2週目:印のついた業務に担当と実施タイミングを割り振り、1枚の表にしてスタッフルームに貼る。
  3. 1か月目:評価項目5つと昇給時期をA4で1枚にまとめ、全員に配って口頭でも説明する。
  4. 2か月目:入職30日プログラム(上記5ステップ)を文書化し、次の採用から必ず適用する。
  5. 四半期ごと:一人15分の面談を全員に実施。困りごとを1つ聞き、1つ必ず改善して次回に報告する。

順番に意味があります。評価制度から入りたくなる院長は多いのですが、業務分担が曖昧なまま評価だけ作ると「何を評価されているのか分からない」となり、かえって不信を招きます。まず仕事の輪郭を描き、次にその仕事をどう評価するかを決める。この順序を崩さないことが大切です。

なお、労働条件の変更や就業規則の整備が絡む場面では、労働基準法や医療法の範囲がありますので、社会保険労務士など専門家にご確認いただくのが確実です。ここでお伝えしているのは、あくまで院長がご自身の判断で今日から動かせる範囲の話です。

スタッフがすぐ辞めることを、ご自身の人間性の問題として抱え込まれる院長を、私は何人も見てきました。しかし多くの場合、原因は設計の空白です。空白は埋められます。まずは業務の書き出し1枚から始めていただければと思います。

よくある質問

Q. クリニックのスタッフがすぐ辞めるのは院長の性格が原因ですか

A. 多くの場合は違います。業務分担の曖昧さ、評価基準の不在、入職30日の教育不足という仕組みの問題が重なって起きています。設計を直せば改善します。

Q. オープニングスタッフが辞めやすいのはなぜですか

A. 全員が新人で教える人が構造上いないためです。開業直後は院長も手が回らず放置されがちで、入職2〜3週間で職場の評価が固まってしまいます。

Q. スタッフ1人が早期離職すると、いくら損失が出ますか

A. 求人費・教育の非効率・既存スタッフの残業増などを合わせ、1名あたり50〜60万円前後が目安です。地域や媒体により変動します。

Q. 評価制度は小規模クリニックでも必要ですか

A. 必要です。ただし複雑なものは不要で、評価項目5つと昇給時期をA4で1枚にまとめ、全員に公開するだけでも不満はかなり減ります。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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