MS法人のメリット・デメリット|違法にならない線引きと判断手順

この記事の結論

  • MS法人自体は違法ではなく、否認されるのは実態のない委託料です
  • 節税額より維持コストが上回る規模では作らない判断も有効です
  • 医療法人化を見据えるなら役員兼務と賃料水準を先に確認します

「MS法人を作れば節税になると勧められたが、違法ではないのか」——MS法人のメリット・デメリットについて、こうしたご相談を毎月のようにいただきます。結論から申し上げます。MS法人そのものは違法ではありません。否認されたり指導を受けたりするのは、法人の存在ではなく業務の実態がないのに委託料だけが動いている状態です。そして実務上もうひとつ大きいのが、節税額よりも維持コストのほうが上回ってしまう規模で作ってしまうことです。私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。その中で見てきた判断の勘所を、順にお伝えします。

目次

MS法人とは何か|個人開業・医療法人と何が違うのか

MS法人とは、メディカルサービス法人の略称で、医療機関の業務のうち医療行為以外の部分(建物や駐車場の賃貸、医療機器のリース、受付や事務の代行、給食、清掃、寝具、物品の仕入れなど)を引き受けるために設立する営利法人(株式会社や合同会社)のことです。医療法にMS法人という言葉が定義されているわけではなく、あくまで実務上の通称である点は押さえておいてください。

なぜこうした法人が使われるのか。医療法人は非営利性が求められ、剰余金の配当ができず、事業の範囲にも制約があります。一方で院長の周囲には、医療行為ではないけれど確実に発生している業務とお金の流れがあります。その受け皿として営利法人を並走させる、という発想です。

項目 個人開業 医療法人 MS法人
設立の根拠 開設届 医療法(都道府県認可) 会社法(登記のみ)
設立までの期間 数週間 半年〜1年程度 2〜4週間程度
配当 — 不可 可能
できる事業 医業 医業と附帯業務 制限なし(医業は不可)
家族への給与 専従者給与の枠内 役員報酬(実態必要) 役員報酬(実態必要)
税率の性格 累進(最高55%) 法人税率 法人税率

ここで注意していただきたいのは、MS法人は「医療法人の代わり」ではないということです。医業収入そのものをMS法人に付け替えることはできません。あくまで医療以外の業務に対する対価が入口になります。

MS法人のメリットは何か|税率差だけではない

※写真はイメージです

MS法人のメリットは、大きく5つに整理できます。

  1. 所得の分散による税率差。個人の所得税は累進で、課税所得4,000万円超の部分は住民税と合わせておよそ55%に達します。法人側の実効税率はこれより低く、所得が一点に集中している院長ほど差が出ます。
  2. 家族に報酬を出す根拠を作りやすい。個人開業の専従者給与は制約が強く、医療法人の役員報酬も業務実態を問われます。MS法人であれば、事務・労務・広報など担っている業務に応じた報酬設計がしやすくなります。
  3. 医療法人では制約のある事業を持てる。不動産の保有、物販、コンサルティング、施設運営など、医療法人の附帯業務に収まらない事業の受け皿になります。
  4. 資産の受け皿と承継。建物や医療機器をMS法人が保有することで、医療法人の出資持分の評価が膨らみにくくなる場合があります。承継を見据えるなら、この論点は早い段階で検討する価値があります。
  5. 退職金や福利厚生の設計余地。法人としての退職金規程や保険の活用など、個人事業では組みにくい設計が可能になります。

所得にかかる税率の目安(2026年時点)

個人(課税所得4,000万円超の部分)約55%
法人(所得800万円超の部分)約33%
法人(所得800万円以下の部分)約25%

目安。所得税45%+住民税10%、法人は地方税を含めた実効税率のおおよその水準です。法人の規模や自治体により変わるため、最新の税制は顧問税理士にご確認ください。

配偶者に報酬を出す設計は特に相談が多い論点です。詳しくは開業医の妻に役員報酬を払う正しい形|MS法人と医療法人の注意点で整理しておりますので、あわせてご覧ください。

MS法人のデメリットは何か|手元に残る額は思ったより増えない

ここが最も見落とされます。税率差だけを見ると魅力的に映りますが、実際に手元に残る金額は、維持コストと社会保険料を差し引いた後の数字です。

相談時によく聞く期待

「税率差が20ポイントあるから、1,000万円を移せば200万円得をする」

税率の差額だけで計算した状態

実際に検討する数字

設立費用、法人住民税の均等割(年7万円程度)、税理士報酬(年20〜40万円程度)、社会保険料の事業主負担、消費税——これらを引いた後の残りが実質的な効果

目安。差し引くと効果がほとんど消える規模もあります

特に日本の医療機関で効きやすいのが消費税です。保険診療の収入は消費税が非課税のため、医療機関がMS法人に支払う業務委託料や賃料に上乗せされた消費税は、原則として仕入税額控除ができません。つまり委託料の10%がそのままコスト増になります。年間3,000万円を委託すれば300万円です。この一点だけで、税率差のメリットが吹き飛ぶケースは珍しくありません。

そのほか、次のような負担が生じます。

  • 社会保険の加入義務が新たに発生し、労使合計で報酬のおおむね3割前後の負担が生じる場合がある
  • 決算・申告・議事録など、法人が1つ増えることによる事務作業
  • MS法人が赤字でも均等割は毎年発生する
  • 取引価格(賃料・委託料)の妥当性を毎年説明できる状態にしておく必要がある

私がご相談を受けたときにまず確認するのは、「その節税額は、増える手間と固定費を払ってでも取りに行く価値があるか」です。年間の効果が100万円に満たないのであれば、私は作らない選択も十分に合理的だとお伝えしています。

MS法人は違法なのか|否認されるのはどこか

※写真はイメージです

「MS法人は違法」という言い方をときどき耳にしますが、正確ではありません。MS法人という仕組み自体を禁じる規定はなく、実際に多くの医療機関で使われています。問題になるのは、次の3つの局面です。

1. 税務上の否認(実態のない委託料)

最も多いのがこれです。契約書はあるが誰も業務をしていない、委託料の根拠が説明できない、外部相場からかけ離れて高い——こうした場合、支払いが経費として認められず、寄附金や役員賞与として扱われることがあります。追徴に加えて加算税が乗るため、痛みは小さくありません。

2. 医療法上の非営利性(医療法人化している場合)

医療法人の運営では非営利性が重視され、都道府県の指導要綱等において、医療法人の役員がMS法人の役員を兼務することは原則として望ましくないとされています。また、MS法人へ支払う賃料や委託料が不当に高い場合も、実質的な利益の配当とみなされうる点に注意が必要です。取扱いは自治体により差があるため、医療法人化を検討している段階なら、設立前に管轄の窓口と顧問税理士の双方に確認しておくことをお勧めします。

3. 患者の紹介に対する対価

患者を紹介した対価を支払う・受け取るといった設計は、名目がどうであれ手を出すべきではありません。ここは節税の議論以前の問題です。

  • MS法人が担う業務を、第三者に説明できる粒度で書き出してある
  • 誰が・週に何時間・どの業務を行っているか記録が残っている
  • 委託料・賃料の金額に、外部相場や積算の根拠がある
  • 契約書が存在し、実際の取引と内容が一致している
  • MS法人の口座・帳簿が医療機関と明確に分かれている
  • 役員報酬を受け取る家族に、対応する実務がある
  • 医療法人化を予定している場合、役員兼務の扱いを確認済み
  • この7つがすべて「はい」であれば、大きく崩れることは考えにくいと私は見ています。逆に1つでも曖昧なら、そこが指摘される入口です。税務調査で問われやすい論点は開業医の節税でNGな5つ|税務調査で指摘されるパターンにもまとめておりますので、参考になさってください。

    MS法人を作るべきか|設立前に踏む5つのステップ

    順番を間違えると、作った後に「やはり畳みたい」となります。法人の清算にも手間と費用がかかりますので、次の順で確かめてください。

    1. 移せる業務を実際に洗い出す
      建物・駐車場の賃貸、医療機器のリース、事務代行、清掃、寝具、広報など。紙に書き出して、実際に人が動いている業務だけを残します。ここが薄いなら、その時点で結論は出ています。
    2. 年間の金額規模を見積もる
      移す業務に対して妥当な対価はいくらか。外部業者に頼んだ場合の相場を調べ、上限の目安にします。相場を超える金額は説明が難しくなります。
    3. 効果とコストを差し引きで試算する
      税率差による効果から、消費税の増加分、社会保険料、税理士報酬、均等割を引きます。この残りが年間で何百万円になるかを、顧問税理士に数字で出してもらってください。
    4. 医療法人化のスケジュールと突き合わせる
      将来医療法人にする予定があるなら、役員構成や賃料水準を先に設計しておきます。後から直すほうが手間がかかります。
    5. 運用の担い手を決めてから設立する
      誰が請求書を出し、誰が記帳し、誰が業務記録を残すのか。ここが決まらないまま設立すると、実態のない法人になります。

    私の見立て|MS法人が向く方・向かない方

    私の経験の範囲で申し上げると、MS法人が機能しているのは、医療以外の業務やお金の流れがもともと厚いケースです。建物を自己所有している、複数拠点を持っている、医療以外の事業を並行している、家族が実務に深く関わっている——こうした状況であれば、法人を分ける意味が自然に出てきます。

    逆に、テナント開業のみで、移せる業務が事務代行くらいしか見当たらず、所得もまだ大きくない段階では、コストのほうが先に立ちます。この場合は、MS法人より先に診療報酬の算定漏れや人件費率の見直しに取り組んだほうが、手元に残る金額は確実に増えます。法人を作らずに個人のまま進める判断については、開業医が法人化しないメリット|個人のまま続ける5つの判断基準もあわせてご覧いただければと思います。

    MS法人は、節税の裏技ではなく、事業の実態に合わせて器を分ける手段です。実態が先、器が後。この順番さえ守っていただければ、違法か合法かで悩む場面はぐっと減ります。なお、税制も医療法の運用も改正されますので、判断の際は2026年時点の最新の取扱いを、必ず顧問税理士や管轄の窓口にご確認ください。

    よくある質問

    Q. MS法人は違法ですか

    A. MS法人自体を禁じる規定はありません。問題になるのは実態のない委託料や不当に高い賃料で、税務上の否認や医療法人の非営利性の観点から指導を受ける可能性があります。

    Q. MS法人の設立費用と維持費はいくらですか

    A. 目安として設立費用は合同会社で10万円前後、株式会社で25万円前後です。維持費は法人住民税の均等割が年7万円程度、税理士報酬が年20〜40万円程度かかります。

    Q. MS法人を作ると消費税はどうなりますか

    A. 保険診療は非課税売上のため、医療機関が支払う委託料の消費税は原則として控除できません。委託料の10%がコスト増となる点は事前に試算が必要です。

    Q. 医療法人の理事長がMS法人の役員を兼務できますか

    A. 医療法人の非営利性の観点から、原則として望ましくないとされています。取扱いは自治体により差があるため、設立前に管轄窓口と顧問税理士にご確認ください。

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    この記事を書いた人

    佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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