クリニックの運転資金融資|銀行に通る院長・通らない院長の違い

この記事の結論

  • 運転資金融資は返せる根拠を自分の言葉で説明できるかで決まる
  • 追加融資は資金が尽きる3か月前までに相談を始める
  • 金利より、調達枠と据置期間の交渉のほうが効きます

「今月の支払いが少し不安だ」「開業のときの融資は通ったのに、追加融資の話を出したら銀行の反応が鈍くなった」。こうしたご相談を、毎月のようにいただいております。私は整形外科医として診療を続けながら、複数の法人の経営と、クリニック・病院の経営改善や再生のお手伝いをしております。その中で見えてきたことがあります。クリニックの運転資金融資が通るかどうかは、業績の良し悪しだけで決まっているわけではない、ということです。

結論を先に申し上げます。銀行に通りやすい院長は、「返せる根拠」を銀行が使う言葉で説明できる院長です。反対に通りにくい院長は、数字を顧問税理士に任せきりで、なぜ資金が足りなくなったのかをご自身の口で説明できません。同じ決算書を持ち込んでも、この差で結果が変わります。以下、私の見立てと、明日から準備できる手順をお伝えします。

目次

クリニックの運転資金融資とは|設備資金と何が違うのか

運転資金融資とは、人件費・家賃・薬品や材料の仕入れ・リース料など、日々の診療を回すために出ていくお金を賄うための借入です。建物や医療機器のように形が残るものを買う「設備資金」とは、銀行の審査の目線がまったく違います。

設備資金は「その機械でいくら稼げるか」という説明ができます。一方で運転資金は、形が残りません。だからこそ銀行は「なぜ足りなくなったのか」「いつ、何で返すのか」を厳しく見ます。ここを曖昧にしたまま申し込むと、業績が悪くない院長でも止まります。

項目 設備資金 運転資金
使いみち 内装・医療機器・不動産 人件費・家賃・仕入れ・税金
審査の中心 その投資が生む収益 不足した理由と返済原資
返済期間の目安 10〜15年程度 5〜7年程度(短めになりやすい)
証拠資料 見積書・図面 資金繰り表・試算表

診療報酬はご存じのとおり、レセプト請求から入金まで約2か月かかります。開業直後や、患者数が急に増えた時期は、売上が伸びているのに現金が足りないという状態が起こります。これは経営が悪いのではなく、構造上そうなるものです。銀行にもそう説明できるかどうかが分かれ目になります。

追加融資が通らない院長に共通する3つのこと

追加融資でつまずく院長には、驚くほど似た傾向があります。私が相談を受けていて多いと感じるのは、次の3つです。

ひとつめは、相談のタイミングが遅いこと。残高が数百万円になってから駆け込む方が少なくありません。銀行から見れば「もう危ない」というサインです。ふたつめは、資金使途の説明が漠然としていること。「運転資金として2,000万円」では通りません。みっつめは、前回の融資で言ったことと今回の話が食い違っていることです。銀行は前回の面談記録を必ず持っています。

よくある誤解

黒字なら追加融資は通る。赤字だから断られた。

決算書の利益だけを見ている状態

実際に見られていること

赤字でも理由と回復の道筋が説明できれば通ることがあり、黒字でも説明できなければ止まります。

銀行が見ているのは「今後返せるか」

特に、スタッフの増員で人件費が膨らんで資金が細くなっているケースは多いです。人員配置が適正かどうかは、融資の前に一度整理しておく価値があります。この点はクリニックのスタッフ適正人数|患者数と診療科別の計算方法で詳しく書いておりますので、あわせてご覧ください。

銀行が見ている数字はどこか|返済原資という考え方

銀行が最終的に見ているのは、ひとつの引き算です。返済原資(税引後利益+減価償却費)が、年間の返済額を上回っているか。これだけです。ここがマイナスなら、どれだけ患者さんが多くても「返せない先」と判断されます。

返済原資と年間返済額の関係(医業収益1億円規模の例・目安)

税引後利益500万円
減価償却費300万円
返済原資(合計)800万円
年間返済額600万円

数値は説明のための目安です。実際の判断は決算内容により異なります。

この例なら返済原資800万円に対して返済額600万円ですから、余力は年200万円。ここに追加融資を乗せると余力が消える、という会話を銀行はしています。ですから交渉の場では、単に「貸してほしい」ではなく「既存借入をまとめて返済期間を延ばせないか」という提案が効くことがあります。

もうひとつ、必要な運転資金の目安として、固定費の3か月分を手元に置いておく考え方があります。月の固定費が800万円なら2,400万円。これを下回り始めたら、まだ余裕があるうちに動く時期です。

クリニックの融資の金利はどのくらいが目安か

※写真はイメージです

金利は調達先によって幅があります。2026年時点の一般的な水準として、おおよそ次のような整理になります。ただし金利情勢や制度は頻繁に変わりますので、必ず最新の条件を各機関でご確認ください。

調達先 金利の目安 特徴
日本政策金融公庫 年1〜3%程度 開業期・据置期間の相談がしやすい
信用保証協会付き融資 年1〜2%台+保証料 保証料が別途かかる。枠に上限あり
銀行プロパー融資 年1〜3%程度 実績が評価されれば条件は良くなる
ノンバンク・ビジネスローン 年数%〜二桁 速いが高い。常用は避けたい

院長からは「金利を下げたい」というご相談をよくいただきますが、私は金利より先に、据置期間と返済期間を交渉すべきだと考えております。仮に2,000万円の借入で金利が0.5%下がっても、年間の負担軽減は10万円ほどです。それより、元金の据置を6か月つけてもらうほうが、目の前の資金繰りには効きます。

追加融資を申し込む前にやる5つの準備

実際に銀行へ行く前の準備です。この順番で整えると、面談の内容がまったく変わります。

  1. 13か月分の資金繰り表を作る
    過去1か月と今後12か月の入出金を月次で並べます。エクセルで構いません。これがない状態での申込は、私はお勧めしておりません。
  2. 不足した理由を一文で書く
    「増員と機器リースの重複で月◯万円の固定費増」など、原因を特定して短く言い切れる形にします。
  3. 直近の試算表と診療実績を揃える
    月別のレセプト件数・患者数の推移も添えます。売上の中身が見えると説得力が変わります。
  4. すでに手を打った改善策を示す
    シフトの見直し、材料仕入れの整理、自費メニューの導入など、着手済みのものを実数で示します。
  5. 残高が固定費3か月分を切る前に相談する
    逆算すると、動き出すのは資金が尽きる3〜6か月前です。ここが最も大切です。

資金繰り表を毎月更新する作業は、院長おひとりでは続きません。事務長やそれに準ずる役割の方に任せられる体制があると、融資交渉は格段に楽になります。体制づくりについてはクリニックの事務長は妻でいいのか|仕事内容と報酬・代行の選び方もご参考になるかと思います。

断られたときに、次に何をするか

一度断られても終わりではありません。理由を聞き出し、条件を整えて出し直すことで通った例を、私は何度も見ております。断られた直後に確認していただきたい点を挙げます。

  • 断りの理由を、担当者に具体的に確認したか(枠の問題か、業績か、資料不足か)
  • 既存借入の一本化・期間延長(リスケジュール)の相談はしたか
  • 公庫と民間、両方の窓口に当たったか
  • 信用保証協会の枠がまだ残っているか確認したか
  • 3か月後に再申込できるよう、改善の実績を数字で記録し始めたか
  • 返済猶予の相談が必要なほど切迫していないか、正直に見積もったか

それから、これは経営の話であると同時に、院長ご自身の話でもあります。資金繰りの不安は、誰にも言えないまま抱え込みやすいものです。私自身、経営で追い詰められた時期に、同じ立場の医師に話せたことで判断を誤らずに済んだ経験があります。相談先の作り方については開業医の孤独が深い理由|院長の相談相手を作る3つの出口に書いております。

クリニックの運転資金融資は、追い詰められてから動くと選択肢が一気に減ります。まだ余裕のあるうちに資金繰り表を作り、銀行と定期的に会話を持っておく。それだけで、いざというときの追加融資の通りやすさは変わります。個別の融資条件や税務の判断については、顧問税理士や各金融機関にご確認いただいたうえで進めていただければと思います。

よくある質問

Q. クリニックの運転資金はいくら借りるのが適正ですか

A. 月々の固定費の3か月分を手元資金の目安とし、不足分を借入で埋める考え方が一般的です。実際の額は資金繰り表で必要な時期と金額を算出して決めます。

Q. 赤字でも追加融資は受けられますか

A. 受けられる場合があります。赤字の理由が一時的なものであると説明でき、回復の道筋と着手済みの改善策を数字で示せるかが分かれ目になります。

Q. 融資の相談はどのタイミングで始めるべきですか

A. 資金が尽きる3〜6か月前が目安です。残高が固定費3か月分を切る前に動くと、金利や据置期間の交渉余地が残ります。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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