クリニック開業の自己資金はいくら必要か|融資と現実的な目安

この記事の結論

  • 自己資金の目安は総投資額の1〜2割、1,000万〜2,000万円
  • 運転資金は固定費6か月分。診療報酬の入金は約2か月遅れ
  • ゼロ開業も制度上は可能だが、返済が開業直後の判断を縛る

「開業したいが、手元の資金であといくら足りないのか分からない」。診療圏や医療機器の話より先に、ここで止まってしまう先生は多いように感じております。私のところにも「貯金が800万円ですが開業できますか」というご相談が、毎月のように届きます。

先に結論をお伝えします。クリニック開業の自己資金は、総投資額の1〜2割、金額でいえばおおむね1,000万〜2,000万円が一つの目安です。これは「これだけあれば安心」という額ではなく、「これを下回ると融資の条件と開業後の資金繰りが一段厳しくなる」という分岐点に近い数字です。私は整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。その現場で見てきた範囲で、数字とともにお伝えします。

目次

クリニック開業の自己資金とは何を指すのか

自己資金とは、開業にあたって返済義務を負わずに自分で用意できる資金のことで、預貯金だけでなく退職金や有価証券、親族からの贈与などを含みます。ここを誤解したまま融資面談に臨むと、金融機関との話が噛み合いません。

私が見てきた中で多いのは、「通帳の残高=自己資金」と考えて面談に行き、実質的に評価された額が半分以下だった、というケースです。金融機関は残高の金額そのものより、どうやって貯まったお金かを見ております。毎月の給与から少しずつ積み上がった通帳は、それ自体が計画性の証明になります。一方、面談の直前に一括で入金されたお金は、必ず出どころの説明を求められます。

項目 自己資金として評価されやすい 評価されにくい
預貯金 給与から数年かけて積み立てた残高 面談直前に入金された一時的な残高
親族の資金 贈与契約が明確になっている資金 「いずれ返す」口約束の借入
退職金 支給額が確定し入金済みのもの 見込み額のみで未確定のもの
有価証券 換金の時期と意思が明確なもの 生活防衛資金まで含めた全額
管理方法 開業用に別口座で分けている 生活費と混ざった口座のまま

親御さんからの資金は、贈与なのか借入なのかで扱いが変わります。贈与であれば自己資金として見られますが、贈与税の取り扱いが伴いますので、金額が大きい場合は税理士にご確認ください。借入であれば、それは他の借金と同じ扱いです。「あとで返すつもり」という口約束が一番曖昧で、私はここを曖昧にしたまま進めた先生が、数年後にご家族との関係でこじれる場面を何度か見ております。

開業資金はいくらかかるのか|総額と内訳の目安

※写真はイメージです

自己資金の目標額を出すには、まず総額を知る必要があります。2026年時点で私が見聞きしている範囲では、テナント(賃借)でのクリニック開業資金は、内科系で5,000万〜8,000万円程度、整形外科や眼科のように医療機器の比重が大きい科では8,000万〜1億2,000万円程度になることが多いようです。土地建物を取得する戸建て開業では、さらに数千万円単位で上振れします。

内訳の目安を、内科系のテナント開業でならしたものが次のグラフです。

内科系テナント開業の資金内訳(目安)

医療機器・什器2,000万円
内装・設計監理1,800万円
運転資金(固定費6か月)1,000万円
敷金・保証金・前家賃500万円
広告・HP・開業手続300万円

一例としての目安。診療科・面積・立地・機器の新中古で大きく変動します。

ここで最も見落とされやすいのが運転資金です。診療報酬は原則として月遅れで入金されますので、レセプト請求から入金までおよそ2か月かかります。つまり開業初月の売上が手元に入るのは3か月目です。その間も家賃、給与、リース料は容赦なく出ていきます。私は固定費の6か月分を運転資金の下限としてお伝えしております。この点は開業医1年目の資金繰り|赤字でも潰れない運転資金の目安に詳しくまとめております。

自己資金ゼロでのクリニック開業は可能か

結論から申しますと、制度上は不可能ではありません。自己資金がごくわずかな状態で融資が実行された例も、実際に見ております。ただし私は、「できるか」と「したほうがよいか」は分けて考えるべきだと思っております。

よくある想定

自己資金が少なくても、融資さえ通れば開業はできる

審査の通過をゴールにしてしまう状態

実際に起きること

借入が増えるほど毎月の返済が固定費化し、開業直後の判断を縛る

8,000万円・15年・年利2%なら月51万円前後の返済

自己資金が薄いと、金利や保証の条件が不利になりやすく、借入額そのものも大きくなります。仮に8,000万円を15年・年利2%で借りれば、月々の返済は元利合わせておよそ51万円です。ここに家賃と人件費が上乗せされます。開業直後の患者数が計画を下回ったとき、この返済額が経営判断そのものを縛ります。人を採るか、機器を足すか、待つか。返済に追われた状態では、どれも冷静には決められません。

もう一つ申し上げたいのが、黒字化までの時間です。一般に、単月黒字までは6か月〜1年半、累積の赤字を解消するまでは2〜3年程度を見ておくのが現実的といわれます(クリニック開業は何年目で黒字か|黒字化期間の目安と分岐点)。この助走期間を返済だけで走り切れるかどうか。自己資金とは、その助走期間の余白そのものだと私は考えております。

開業融資で金融機関が実際に見ている4点

※写真はイメージです

開業融資の主な出し手は、日本政策金融公庫、民間金融機関(医師会や信用保証協会との連携を含む)、リース会社の3つです。窓口によって色は違いますが、見られている観点は概ね共通しております。

  1. 自己資金の額と、その出どころ……前述のとおり、金額よりも積み上げの経緯を見られます。
  2. 事業計画の患者数根拠……「1日40人」という数字がどこから来たのか。診療圏調査の人口か、競合数か、勤務先での実績か。紐づけて説明できるかどうかです。
  3. 院長個人の信用情報と生活費……住宅ローン、教育費、車のローン。事業が黒字でも家計が赤字なら、返済原資は生まれません。
  4. 返済計画の保守性……私の経験では、計画を強気に盛った資料より、患者数が2割下振れした場合の数字まで用意した資料のほうが、結果として評価されております。

面談で答えに詰まりやすいのが4番目です。「もし計画どおりにいかなかったら何をするか」を自分の言葉で説明できるか。ここは金額の話ではなく、経営者としての姿勢を見られている部分だと感じております。なお融資制度や条件は年度ごとに変わりますので、最新の要件は必ず各金融機関でご確認ください。

自己資金が足りないとき、どの順番で進めるか

「今1,000万円に届かないから開業を諦める」という話ではありません。順番を踏めば、1年から2年で状況は変えられます。

  1. 総投資額を先に決める
    診療科と規模から必要総額のレンジを出します。ここが決まらないと、自己資金の目標額も決まりません。
  2. 減らせる初期投資を洗い出す
    医療機器は新品・中古・リースで負担が変わります。内装は坪単価と面積の両方が効きます。
  3. 開業後の家計を月額で確定させる
    生活費が月60万円必要なのか40万円で回るのかで、必要な運転資金は数百万円単位で変わります。
  4. 積立のペースと期限を決めて実行する
    給与からの自動積立にします。通帳の履歴が、そのまま面談での説明資料になります。
  5. 複数の窓口に同時に当たる
    公庫と民間の条件を並べて比べます。1行だけの提示を鵜呑みにしないことです。

特に3番目は地味ですが、効きます。開業後にご自身の家計がいくら必要かを確定させないまま事業計画だけを作ると、必ずどこかで数字が合わなくなります。

面談の前にご自身で確認していただきたいこと

最後に、金融機関との面談前に手元で確認していただきたい項目をまとめます。

  • 総投資額のレンジ(下限と上限)を、診療科と規模から出している
  • 運転資金を固定費の6か月分以上で見込んでいる
  • 自己資金の出どころを、通帳の履歴で説明できる
  • 開業後に必要な家計の生活費を、月額で確定させている
  • 患者数の前提が、診療圏調査か勤務先での実績に紐づいている
  • 患者数が2割下振れした場合の返済計画も用意してある
  • 公庫と民間、2つ以上の窓口で条件を比較している

ご自身の金額を出すには、結局のところ、診療科・立地・規模の数字を並べるほかありません。外部に依頼するかどうかの判断については、開業コンサルは悪徳か|必要性の判断と見分け方・費用の目安に私の考えを書いております。

自己資金は、多ければ多いほど安全という単純な話ではなく、開業後の判断を自分で下せる余白をどれだけ持てるかという話だと思っております。目標額が定まれば、あとは順番に進めるだけです。

よくある質問

Q. クリニック開業の自己資金はいくらあれば足りますか

A. 総投資額の1〜2割、金額では1,000万〜2,000万円が一つの目安です。これを下回ると融資条件と開業後の資金繰りが厳しくなりやすくなります。

Q. 自己資金ゼロでも開業融資は通りますか

A. 制度上は不可能ではなく実例もあります。ただし借入額が増え、月々の返済が固定費として重くのしかかります。開業直後の判断を縛るため、私はお勧めしておりません。

Q. 親からもらったお金は自己資金になりますか

A. 贈与契約が明確であれば自己資金として見られます。「いずれ返す」口約束の借入は他の借金と同じ扱いです。金額が大きい場合は贈与税の取り扱いを税理士にご確認ください。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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