レセプト返戻・減点対策|院長が月1回15分見るだけの点検手順

この記事の結論

  • 返戻は入金の遅れ、査定は収入の消失です
  • 原因は病名と資格確認に集中しています
  • 院長が月1回30分見る仕組みが最短の対策です

レセプトの返戻対策に手を打ちたい——月末に医事スタッフから返戻の束を渡され、内心げんなりしている院長は少なくないと思います。私も自分のクリニックと、経営改善のお手伝いをしている病院の両方で、同じ場面を何度も見てまいりました。

結論から申し上げます。返戻や減点を減らす一番の近道は、医事スタッフの努力量を増やすことではありません。院長が月に1回・30分だけ、決まった順番で3つの数字を見る。これだけで、多くの医療機関は半年ほどで返戻件数が目に見えて減ります。理由は単純で、返戻の原因は毎月同じ数パターンに集中しており、そこは事務の頑張りではなく仕組みでしか直らないからです。この記事では、その点検手順を具体的にお伝えします。

目次

レセプトの返戻と査定(減点)は何が違うのか

まず言葉を整理させてください。ここが曖昧なままだと、対策の打ち方を間違えます。

レセプトの返戻とは、請求内容の記載不備や資格の不一致などを理由に、審査支払機関や保険者から請求そのものが差し戻されることです。いったん支払われず、内容を修正して再請求すればあらためて支払われます。つまり返戻は「お金が消える」のではなく「お金が遅れる」問題です。

一方で査定(減点)は、請求は受理されたうえで、算定要件や医学的必要性の観点から点数を減らされることを指します。こちらは再審査請求(再審査の申出)をして認められない限り、その分の収入は戻りません。増点されるケースもあるため、正式には増減点として通知されます。

項目 返戻 査定(減点)
何が起きるか 請求が差し戻され、その月は入金されない 点数を減らされたうえで支払われる
お金への影響 再請求すれば入金される(1〜2か月遅れる) 放置すればそのまま収入が消える
主な原因 保険資格の誤り、記載漏れ、様式の不備 算定要件・回数・医学的必要性の判断
院長の関与 低くてよい(事務手順で防げるものが多い) 高い(病名記載と診療内容の整合が要)
取り戻す手段 翌月の再請求 再審査請求(期限や取扱いは最新の規定を確認)

返戻対策と査定・減点対策は、手を入れる場所が違います。返戻は受付と医事の作業手順、査定は診療録とレセプト病名の整合。ここを分けずに「レセプトを厳しくチェックしろ」とだけ指示しても、スタッフは何をすればよいかわかりません。

返戻・減点はどのくらいなら「多すぎ」なのか

※写真はイメージです

院長から最も多くいただく質問が「うちの返戻は多いのでしょうか」です。全国一律の基準はありませんが、私が関与している医療機関や、周囲の院長との情報交換から申し上げると、返戻率は請求件数の0.5〜1%程度、査定率(増減点の割合)は請求点数の0.1〜0.5%程度に収まっているところが多い印象です。あくまで目安で、診療科や自費・公費の比率、在宅の有無で大きく振れます。

問題は率そのものよりも金額換算です。仮に月のレセプトが1,000件、1件あたり平均1.5万円相当だとして、返戻率が2%なら20件・約30万円の入金が翌々月にずれ込みます。年間に均せば運転資金の重さが変わってきますし、査定であれば同じ金額がそのまま利益から消えます。人件費や家賃を1円削るより、ここを詰めるほうが早い場合が少なくありません。自院の利益水準そのものが気になる方は、クリニックの利益率の平均|診療科別の目安と自院の位置の確かめ方もあわせてご覧ください。

返戻・査定の発生原因の内訳(私の関与先で分類したおおよその割合・目安)

病名の漏れ・不整合約4割
保険資格・記号番号の誤り約25%
算定要件・回数の超過約2割
再請求漏れ・様式不備など約15%

私が関与する複数施設の返戻・増減点連絡書を分類した際の傾向であり、統計値ではありません。あくまで目安としてご覧ください。

返戻・査定が起きる原因はどこに集中しているのか

上のグラフのとおり、原因は驚くほど偏っています。私の見立てでは、返戻・減点対策の実務は次の3か所に絞って構いません。

1. 病名の漏れと「残ったままの病名」

投薬や検査に対応する病名が入っていない、あるいは治癒・中止した病名が何年も残り続けている。この2つが最も多い原因です。前者は返戻や査定になり、後者は指導の際に指摘されやすい形になります。電子カルテの病名一覧を年に1度は棚卸しするだけでも、状況はかなり変わります。

2. 受付での保険資格確認

資格喪失後の受診、記号番号の入力誤り、公費や労災・自賠責の区分違い。これらは診療の質とは無関係に発生し、そして受付の手順を変えるだけで確実に減ります。マイナ保険証によるオンライン資格確認を全員に対して例外なく回す運用にできているか。ここは院長が一度、自分の目で受付の動きを見たほうが早いです。

3. 算定要件の理解のずれ

回数上限、併算定の可否、期間の制限。2026年時点でも診療報酬は2年ごとに見直されており、改定のたびに要件が動きます。改定月の前後3か月は返戻・査定が増えやすいので、その時期だけは点検の目を細かくしておくと安心です。

よくある現状

返戻が届くと医事スタッフが黙って修正し、翌月に再請求して終わり。院長は中身を見ていない。

結果:同じ原因の返戻が毎月繰り返され、件数が減らない

見直し後

月に1回、上位3パターンだけを院長と共有。診療側の記載が原因なら院長が、事務側の手順が原因なら受付が直す。

結果:原因が潰れていくため、3〜6か月で件数が段階的に下がる

院長が月に1回見るだけの点検手順

※写真はイメージです

ここからが本題です。私が実際に行っており、経営改善のお手伝い先にもお勧めしている手順を5つに整理しました。所要時間は慣れれば30分ほどです。

  1. 返戻・増減点連絡書を1か所に集める
    紙で届くもの、オンラインで確認するもの、保険者から直接来るもの。バラバラの置き場所をやめ、月ごとの1つのファイル(または共有フォルダ)に必ず集約します。ここができていない医療機関が、実は非常に多いところです。
  2. 3つの数字だけを出す
    「返戻件数÷請求件数」「増減点額÷請求額」「返戻のうち再請求済みの件数」。この3つを毎月同じ形式で記録します。増やす必要はありません。3つで十分です。
  3. 原因を上位3パターンだけ分類する
    全件を分析しようとすると続きません。件数の多い順に3つだけ拾い、「病名」「資格」「算定要件」「その他」に仕分けます。5分で終わります。
  4. 1か月に1つだけ、仕組みに落とす
    病名漏れが多いならカルテの病名セットを整備する。資格誤りが多いなら受付の確認手順を1行増やす。同時に3つ直そうとすると定着しないので、1か月に1つと決めます。
  5. 翌月、同じ3つの数字を見る
    下がっていれば継続、変わらなければ打ち手がずれています。この「見て、直して、また見る」を回すこと自体が対策です。毎月見る数字の整え方はクリニック経営の指標7つ|毎月見る数字表の作り方にまとめております。

この手順の狙いは、院長が返戻を1件ずつ直すことではありません。院長が見ている、という事実そのものが、事務側の精度を上げる点にあります。誰も見ていない書類は、どうしても後回しになります。

明日から使える返戻・減点対策のチェックリスト

次のリストを、医事担当と一緒に一度だけ確認してみてください。1つでも「できていない」があれば、そこが最初に手を入れる場所です。

  • 受付で、全員に対して例外なく保険資格の確認を行っているか
  • 月初の保険証切り替え時期に、確認の手を緩めていないか
  • 実施した検査・処置・投薬に対応する病名が入っているか
  • 治癒・中止した病名が、転帰を入れずに残り続けていないか
  • 病名の開始日が、診療開始日より後になっていないか
  • 労災・自賠責・公費の区分が、初診時点で正しく設定されているか
  • 返戻分の再請求が、翌月に漏れなく提出されているか
  • 増減点連絡書を、院長自身が月1回は目を通しているか
  • 診療報酬改定の直後3か月は、点検の頻度を上げているか

そのうえで、レセプトチェック機能の活用もご検討ください。電子カルテやレセコンに標準で付いているチェック機能を使っていない医療機関は、意外と多いものです。外部のレセプト点検ソフトや点検代行を使う場合、規模や範囲によりますが月額数万円程度からが一つの目安になります。返戻・査定で失っている金額と比べて判断するのが現実的です。

そして最も大切なのは、この手順を特定のベテラン職員の頭の中に置かないことです。その方が辞めた瞬間に返戻率が跳ね上がる医療機関を、私は何度も見ています。手順を紙1枚に落として引き継げる形にしておく。その具体的な作り方はクリニックのスタッフ教育|院長不在でも回るマニュアルの作り方でお伝えしています。

査定対策・減点対策でやってはいけないこと

最後に、方向を間違えやすい3点をお伝えします。

1. 通すための病名をつける

算定を通す目的だけで、実態に沿わない病名を付ける。これは返戻や査定以前の問題で、指導・監査の対象となり得ます。短期的に減点が減っても、失うものが大きすぎます。病名は診療の実態に合わせる。これが原則です。

2. 査定を恐れて必要な算定まで削る

一度大きく減点されると、その後「念のため請求しない」という自主規制が始まることがあります。私の経験では、これが最も静かに収益を痛めます。適正に算定できるものを算定するのは正当な行為です。診療単価そのものを見直したい方は、診療単価を上げる正しい方法|算定漏れを防ぐ5つのチェックをご参照ください。

3. 再審査請求を一度もしない

医学的に必要と判断して実施した処置が減点された場合、経過や所見を添えて再審査を申し出る道があります。もちろん機械的に全件出すものではありませんが、「どうせ通らない」と最初から諦めている医療機関は少なくありません。期限や様式は変更されることがあるため、最新の取扱いを審査支払機関の案内でご確認ください。

返戻・減点対策は、派手さのない地味な作業です。ただ、月に1回30分の点検を1年続けた医療機関と、続けなかった医療機関とでは、私が見てきた限り明確に差がつきます。まずは今月届いた増減点連絡書を、院長ご自身の手で一度開いてみるところから始めてみてください。個別の算定判断や制度の解釈については、審査支払機関や顧問の医事の専門家にご確認いただくことをお勧めします。

よくある質問

Q. レセプトの返戻率はどのくらいが普通ですか

A. 全国一律の基準はありませんが、請求件数の0.5〜1%程度に収まる医療機関が多い印象です。診療科や公費比率で振れるため、他院との比較より自院の前月比を見るほうが実用的です。

Q. 返戻と査定(減点)はどちらを優先して対策すべきですか

A. まず返戻です。原因が資格確認や記載不備に集中しており、受付と医事の手順変更で確実に減らせるためです。査定対策は病名と診療内容の整合を整えたうえで取り組みます。

Q. 減点されたレセプトは取り戻せますか

A. 再審査請求(再審査の申出)により認められれば支払われます。ただし期限や様式が定められており、2026年時点でも取扱いが変わることがあるため、審査支払機関の最新案内をご確認ください。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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