クリニックの売上1億円の壁|患者数・単価・稼働日で分解する

この記事の結論

  • 売上1億円は1日40万円、月833万円に分解できる
  • 内科は単価6,500円なら1日62人でも到達する
  • 先に動かすのは単価と来院回数、次に新患数

「売上8,000万円あたりで頭打ちになり、そこから伸びない」「1億円という数字を目標にしてみたものの、うちの規模で本当に届くのか分からない」。外来クリニックの院長から、こうしたご相談をいただくことがよくあります。結論から申し上げます。クリニックの売上1億円は、患者数・患者単価・稼働日数の3つに分解した瞬間に、届くのか届かないのかがほぼ見えます。感覚で「もっと集患しなければ」と考えている間は動きませんが、1日あたりの数字に落とし込むと、やるべきことは驚くほど限られてきます。

私は現役の整形外科医として今も外来に立ちながら、複数の法人の経営と、病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。この記事では、私が自院や再生の相談で実際に使っている分解の手順を、内科を例にしながらお伝えします。

目次

クリニックの売上1億円とは、1日いくらの売上のことか

クリニックの売上1億円とは、年間の医業収益が1億円という意味で、月商に直すと約833万円、年間250日診療するクリニックであれば1日あたり40万円の売上のことです。この「1日40万円」という数字まで下ろすことが、最初の一歩になります。

年間の稼働日数は、週5日+土曜午前という一般的な形で、祝日や夏季・年末年始の休診を引くと240〜250日前後になることが多いと思います。休診日を増やすほど、1日あたりに求められる売上は上がります。ここは自院の診療カレンダーを見て、実数で置き換えてください。

年間稼働日数 1日あたり必要売上 月商の目安
220日(週休2日+長期休診多め) 約45.5万円 約833万円
240日 約41.7万円 約833万円
250日 約40.0万円 約833万円
260日(土曜終日など) 約38.5万円 約833万円

表を見ていただくと分かるとおり、稼働日数を20日増やすことは、1日あたりの必要売上を3〜5万円下げることと同じ意味を持ちます。「診療日を1日増やす」は、集患を頑張るより確実に効く手ですが、その分だけ院長とスタッフの負荷が増えます。私は、休診日を減らす前に、まず単価と来院回数を確かめることをおすすめしております。

患者数100人か、単価8,000円か|必要患者数を逆算する

※写真はイメージです

1日40万円という数字が出たら、次は患者単価で割ります。売上=患者数×患者単価×稼働日数、という単純な掛け算です。ここでいう患者単価は、保険点数に自費を足した「1人1回あたりの平均入金額」を指します。窓口収入とレセプト請求額を合算し、延べ患者数で割れば出ます。

1日40万円を達成するために必要な1日あたり患者数(年間250日稼働の場合)

単価3,500円114人
単価4,000円100人
単価5,000円80人
単価6,500円62人
単価8,000円50人

目安。年商1億円÷250日=1日40万円を単価で割った計算値です。自院の実単価で計算し直してください。

「クリニックで売上1億円といえば患者数100人」という言い方をよく耳にしますが、これは単価4,000円前後を前提にした話です。単価が6,500円あるなら1日62人で届きますし、単価3,500円なら114人が必要になります。つまり患者数100人という数字そのものに意味があるわけではなく、自院の単価とセットで初めて目標になります。

内科で売上1億円を目指すときの現実的な組み合わせ

内科で売上1億円という相談は特に多くいただきます。内科の外来単価は、生活習慣病の管理に関する加算や在宅の有無、検査の実施状況によって大きく変わりますが、院外処方の一般的な内科診療所で1人1回あたり6,000〜7,000円程度になることが多いといわれます。この水準であれば、1日60〜65人で年商1億円のラインに乗ります。

一方、整形外科のように運動器リハビリテーションの比率が高い診療科では、1回あたりの単価は下がる代わりに来院回数が増えます。同じ1億円でも、内科は「単価で積む」、整形外科は「延べ人数で積む」という構造の違いがあります。診療科ごとの単価の考え方は整形外科の患者単価はいくらが目安か|単価を決める4つの要素でも整理しておりますので、あわせてご覧ください。

ここで一度、時間あたりの処理能力を確認してください。診療時間が午前3時間・午後3時間半の計6.5時間として、1日100人を診るなら1時間あたり15人強、1人あたり4分弱です。医師1人体制でこれを毎日続けるのは、現実には相当に厳しい水準になります。1日100人を前提にした売上1億円は、実は「医師をもう1人入れるか、単価を上げるか」という別の意思決定を含んでいます。

  • 直近3か月の延べ患者数と、レセプト+窓口収入の合計を出したか
  • その2つを割って、自院の患者単価を1円単位で把握しているか
  • 初診・再診の比率と、1人あたりの年間来院回数を出したか
  • 診療時間1時間あたり何人診ているかを、曜日別に数えたか
  • 現在の体制で受け入れられる1日の上限人数を、待ち時間の観点から決めているか

単価を上げるか、患者数を増やすか|先に手を付ける順番

※写真はイメージです

売上が伸び悩むと、多くの院長はまず広告や看板、ホームページに手を伸ばされます。ただ私の見立てでは、既に一定の患者さんが来ているクリニックほど、新患を増やすより先に取り返せる売上が院内に残っています。

よくある進め方

売上を伸ばすため、広告費を増やして新患数を追う。1日の来院数は増えたが、待ち時間が延びて再診の離脱が進み、売上は横ばいのまま経費だけ増える。

新患1人の獲得コストは、再診1回を守るコストよりはるかに高くつきます

先に確かめたい順番

まず算定漏れと来院回数を点検する。単価が300円、年間来院回数が0.5回改善するだけで、同じ患者数のまま売上が数百万円動くことがあります。

院内で完結し、追加の広告費が要りません

単価は、値上げではなく「本来算定できるものを算定できているか」の確認から入ります。処置や指導管理、検査の算定漏れは、レセプトコンピュータの設定や入力の癖として長年放置されていることが少なくありません。詳しい確認の手順は診療単価を上げる正しい方法|算定漏れを防ぐ5つのチェックにまとめております。なお、必要のない検査や処置を増やして単価を上げる方向は、患者さんの信頼を失いますし、審査上も持続しません。ここは絶対に踏み込まない領域だと考えております。

来院回数は、再診率の管理です。次回予約を取れているか、中断した患者さんに気づける仕組みがあるかで、年間の延べ患者数は大きく変わります。クリニックのリピート率を上げる5つの手順|再診率で見る患者定着もご参照ください。

売上1億円までの進め方を5つのステップに分ける

実際にご相談を受けたとき、私がお伝えしている順番です。1〜2か月で回せる内容にしております。

  1. 現在地を1日単位に直す
    直近12か月の医業収益を稼働日数で割り、1日あたりの売上を出します。1億円との差額を「1日あたり何万円足りないか」に翻訳してください。ここが全ての起点になります。
  2. 単価・患者数・稼働日のどれが弱いかを特定する
    同じ診療科の一般的な水準と比べ、明らかに低い項目を1つだけ選びます。3つ同時に動かそうとすると、どれも中途半端に終わります。
  3. 算定漏れと再診離脱を1か月点検する
    主要な処置・指導管理・検査について、算定件数を月次で並べます。前年同月と比べて不自然に少ない項目が、たいてい取りこぼしです。
  4. 受け入れ能力の上限を決める
    待ち時間が何分を超えたら患者さんが離れるかを決め、そこから1日の上限人数を逆算します。上限を超える集患は、増やした分だけ後で失います。
  5. 足りない分だけ新患施策を打つ
    1〜4で埋まらない差額が残ったときに、初めて広告や導線に投資します。金額は「必要な新患数×1人あたり許容獲得コスト」で上限を決めてください。

売上1億円に届いても、手元が増えないことがあります

最後に、数字の目標を売上だけに置くことの危うさに触れておきます。売上1億円は分かりやすい目標ですが、院長のお手元に残る額を決めるのは利益率です。

一般的な外来クリニックの経費構成は、人件費が売上の20〜25%、医薬品・診療材料費が院外処方であれば10%前後(院内処方なら大きく上がります)、家賃が5%前後、その他の委託費・水道光熱費・リース・広告費で10〜15%といったあたりが一つの目安といわれます。合計すると、院長報酬前の利益は売上の25〜35%程度に収まることが多くなります。

ここで注意していただきたいのは、売上を8,000万円から1億円へ伸ばす過程で、医師やスタッフを増員し、機器を入れ、賃料の高い場所へ移るといった判断が同時に起きやすいことです。売上が25%増えても経費が30%増えれば、忙しくなっただけで手元は減ります。私がご相談を受けるなかでも、「売上は過去最高なのに資金繰りが苦しい」という状態は珍しくありません。

ですので、売上1億円を目標に置くときは、必ず「そのとき人件費率を何%に収めるか」「利益率を何%で着地させるか」をセットで決めてください。診療科別の利益率の水準はクリニックの利益率の平均|診療科別の目安と自院の位置の確かめ方で整理しております。なお、診療報酬は改定されますので、単価の前提は2026年時点のものとしてお読みいただき、最新の改定内容は必ずご確認ください。個別の算定判断や税務の取り扱いについては、顧問の先生方にご相談されることをおすすめします。

売上1億円は、遠い目標のようでいて、1日40万円という数字に置き換えた途端に、日々の診療のなかの手触りのある課題に変わります。まずは自院の患者単価を、今日、1円単位で出すところから始めていただければと思います。

よくある質問

Q. クリニックの売上1億円は1日何人の患者数が必要ですか

A. 患者単価によります。年間250日稼働で1日40万円が必要となり、単価4,000円なら100人、6,500円なら62人が目安です。まず自院の単価を確認してください。

Q. 内科で売上1億円は現実的な目標ですか

A. 院外処方の内科は単価6,000〜7,000円程度といわれ、1日60〜65人で到達します。無理な人数ではありませんが、再診の定着と算定精度が前提になります。

Q. 患者数を増やすのと単価を上げるのはどちらが先ですか

A. 多くの場合は単価と来院回数が先です。算定漏れの点検や再診率の改善は院内で完結し、広告費をかけずに数百万円単位で売上が動くことがあります。

Q. 売上1億円のクリニックの利益はいくら残りますか

A. 目安として院長報酬前で売上の25〜35%、2,500〜3,500万円程度です。増収に伴う増員や移転で経費が先行すると、手元が増えない場合があります。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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