この記事の結論
- 赤字の原因は稼働率・単価・人件費・資金繰りの4点に集約されます
- 経営改善は資金繰りの把握から始め、90日で数字を見る型を作ります
- 自力で届かない場合は病院再生やスポンサーも現実的な選択肢です
病院の経営が赤字続きで、毎月の試算表を開くのが重い——そうしたご相談を、私は毎月のようにいただきます。先に結論をお伝えします。中小病院の赤字は「患者が減ったから」の一言では説明できません。病床稼働率・診療単価・人件費率・資金繰りの四つが同時に効いて生まれています。裏を返せば、この四つを分けて順番に手を入れれば、動かせる余地はまだ残っております。
私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と、中小病院・クリニックの経営改善や再生のお手伝いをしております。医師向けのコミュニティも運営しており、毎月220名以上の先生方と、まさにこうした数字の話をしております。この記事では、私が実際の現場で使っている見方と手順を、そのままお伝えします。
なぜ中小病院の経営は赤字になるのか
病院の経営改善とは、収益を増やす取り組みと費用を抑える取り組みを、手元資金が持つ期間の中で組み立て直すことです。ここで大事なのは「手元資金が持つ期間の中で」という条件です。効果が出るまで2年かかる施策は、現預金が3か月しかない病院では選べません。赤字病院の相談で私が最初に確認するのは、収益でも人件費でもなく、あと何か月持つかという一点です。
その上で費用の構造を見ます。病院は費用の半分以上が人件費という、極端に固定費が重い事業です。一般に中小病院の人件費率は50〜55%程度といわれ、これに材料費・委託費・減価償却費が乗ります。つまり収益が数パーセント落ちただけで、利益はまるごと消えます。ここ数年は光熱費と委託費、それに人材確保のための給与水準も上がっており、同じ患者数でも数年前より赤字になりやすい構造になっております。
中小病院の費用構成(医業収益に対する比率・目安)
※100〜150床規模を想定した目安です。診療科構成、委託の範囲、建物の築年数で比率は大きく変わります(2026年時点)。自院の数字は必ず直近の決算書と月次試算表でご確認ください。
赤字病院でまず見るべき4つの数字

赤字の相談を受けたとき、私が最初に並べていただくのは次の4つです。多くの病院では、この4つのうち2つ以上が目安から外れています。逆に、どれか1つだけがずれている場合は、打ち手も1つで済むことが多く、比較的短期で戻せます。
| 見る数字 | 一般的な目安 | 外れているときに起きていること |
|---|---|---|
| 病床稼働率 | 85%前後 | 75%を下回ると、人員配置と固定費が過剰になり急速に赤字化する |
| 人件費率 | 50〜55% | 60%超は配置基準以上の人員か、収益減に人員が追随できていない状態 |
| 入院・外来単価 | 診療科と機能で変動 | 算定漏れ、加算の未取得、記録不備による査定が積み上がっている |
| 手元現預金 | 月商の1.5〜2か月 | 1か月を切ると賞与月に資金ショートの危険。打てる手が急に狭まる |
単価については、新しい加算を取りにいく前に、今の体制で取れるはずのものが取れているかを先に見ます。詳しくは診療単価を上げる正しい方法|算定漏れを防ぐ5つのチェックで手順を書いておりますので、あわせてご覧ください。ここは費用をかけずに、比較的早く効く領域です。
病院の経営改善はどの順番で進めるか
赤字病院の立て直しで一番多い失敗は、順番を間違えることです。いきなり病棟再編や機能転換といった大きな話から入ると、決めるのに半年かかり、その間に資金が細ります。私は次の順番でお願いしております。最初の90日は「新しいことを始める期間」ではなく、「数字が見える状態を作る期間」です。
- 1〜2週目:資金の残り時間を確定する
現預金、借入の返済予定、賞与や納税の予定を1枚にまとめ、今後12か月の資金繰り表を作ります。ここで「あと何か月か」が決まり、選べる打ち手の範囲が決まります。 - 3〜4週目:数字を病棟・診療科単位に割る
病院全体の損益だけでは手が打てません。病棟別・診療科別に収益と人件費を割り、どこで赤字が出ているかを特定します。 - 2か月目:費用のうち「今月動かせるもの」から手をつける
委託契約、医薬品・材料の購入条件、保守契約、リース、光熱費の契約形態を棚卸しします。人に手をつける前に、契約に手をつけます。 - 2〜3か月目:算定漏れと査定を潰す
レセプトの返戻・査定を3か月分並べ、傾向を出します。記録の書き方を揃えるだけで戻る金額が、思いのほか大きいことがあります。 - 3か月目以降:病床と人員配置の見直しに入る
ここでようやく、稼働していない病床をどうするか、機能を変えるかという議論に入ります。数字が揃っているので、議論が感情論になりません。
最後の段階で選択肢に入るのが、病床の削減や機能転換です。空いている病床を抱え続けるより、思い切って規模を適正化したほうが黒字化が早い病院は確かにあります。病床削減の補助金はいつまで|病床数適正化支援事業の判断軸や、療養病床から介護医療院へ転換|損益はどう変わるか60床で試算で、判断の軸と試算の考え方をまとめております。なお、こうした制度は改定のたびに条件が変わりますので、2026年時点の情報として読んでいただき、実行前に最新の要件を必ずご確認ください。
「患者を増やせば黒字になる」は本当か

赤字の病院で最も多い誤解が、集患だけで解決するという考え方です。私自身も最初はそう考えていた時期がありますので、気持ちはよく分かります。ただ、実際に数字を分解すると、そう単純ではないことが見えてきます。
よくある考え方
患者数を戻せば赤字は解消する。まず広告と紹介の強化から着手する。
効果が出るまで半年〜1年。その間、費用構造は変わらない
実際に起きること
稼働率が上がっても、単価が低いままだと増えた分だけ人手と材料費もかかり、利益はほとんど残らない。
単価と人員配置を整えてから患者を増やすほうが、同じ努力で残る利益が大きい
順番としては、まず1人あたりの単価と、1人を診るためにかかっている人件費を整えます。その器を作ってから患者数を増やす。逆にすると、忙しくなったのに赤字のまま、という最もつらい状態になります。現場の疲弊は採用難と離職を招き、さらに人件費を押し上げます。
経営改善で届かないとき、病院再生という選択肢
ここまでの手順を尽くしても、債務の水準が事業規模に対して重すぎる場合があります。過去の建替えや設備投資の借入が残り、本業の利益では返しきれないケースです。この場合、日々の経営改善だけでは構造が変わりません。金融機関との条件変更、スポンサーの招聘、他法人との統合といった、資本と債務そのものに手を入れる「病院再生」の領域に入ります。
この段階の話は、院長・理事長がお一人で抱え込むと本当に消耗します。私のところにも「誰に相談していいか分からず、2年遅れました」というお話が届きます。実際にスポンサーが入ると現場で何が起きるかは病院再生のスポンサーとは|医療法人の経営再建で実際に起きることに、統合の落とし穴は病院統合が失敗する5つの理由|民間中小病院が陥る落とし穴と対策にまとめております。早い段階で情報を持っておくほど、選べる相手も条件も広くなります。手元資金が細ってからでは、条件を選ぶ側から選ばれる側に回ってしまいます。
今週から着手できるチェックリスト
最後に、明日から手をつけられる形にまとめます。全部を同時にやる必要はありません。上から順に、1つずつで構いません。
- 直近12か月の資金繰り表を作り、手元現預金が月商の何か月分あるかを出した
- 病棟別・診療科別に、収益と人件費を割り付けた損益を1枚にした
- 病床稼働率を月次で見られるようにし、直近12か月の推移を確認した
- レセプトの返戻・査定を3か月分並べ、多い項目の上位3つを特定した
- 委託・保守・リース契約を一覧化し、更新月と金額を書き出した
- 借入ごとの残高・金利・返済期限を一覧にし、返済のピーク月を把握した
- 数字を一緒に見る相手(事務長、顧問税理士、外部の医師仲間)を1人決めた
赤字は、院長個人の能力の問題ではなく、構造の問題であることがほとんどです。数字を分けて、順番に手を入れる。それだけで景色が変わった病院を、私は何度も見てまいりました。まずは資金繰り表の1枚から始めていただければと思います。
よくある質問
Q. 赤字の病院はどのくらいで黒字化できますか
A. 原因によります。算定漏れや契約の見直しなど費用側は3〜6か月で効き始めますが、病床再編や機能転換を伴う場合は1〜2年を見込むのが現実的です。
Q. 病院経営の赤字で、最初に見る数字は何ですか
A. 手元現預金です。月商の1.5〜2か月分が一つの目安で、1か月を切ると選べる打ち手が急に狭まります。損益より先に資金繰りを確認してください。
Q. 人件費率が高いとき、まず人員を減らすべきですか
A. 順番としては最後です。委託・保守・リース契約や購入条件など、契約で動かせる費用を先に棚卸しし、その上で配置基準を確認しながら検討することをお勧めします。
Q. 経営改善と病院再生はどう違いますか
A. 経営改善は収益と費用を日々の運営で組み立て直すこと、病院再生は債務や資本そのものに手を入れることです。本業の利益で借入を返しきれない場合は後者の検討に入ります。
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