開業医の働き方を変える手順|院長が診療以外を手放す全体像

この記事の結論

  • 開業医の働き方の問題は時間より、判断が院長に集中する構造
  • 診療外業務を書き出し、人・外部・IT・代診の4つに渡す
  • 休みは先に決めて入れ、3か月後に数字で振り返る

朝は誰よりも早く医院に入り、昼休みは業者との打ち合わせ、診療が終わってから発注とレセプトの点検、帰宅してから求人票を書き直す。開業してからのほうが勤務医の頃より働いている——そうお感じの先生は、決して少なくありません。私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。毎月220名以上の医師が集まるコミュニティでも、この種のご相談が最も多く寄せられます。

先に結論をお伝えします。開業医の働き方が変わらない原因は、診療時間の長さではありません。診療以外の業務と、その判断が院長ひとりに集まる構造にあります。ですから働き方を変える作業は、頑張り方を変えることではなく、業務の置き場所を変えることです。この記事では、その全体像と順番を整理してお伝えします。

目次

なぜ開業医の働き方は勤務医より苦しくなるのか

開業医の働き方とは、診療にあてる時間の長さそのものではなく、診療以外に発生する業務のうち、どれを自分で持ち、どれを人・仕組み・外部に渡すかという配分の設計です。ここを設計しないまま開業すると、診療時間は勤務医時代と同じでも、総労働時間だけが増えていきます。

勤務医の頃は、医療材料の発注も、シフト調整も、職員の採用も、支払いも、誰かが担当していました。院長になると、それらの業務が一気に手元に集まります。しかも厄介なのは、作業そのものより「決めてよい人が院長しかいない」という点です。スタッフから一日に何度も判断を求められ、そのたびに思考が診療から引き剥がされる。夕方に感じる疲労の正体は、診療の疲れというより判断の切り替えの疲れであることが多いと、私は見ております。

実際にご相談を受けて時間の使い道を洗い出すと、診療外の業務が月20〜30時間程度になっている先生が珍しくありません。これは外来の3日分に相当します。

院長が抱えがちな診療外業務の時間(月あたり・目安)

レセプト点検・請求確認約8時間
採用・面談・シフト調整約6時間
発注・在庫・設備対応約5時間
経理・支払・金融機関対応約4時間
広報・ホームページ更新約3時間

私がご相談を受けた無床クリニックの聞き取りをもとにした目安です。規模・診療科により幅があります。合計26時間は、半日外来6コマ分に相当します。

院長の時間はどこに消えているのか|まず2週間書き出す

※写真はイメージです

働き方を変えるときに、いきなり人を雇ったりシステムを入れたりするのは順番が逆です。何を手放すかが決まっていない状態で人を増やすと、指示を出す仕事が増えて、かえって院長の負担が重くなります。私が最初にお願いしているのは、2週間の記録です。

やり方は簡単で結構です。5分単位の記録は続きません。「診療以外にやったこと」を、思い出したときにメモするだけ。スマートフォンのメモでも、白衣のポケットの紙でも構いません。2週間分あれば、自分の時間がどこに流れているかは十分に見えてきます。

書き出したあとは、次の観点で仕分けをしてみてください。

  • 医師免許がなければできない業務か(診療・診断・処方・医学的判断)
  • 院長の決裁が本当に必要か、それとも「今まで院長がやっていただけ」か
  • 週に何回発生するか(毎日・週次・月次・年次)
  • 間違えたときの影響が大きいか(金銭・法規・患者安全に関わるか)
  • 自分がやると気が重い業務か、逆に気晴らしになっている業務か
  • 手順を言葉で説明できるか、できないか

この6つに照らすと、手放せる業務は自然に浮かび上がります。多くの先生にとって意外なのは、「気が重いのに自分でやっている業務」ほど、実は免許も決裁も不要だという点です。発注、シフト調整、支払いの振込、求人票の作成などが典型でしょう。逆に、気晴らしになっている業務(たとえば器械の手入れやホームページの微調整)は、無理に手放さなくても構いません。働き方の見直しは、楽しみまで削る作業ではありません。

手放す順番はどう決めるか|4つの渡し先と費用の目安

手放し先は、大きく4つしかありません。院内の人に任せる/外部の専門家に委託する/ITで作業自体を減らす/他の医師に頼む。この4つに業務を割り振っていきます。

順番の考え方はシンプルで、「頻度が高く、判断が要らず、間違えても取り返しがつく業務」から渡します。逆に、金銭や法規に関わる業務を最初に丸投げすると、事故が起きたときに一気に信頼が崩れ、結局すべてを院長が抱え直すことになります。

手放したい業務 主な渡し先 費用の目安(月) 効果が出るまで
発注・在庫・設備対応 ベテランスタッフの担当制 手当1〜3万円 1〜2か月
予約・問い合わせ対応 予約システム・自動応答 1〜3万円 1か月程度
経理・支払・給与計算 税理士・社会保険労務士 3〜8万円 1〜3か月
採用・労務・スタッフ面談 事務長/マネージャー 25〜50万円 3〜6か月
診療そのもの(休診日を作る) 代診医師・非常勤医師 1日6〜10万円 即日〜1か月

※金額は地域・規模・診療科によって幅がある目安です。実際の契約前には必ず個別にお見積りをご確認ください。労務や税務の個別判断は、社会保険労務士・税理士にご相談いただくのが確実です。

4つのうち、院長がいちばん躊躇されるのが「他の医師に頼む」でしょう。ただ、週に半日でも代診が入れば、働き方は目に見えて変わります。探し方と日当の相場は代診医師の探し方と日当相場|私が実際に使う5つのルートに整理しておりますので、あわせてご覧ください。

もう一つ、事務長を置くかどうかも大きな分岐点です。人件費だけを見れば重い判断ですが、採用・労務・業者対応がまとめて手を離れる効果は小さくありません。奥様に任せる形が向くかどうかも含めて、クリニックの事務長は妻でいいのか|仕事内容と報酬・代行の選び方で判断材料を書いております。

開業医が休みを作る5つのステップ

院長の働き方の話は、最終的に「開業医の休み」をどう確保するかに行き着きます。休みは、余裕ができたら取れるものではありません。先に枠を決めて、そこに仕事を寄せていく順番でなければ、いつまでも埋まりません。

  1. 診療外時間を2週間記録する
    何にどれだけ時間を使っているかを可視化します。感覚ではなく紙に出すことが出発点です。
  2. 手放す候補を3つだけ選ぶ
    欲張らないことが成功の条件です。頻度が高く、判断が不要で、失敗しても取り返せる業務から選びます。
  3. 渡す相手と手順書を決める
    口頭で頼むと必ず戻ってきます。A4一枚で構いませんので、手順と判断基準、迷ったときの連絡先を書いて渡します。
  4. 休む日を先にカレンダーへ入れる
    3か月先の予定表に、休診または代診の日を先に確保します。予約枠の設定も同時に止めておきます。
  5. 3か月後に数字で振り返る
    患者数、レセプト件数、単価、人件費率を見て、判断が正しかったかを確認します。感想ではなく数字で評価します。

ステップ4でつまずく先生が非常に多いのですが、そこには構造的な理由があります。詳しくは開業医が休めない本当の理由|週1日休む仕組みを作る5ステップにまとめておりますので、実行段階ではそちらも参考になさってください。

働き方を変えると売上は落ちるのか

ここが最大の心配事だと思います。私も同じ不安を持っておりましたので、よく分かります。ただ、実際に手放した先生方を拝見していると、起きていることは想像と少し違います。

よくある想像

院長が現場から離れると患者が減り、スタッフの質も落ちて、売上が下がる。

だから全部自分で見るしかない、と考えてしまう

実際に起きやすいこと

診療に集中できる時間が増え、記録の精度と説明の質が上がる。算定漏れが減り、離職も落ち着く。

短期の売上は横ばい〜微減でも、年単位では戻ることが多い

もちろん、休診日を増やせば単純にその日の診療収入はなくなります。ですから、収入の側もあわせて整えることが前提です。同じ患者数でも、算定漏れを潰すだけで月の請求が変わることは実際にあります。診療単価を上げる正しい方法|算定漏れを防ぐ5つのチェックで挙げた項目は、院長が診療に集中できる時間が増えたときに、最も効きやすい部分です。

もう一つ申し上げたいのは、院長が倒れたときの損失です。院長ひとりに依存した体制は、経営的には単一障害点そのものです。働き方を整えることは、休むための施策であると同時に、医院を守るためのリスク管理でもあります。

今週から始める最初の一歩

全部を一度に変える必要はありません。今週やっていただきたいのは、次の3つだけです。

  1. 診療以外にやったことを、今日から2週間メモする
  2. その中から、免許も院長の決裁も要らない業務を3つ丸で囲む
  3. 3か月先のカレンダーに、休む日を1日だけ入れる

この3つが終われば、あとは渡す相手を決めるだけです。順番さえ守れば、開業医の働き方は変えられます。私自身、診療を続けながら他の事業を見られているのは、能力ではなく、この配分の設計を先に済ませているからにすぎません。

なお、制度・診療報酬・労務の取り扱いは改定によって変わります。本記事は2026年時点での一般的な考え方の整理ですので、実際に契約や労務の変更をされる際は、最新の改定内容と、顧問の税理士・社会保険労務士へのご確認をお願いいたします。

よくある質問

Q. 開業医の労働時間はどのくらいが一般的ですか

A. 一般に週50〜60時間程度といわれますが、診療より診療外の業務が上乗せされている点が特徴です。まず2週間、診療以外に使った時間を記録して現状を把握することをお勧めします。

Q. 開業医は週にどのくらい休めますか

A. 週1〜1.5日程度の休診が多い印象です。休みは余裕ができてから取るものではなく、3か月先の予定表に先に入れ、その日を代診または休診にする順番が現実的です。

Q. 一人医師のクリニックでも休みは作れますか

A. 作れます。代診医師の日当は1日6〜10万円が目安(地域差あり)で、月1日から始める形が現実的です。同時に予約枠の設定変更と患者への告知を早めに行うことが大切です。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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