開業医の借金はいくらまでが健全か|返済比率と私の安全ライン

この記事の結論

  • 借金の健全性は金額ではなく返済比率で決まる
  • 返済比率10%以内が健全、15%超で要注意
  • 返済期間は短く組みすぎず、資金繰りを優先する

「開業医の借金は、いくらまでなら大丈夫なのか」——診療は回っているのに、通帳を見るたび落ち着かない、返済表を開くのが少し怖い。そうしたご相談をいただくことが増えました。私自身も整形外科の診療を続けながら複数の法人を経営し、クリニックや病院の経営改善のお手伝いをしております。借入と長く付き合ってきた立場から、まず結論をお伝えします。

開業医の借金が健全かどうかは、金額の大小では判断できません。判断の軸は年間の元利返済額が医業収入の何%を占めるかです。私が目安にしているのは、10%以内なら健全、15%を超えたら要注意、20%を超えたら今月から手を打つ、という3本の線です。1億円を借りていても健全に回っている院はありますし、4,000万円で息が上がる院もあります。額の記憶ではなく、比率の管理に切り替えることが最初の一歩になります。

目次

開業医の借金は「金額」ではなく「返済比率」で見る

返済比率とは、1年間に返す元本と利息の合計額を、その年の医業収入で割った比率のことです。年間返済が800万円、医業収入が8,000万円であれば返済比率は10%になります。借金は売上から返すものですから、返済額だけを見ても重さは測れません。分母である収入と並べて初めて、その借入が自院にとって重いのか軽いのかが見えてきます。

返済比率(年間返済額÷医業収入) 私の見方 今やること
10%以内 健全 この水準を保ったまま設備更新の積立を始める
10〜15% 許容範囲 追加投資は返済が一段落してからに回す
15〜20% 要注意 返済原資を計算し、期間延長の可否を銀行に確認
20%超 危険水域 延滞前に条件変更を相談。固定費の見直しを同時に

※上記は私が経営のお手伝いをする中で使っている目安です。診療科や不動産を自己所有しているかどうかで妥当な水準は上下します。

もう一つ、私が必ず併せて見る数字があります。返済原資です。返済原資とは、税引後利益に減価償却費を足し戻した金額で、実際に返済へ回せるお金の上限を表します。年間返済額がこの返済原資の70%を超えていると、医療機器の突然の故障、賞与の増額、納税といった想定外の支出を吸収できません。帳簿上は黒字なのに現金が残らない院は、ほぼ例外なくここが詰まっています。

そもそも自院の利益水準が標準的なのかどうかが分からないという場合は、クリニックの利益率の平均|診療科別の目安と自院の位置の確かめ方もあわせてご確認ください。分母である収益力の問題なのか、返済の組み方の問題なのかで、打ち手はまったく変わります。

開業医の借金の平均はどのくらいが目安か

※写真はイメージです

「同期はいくら借りているのか」は多くの先生が気にされるところです。ただ、診療科によって必要な設備の重さがまるで違うため、全体の平均値を一つ挙げてもあまり役に立ちません。テナント開業で医療機器を中心に揃える場合の、開業時借入額のおおよその目安を並べます。

診療科別・開業時の借入額の目安(テナント開業/土地建物取得を含まない)

整形外科8,000万〜1億円
眼科6,000万〜8,000万円
内科(内視鏡あり)5,000万〜6,000万円
皮膚科・小児科4,000万〜4,500万円
心療内科・精神科2,000万〜2,500万円

目安。土地建物を取得する場合はこれに数千万円〜が上乗せされます。金利・条件は2026年時点でも変動しますので、最新の融資条件をご確認ください。

私の専門である整形外科は、レントゲン、エコー、リハビリ機器とスペースが必要になるため、どうしても借入が大きくなります。ここで大事なのは、設備が重い科は借金が多くて当たり前だと理解したうえで、そのぶん収入の立ち上がりも設計しておくことです。金額の絶対値に怯えるより、返済比率が何年目に10%以内に落ち着く計画なのかを確認してください。

加えて、開業時の借入には運転資金を月商の3か月分程度は含めておきたいところです。診療報酬の入金は約2か月遅れますので、設備資金だけを借りて開業すると、患者さんが来ていても手元が空になります。この点は開業医1年目の資金繰り|赤字でも潰れない運転資金の目安で詳しくお伝えしています。

開業医の借金の返済期間は何年が適切か

「開業医 借金 返済期間」で調べられる先生の多くは、できるだけ早く返し終えたいとお考えです。その気持ちはよく分かりますし、私も最初はそう考えていました。ただ、経営を続けてきて考えが変わりました。

よくある考え方

利息がもったいないので、返済期間はできるだけ短く組み、余裕ができたら繰上返済する

結果:月々の返済が重く、機器故障や患者数の一時的な落ち込みで一気に資金繰りが苦しくなる

私が勧める考え方

返済期間は無理のない長さで組み、手元資金を厚く保ったうえで、余力が確認できてから繰上返済を検討する

結果:返済比率が下がり、判断に余裕が生まれる。利息の増加分は「保険料」と考える

使途別の返済期間の目安は、おおむね次のとおりです。

  • 医療機器・内装などの設備資金:7〜10年
  • 土地建物の取得を含む場合:15〜20年
  • 運転資金:5〜7年
  • 独立行政法人福祉医療機構(WAM)の融資:民間金融機関より長期・低利で組めることがあり、条件は都度確認

短く組みすぎた借入は、あとから伸ばすのに手間がかかります。逆に長く組んだものを早く返すのは、いつでもできます。どちらにも動ける形にしておく——これが借入設計の要点だと考えております。なお金利や制度融資の条件は変わりますので、2026年時点の最新条件を金融機関と税理士にご確認ください。

「借金地獄」に入る開業医に共通する3つの入り口

※写真はイメージです

借金地獄という強い言葉で検索される先生もいらっしゃいます。ご相談を受けてきた中で、返済が診療と生活を圧迫していく入り口は、だいたい3つに集約されます。

1. 開業時に「借りられるだけ借りる」

融資枠を提示されると、上限まで借りたほうが安心に思えます。しかし借入枠は、返せる額の保証ではありません。事業計画上の患者数が計画どおりに立ち上がらなかったときに、返済だけが計画どおりに来ます。

2. 返済が始まってから追加投資を重ねる

2〜3年目は患者数が伸び、手応えが出る時期です。ここで新しい機器やリースを重ねると、返済とリース料の合計が静かに膨らみます。私が見るのは借入残高ではなく、借入返済額とリース料の合計月額です。

3. 院長個人の支出と院の返済が混ざる

役員報酬を高く設定したまま院の資金が細り、個人のカードや貯蓄で院の支払いを立て替える。ここに入ると、どちらの数字も見えなくなります。

  • 返済日の前に、入金の着地を電卓で確かめている
  • 賞与や納税の資金を、当座の運転資金から取り崩している
  • 直近1年で、返済のための借り換えや追加融資を検討した
  • 院長個人の資金で、院の支払いを立て替えたことがある
  • 返済原資(税引後利益+減価償却費)の金額を即答できない
  • 借入返済額とリース料の合計月額を把握していない

3つ以上当てはまるようでしたら、返済の問題というより資金繰りの管理の問題です。クリニックの資金繰りが苦しい時の3つの数字|開業後の立て直し手順を先にご覧いただくと、順番が整理しやすいと思います。

返済が重いと感じたときに、今月から進める5ステップ

  1. 返済表を1枚にまとめる
    金融機関、リース会社、制度融資をすべて1枚の表にします。借入先・残高・毎月返済額・完済予定月・金利の5列で十分です。ここで初めて全体像が見える先生がほとんどです。
  2. 返済比率と返済原資を計算する
    年間返済額÷医業収入で返済比率を、税引後利益+減価償却費で返済原資を出します。返済比率15%超、または年間返済額が返済原資の70%超なら、次のステップへ進みます。
  3. 延滞する前に金融機関へ相談する
    返済表と直近の試算表を持参し、返済期間の延長や元金据置を打診します。延滞してからでは選択肢が狭まります。条件変更は今後の借入に影響しますので、顧問税理士に同席いただくことをお勧めします。
  4. 返済以外の固定費を見直す順番を決める
    人件費、賃料、リース、業務委託、広告の順に、契約単位で確認します。人件費は最後です。急に触ると診療の質と定着に響きます。
  5. 収入側の手当てを同時に走らせる
    算定漏れの確認、再診率、予約枠の使い方など、明日から動かせるものから着手します。返済の軽減だけでは分母が変わりません。

この5つのうち、ステップ1と2はご自身で今週中にできます。多くの先生が不安を感じているのは、金額そのものよりも「全体像が見えていないこと」に対してです。1枚の表にした瞬間に、思っていたより余裕がある場合も少なくありません。

私の見立て:借金は減らすものではなく、形を整えるもの

医師は借りられる職業です。だからこそ、額の大きさに慣れてしまうことも、逆に必要以上に怯えてしまうことも起こります。私がお伝えしたいのは、借金は診療設備と時間を先に買うための道具であり、恐れる対象でも誇る対象でもない、ということです。

健全かどうかの判定は、返済比率10%以内・年間返済額が返済原資の70%以内。この2つを毎月ではなく四半期に一度でよいので確認する。それだけで、夜中に返済表を思い出す回数はかなり減ります。数字を見ないでいる時間が、不安を大きくしています。

なお、条件変更や借り換えの可否、税務上の扱いは個別事情で判断が分かれます。実際に動かれる前には、顧問税理士と取引金融機関にご確認ください。私も同じように、迷ったときは必ず第三者の目を入れるようにしております。

よくある質問

Q. 開業医の借金の平均額はいくらですか?

A. 診療科で大きく異なります。心療内科など設備の軽い科で2,000万〜2,500万円、整形外科や眼科など機器の重い科で6,000万〜1億円が目安です。平均額より返済比率で判断してください。

Q. 開業医の借金の返済期間は何年が普通ですか?

A. 医療機器や内装の設備資金で7〜10年、土地建物の取得を含む場合は15〜20年、運転資金は5〜7年が目安です。短く組みすぎると資金繰りが詰まりやすくなります。

Q. 返済が苦しいとき、銀行に相談しても大丈夫ですか?

A. 延滞する前の相談が原則です。返済表と直近の試算表を持参し、期間延長や元金据置を打診します。条件変更は今後の借入に影響するため、税理士に同席いただくと安心です。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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