クリニックの看護師採用がうまくいく基準|募集から定着までの手順

この記事の結論

  • 採用基準は必須・歓迎・不問の3層に分け、必須は3つまで
  • 応募には24時間以内に返信し、面接は1週間以内に組む
  • 定着は入職後90日の受け入れ設計でほぼ決まる

クリニックの看護師採用は、求人を出しさえすれば人が集まる時代ではなくなりました。募集をかけても応募が一件も来ない、面接に来ても勤務時間が折り合わない、ようやく採用しても三か月で辞めてしまう。そうしたご相談を、私は毎月のように頂戴しております。

先に結論をお伝えします。看護師の採用がうまく回っている院長に共通しているのは、次の3点です。①採用基準を面接の前に紙に書いている ②応募への返信と面接設定が速い ③入職後90日の受け入れを設計している。この3つは、どれも費用をかけずに今週から着手できます。

私は現役の整形外科医として診療を続けながら、複数の法人の経営と、病院・クリニックの経営改善のお手伝いをしております。毎月220名以上の医師の方が参加してくださるコミュニティでも、看護師の採用と定着は最も相談の多いテーマの一つです。その中で私が実際にお伝えしている内容を、順番に整理してお話しします。

目次

クリニックの看護師採用は、なぜ病院より難しいのか

同じ看護師の採用でも、病院とクリニックでは前提がまるで違います。私が現場を見ていて、構造的な差だと感じるのは次の3点です。

1つ目は、母集団の作り方です。病院は年間の採用計画を立て、新卒と中途の両方から母集団を確保できます。一方クリニックは中途採用が中心で、しかも「常勤1名」「午前だけのパート1名」といったピンポイントの募集になります。応募が3人来れば多いほうで、母集団で勝負する戦い方ができません。

2つ目は、選考のスピードです。看護師の求職者は、同時に3〜5件の求人を並行して見ていることが珍しくありません。応募への返信が3日遅れれば、その間に他院の面接が決まってしまいます。院長が診療の合間に応募メールを開く運用だと、この時点で負けています。

3つ目は、1人の重みです。常勤看護師3名体制のクリニックで1名が抜ければ、看護の稼働は3分の1が消えます。病院なら他部署から応援を回せますが、クリニックにその余力はありません。だからこそ、欠員が出てから慌てるのではなく、平時から採用の準備を整えておく必要があります。

よくある誤解

給与を上げれば看護師は採れる

相場より高い時給を出したのに応募が増えなかった、というご相談は多くあります

実際に効いていること

給与は「足切り」に過ぎず、決め手は勤務時間の読みやすさと職場の人間関係

残業の有無、急な休みへの対応、教育担当がいるかを応募者は見ています

もう一つ、見落とされがちなのが求人票そのものです。給与も休日も悪くないのに応募が来ない場合、原因は条件ではなく書き方にあることが少なくありません。この点はクリニックの求人に応募が来ない理由|今日直せる求人票の書き方で詳しくまとめておりますので、あわせてご覧ください。

看護師の採用基準は、どう決めればよいのか

※写真はイメージです

看護師の採用基準とは、採用の可否を判断するために、必須要件・歓迎要件・基準にしない事項をあらかじめ言語化したものです。面接の前に紙に書き出しておくことが要点で、頭の中にあるだけでは基準として機能しません。

基準がないまま面接をすると、判断は「感じがよかったかどうか」に寄っていきます。院長は医療者ですから、応対の丁寧な方に好印象を持ちます。けれども、実際に辞めていくのは感じの悪い方ではなく、勤務時間が家庭の事情と合わなかった方、想定していた業務範囲とずれていた方です。印象ではなく条件で落とす仕組みが要ります。

層 意味 クリニックでの例
必須要件 欠けたら採用しない。3つまでに絞る 看護師免許/指定の曜日・時間帯に勤務できる/採血ができる
歓迎要件 あれば加点。なくても採用する 整形外科・内科の経験/電子カルテ操作/レセプト業務の経験/訪問看護の経験
基準にしない 合否の理由にしない。事情としては聞く ブランクの長さ/前職の在籍年数/子どもの人数

必須要件は3つまで、というのが私のお勧めです。4つ、5つと増やすほど、母集団はきれいに消えていきます。「整形外科の経験があり、レセプトも分かり、土曜も出られて、フルタイム可」という方は、探せばいるとしても、開業医の募集に応募してくる確率は高くありません。必須を絞り、足りない部分は入職後に教える設計にしたほうが、結果として早く埋まります。

なお、年齢や性別を採用基準にすることは法令上の制限があります。募集要項の書き方を含め、迷われる場合は顧問の社会保険労務士にご確認ください。2024年4月からは労働条件の明示事項も追加されており、2026年時点の最新のルールを一度確認しておかれると安心です。

面接での具体的な質問の組み立て方については、職種は違いますが考え方が共通するクリニックの受付パート採用|失敗しない見極め基準と質問例もご参考になるかと思います。

募集から採用まで、どの順番で進めるか

採用がうまい院長は、思いつきで求人を出しません。順番が決まっています。私が実際にお伝えしている進め方は次の6ステップです。

  1. 欠員の3か月前に動き出す
    退職の申し出は1〜2か月前が一般的です。産休・進学・引っ越しなど、予兆は事前に拾えます。師長役の方と月1回、人員の見通しを話す時間を持つだけで、動き出しが1か月早くなります。
  2. 採用基準を1枚の紙に書く
    必須3つ、歓迎3つ、基準にしない項目。面接に同席するスタッフとも共有します。ここを飛ばすと、後の全工程がぶれます。
  3. 求人票を「一日の流れ」で書き直す
    条件の羅列ではなく、9時から18時まで何をする職場なのかを時系列で書きます。残業の実績時間、急な休みへの対応、教育担当の有無。応募者が不安に思う点を先に書くほど、ミスマッチな応募が減ります。
  4. 出口を3つ同時に開ける
    ハローワーク、都道府県のナースセンター(看護協会の無料職業紹介)、有料の求人媒体または人材紹介、そしてスタッフからの紹介。1つずつ試すと、埋まるまでに半年かかります。
  5. 応募には24時間以内に返信し、面接は1週間以内に組む
    ここが最も効きます。返信の定型文をあらかじめ用意し、院長以外でも一次返信を返せる状態にしておきます。面接日程は候補を3つ提示します。
  6. 半日の職場体験を挟み、条件は書面で渡す
    可能であれば見学や半日の体験を挟みます。既存スタッフの空気を本人が確認でき、こちらも仕事ぶりを見られます。条件は口頭で終えず、労働条件通知書で明示します。

この中で費用がかからず、かつ最も差が出るのが5番です。応募から返信までの時間を測ったことのある院長は、あまり多くありません。まずは今週、直近3件の応募について返信までに何時間かかったかを調べてみてください。

看護師の採用に、いくらかかるのか

※写真はイメージです

採用手段によって費用は大きく変わります。1名を採用するまでにかかる費用の目安は、おおよそ次のような幅になります。

看護師1名あたりの採用費用(目安)

人材紹介会社80〜120万円
有料求人媒体10〜30万円
スタッフ紹介(紹介手当)3〜10万円
ハローワーク・ナースセンター0円

目安です。人材紹介は理論年収の20〜30%程度が相場といわれ、年収400万円なら80〜120万円程度になります。2026年時点の一般的な水準で、条件により変動します。

この数字を見ると人材紹介は高く感じられますが、私は「高いから使うな」とは申し上げません。判断すべきは、欠員が続くことの損失との比較です。常勤看護師が1名欠けたまま半年が過ぎ、その間に受けられる患者数を絞らざるを得なかったとしたら、失う収益は紹介手数料を上回ることが十分にあり得ます。加えて、残ったスタッフの負担が増え、次の退職を呼ぶという連鎖が起こります。

私の見立てでは、無料の窓口とスタッフ紹介を常に開けておき、3か月動きがなければ有料の手段に切り替える、という二段構えが現実的です。同時に、そもそも何人体制が適正なのかを一度計算し直しておくと、採用の判断が楽になります。

採用より難しい看護師の定着は、最初の90日で決まる

採用の相談を受けていて痛感するのは、多くのクリニックの本当の課題は採用そのものではなく定着だということです。年に1人ずつ辞めていく職場は、年に1人ずつ採用し続けなければなりません。これでは費用も院長の時間も消耗します。

日本看護協会の調査では、正規雇用看護職員の離職率はおおむね11〜12%台で推移しているといわれます。数値は年度によって変わりますので、2026年時点の最新の公表値をご確認ください。ただ、私が現場で見ている限り、小規模なクリニックでは「合う・合わない」が母数の小ささゆえに直撃するため、体感の振れ幅はもっと大きくなります。

そして、早期に辞める方の理由の多くは、給与ではありません。「何を聞けばいいか分からなかった」「誰に聞けばいいか分からなかった」という、受け入れ体制の問題です。ここは仕組みで防げます。

  • 初日に、一日の流れと最初の1週間の予定を紙で渡した
  • 教育担当を1名決め、その名前を本人に伝えた
  • 3日目・2週間・1か月・3か月の面談を、あらかじめ予定表に入れた
  • 「分からないときに聞く相手」を業務ごとに明文化した
  • 既存スタッフに、新人の担当範囲と教育の分担を事前に説明した
  • 3か月時点で、勤務時間と給与の約束にずれがないかを本人と確認した

面談は「気づいたときにやる」では実施されません。採用が決まった時点でカレンダーに入れてしまうのが確実です。1回10分で構いません。困っていることが1つでも出てくれば十分に元が取れます。

もう一点、院長ご自身の関わり方も定着を左右します。忙しさから会話が業務連絡だけになり、気づけばスタッフとの距離が開いていた、というご相談は本当に多くあります。この点は院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因|信頼を取り戻す順番で整理しておりますので、心当たりのある方はご覧いただければと思います。

あわせて、昇給の基準を曖昧にしないことも大切です。頑張っている人に院長の裁量で少し上乗せする、という運用は善意から始まりますが、周囲には不公平として伝わります。簡単なもので構いませんので、経験年数と担当業務に応じた給与の考え方を一度書き出しておくことをお勧めします。制度の設計は社会保険労務士にご相談ください。

明日から何をするか

最後に、今週中に着手できることを順番に挙げます。

  1. 直近3件の応募について、返信までに何時間かかったかを調べる。24時間を超えていたら、一次返信の定型文を作り、院長以外も返せるようにする。
  2. 採用基準を1枚の紙に書く。必須3つ、歓迎3つ、基準にしない項目。面接に同席するスタッフと共有する。
  3. 求人票を「一日の流れ」の記述に書き直す。残業の実績時間と教育担当の有無を明記する。
  4. ハローワークとナースセンターへの登録状況を確認し、開いていない出口があれば今月中に開ける。
  5. 次に入職する方の面談日(3日目・2週間・1か月・3か月)を、採用が決まった時点で予定表に入れる運用に変える。

看護師の採用は、条件のよさで一発逆転できるものではありません。基準を決め、速く返し、入った方が困らない状態を作る。この地味な3つの積み重ねが、結果として採用費用と院長の時間を最も節約します。個別の労務・法令の判断については、必ず顧問の社会保険労務士や弁護士にご確認のうえ進めてください。

よくある質問

Q. クリニックの看護師採用にかかる費用の目安は?

A. 人材紹介は理論年収の20〜30%程度が相場といわれ、年収400万円なら80〜120万円が目安です。有料求人媒体は10〜30万円程度、ハローワークやナースセンターは無料です。

Q. 看護師の採用基準はどこまで厳しくすべきですか?

A. 必須要件は3つまでに絞ることをお勧めします。免許・勤務可能な曜日と時間・最低限の手技程度に留め、診療科の経験などは歓迎要件として加点で扱うと母集団が保てます。

Q. 採用してもすぐ辞めてしまいます。何から直せばよいですか?

A. 入職後90日の受け入れです。教育担当を1名決めて名前を伝え、3日目・2週間・1か月・3か月の面談を採用決定時点で予定表に入れてください。10分で構いません。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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