院長とスタッフの関係が悪化する3つの原因|信頼を取り戻す順番

この記事の結論

  • 院長とスタッフの関係は相性ではなく、決め方・伝え方・報い方の仕組みで決まります
  • 立て直しの順番は、聞く→決める→見せる→報いる。待遇の見直しは最後に置きます
  • 最初の90日は全員面談と改善3つへの絞り込み。うち1つは2週間以内に実行します

「スタッフの表情が硬い」「以前は相談に来てくれた主任が、今は必要な連絡しかしてこない」「一人辞めたら連鎖して、求人を出しても穴が埋まらない」。こうしたご相談を、毎月お会いする医師の方々から数多くいただきます。私は整形外科医として診療を続けながら、複数の法人経営と、クリニック・病院の経営改善のお手伝いをしておりますが、経営が傾く現場では、数字が悪くなるより先に院長とスタッフの関係が崩れていることがほとんどです。

結論から申し上げます。院長とスタッフの関係は、院長の人柄や相性で決まるものではなく、「決め方・伝え方・報い方」という仕組みで決まります。そして立て直しには順番があり、順番を間違えると、良かれと思った施策ほど関係を悪化させます。この記事では、関係が悪くなる3つの原因と、信頼を取り戻す順番を、明日から着手できる形でお伝えします。

目次

院長とスタッフの関係は、なぜ性格ではなく仕組みで決まるのか

院長とスタッフの関係とは、日々の感情の相性のことではなく、「誰が何を決め、それをどう伝え、成果にどう報いるか」という運営ルールが積み重なった結果です。ここを性格の問題として扱うと、打ち手が「もっと優しく接する」「飲み会を増やす」だけになり、数か月で元に戻ります。

関係が崩れる最大の要因は、院長とスタッフのあいだにある情報の非対称です。院長は、レセプトの数字も、患者からの苦情も、金融機関との会話も、設備更新の見積りも知っています。一方でスタッフに見えるのは決定した結果だけです。同じ決定でも、背景を知らずに結果だけを受け取れば、「思いつきで変わる」「相談してもらえない」と映ります。院長に悪意がなくても、この構造がある限り、時間とともに距離は開きます。

私が現場を拝見して感じるのは、関係が良いクリニックほど、院長が特別に社交的なわけではないという点です。決めた理由が短くても言葉にされ、評価の基準が紙になっていて、決めたことが振り返られている。それだけで、院長の話し方が多少ぶっきらぼうでも関係は保たれます。

よくある捉え方

「合わないスタッフがいるから雰囲気が悪い」と、相性・人格の問題として扱う

打ち手が接し方や懇親会に偏り、数か月で元に戻りやすい

私の見立て

決定の背景と評価基準が共有されていない、情報の非対称の問題

伝える順番と基準を設計すれば、人を入れ替えなくても改善の余地がある

院長とスタッフの関係が悪くなる3つの原因

※写真はイメージです

ご相談の内容を整理していくと、原因は概ね次の3つに収まります。どれか1つではなく、多くの現場で3つが同時に起きています。

原因1|決定の背景が共有されず「思いつき」に見える

予約枠の変更、機器の入替え、シフトの組み替え。院長の中には十分な理由があります。しかし理由が語られないまま指示だけが届くと、スタッフには「また急に変わった」としか見えません。これが続くと、現場は「どうせまた変わる」と受け止め、改善提案を出さなくなります。提案が止まった時点で、関係は静かに悪化しています。

原因2|評価と待遇の基準があいまいで、頑張った人ほど不公平を感じる

賞与の額が院長の印象で決まっている、昇給の条件が誰にも説明されていない。この状態では、最も真面目に働いている人が最初に不満を持ちます。声の大きい人が優遇されているように見えると、静かに支えてきた人から辞めていきます。人件費率は診療科や体制で幅がありますが、クリニックでは総収入の20〜30%台に収まることが多いといわれます。金額を上げることより、その配分の理由が説明できるかどうかが関係を左右します。

原因3|院長が忙しく、悪い情報が上がってこない

外来が押している院長に、スタッフはトラブルを報告しづらくなります。報告のタイミングを逃した小さな問題は、患者クレームや退職の申し出という形で、手遅れの状態になって院長に届きます。院長からは「突然辞めると言われた」と見えますが、現場では数か月前から兆候が出ていることがほとんどです。

原因 スタッフ側にはこう見える 最初の一手
決定の背景が共有されない 思いつきで方針が変わる/相談されない 決定を伝えるとき、理由を1〜2文だけ先に言う
評価・待遇の基準があいまい 頑張っても見られていない/不公平 賞与と昇給の判断項目を紙1枚にする
院長に報告する時間がない 言っても届かない/忙しそうで話せない 週1回15分、報告のための時間を固定する

「スタッフを大切にしない院長」と受け取られるのはどんなときか

「スタッフを大切にしない院長」と言われる方の多くは、実際には人を大切に思っています。それでも、優先順位が行動として見えないと、そう受け取られます。典型的なのは、休憩が取れていないのを知りながら触れない、退職の申し出に理由を聞かず慰留だけする、備品や設備の要望を保留にしたまま返事をしない、患者や他のスタッフの前で注意する、といった場面です。

クリニックの人間関係は、院長が思っている以上に「返事の速さ」で測られています。要望に応えられないこと自体は、経営判断として当然あります。問題は、応えられない理由を伝えないまま時間だけが過ぎることです。「今期は難しい。理由はこうで、来期に再検討する」と伝えれば、断られてもスタッフは納得します。

  • スタッフから改善の提案が出てくるのは、この3か月で何回あったか思い出せない
  • 退職者に、辞める理由を最後まで聞けていない
  • 賞与の額を、どういう基準で決めたか説明できない
  • 要望への回答を「考えておく」で終えたまま、返していないものがある
  • スタッフの休憩・残業の実態を、正確には把握していない
  • 直近3か月で、全スタッフと1対1で話した記録がない

3つ以上当てはまる場合、人格の問題ではなく、院長の時間の使い方と情報の流れが詰まっているサインだと私は見ています。詰まりは設計で解消できます。

信頼を取り戻す順番|最初の90日でやること

※写真はイメージです

ここが最も大切な部分です。関係が悪いとき、多くの院長がまず給与や賞与の見直しから入ります。しかし原因1と原因2が残ったまま金額だけ動かすと、「不満が出たから黙らせようとしている」と受け取られ、かえって関係が固くなります。順番は「聞く→決める→見せる→報いる」です。待遇の見直しは最後に置きます。

  1. 0〜2週:全員と1対1で聞く
    一人15〜20分、非常勤も含めて全員に同じ3つの質問をします。「働きやすくするために変えたいこと」「今いちばん時間を取られている作業」「私に伝えづらいと感じること」。この場では反論も弁明もせず、記録に徹します。
  2. 3〜4週:改善案を3つに絞る
    出てきた要望をすべて拾うと、どれも中途半端になります。頻度が高く、費用がかからず、2週間以内に結果が見えるものを優先して3つに絞ります。
  3. 5〜8週:決めて、基準を紙にする
    3つのうち少なくとも1つは、2週間以内に実行して見せます。同時に、評価と賞与の判断項目を紙1枚にまとめ、全員に配ります。完璧な人事制度は不要で、何を見ているかが分かれば十分です。
  4. 9〜12週:やったこと・やらないことを見せる
    採用した提案と見送った提案を一覧にし、見送った理由も添えて掲示します。「言っても無駄」という諦めは、断られたときより、返事がないときに生まれます。
  5. 90日以降:待遇と役割に反映する
    ここで初めて、昇給・賞与・役職手当を基準に沿って動かします。賃金規程や就業規則の変更を伴う場合は、社会保険労務士に確認しながら進めてください。

やってはいけない立て直し方

私がご相談を受けるなかで、善意から始めて関係を悪化させてしまった例が繰り返し出てきます。次の5つは避けたほうが安全です。

  1. 全員同時の大改革。制度もシフトも評価も一度に変えると、現場は混乱を院長のせいだと受け取ります。3つに絞る理由はここにあります。
  2. 匿名アンケートを取ったまま、結果を返さない。回収して終わると、不信感だけが残ります。返さないなら、最初から取らないほうがましです。
  3. 特定のスタッフだけを味方につける。院長が個別に相談相手を作ると、現場は派閥として認識します。聞くときは全員に、同じ質問をしてください。
  4. 他院の給与水準の噂で応じる。根拠のない数字で待遇を動かすと、次の要求にも根拠のない数字で応えることになります。求人票の見せ方を整えるほうが、採用にも定着にも効きます(クリニックの求人に応募が来ない理由|今日直せる求人票の書き方)。
  5. 院長が語る前に、外部の研修やコンサルを入れる。院長自身の言葉で方針が示されていない段階では、何を導入しても形だけで終わります。

なお、評価・賃金・労働時間に関わる論点は労働関係法令の範囲で判断する必要があり、制度も改定されます。ここに書いた内容は2026年時点の一般的な考え方であり、個別の判断は社会保険労務士や顧問税理士にご確認ください。

院長に時間がないとき、対話の時間はどこから捻出するか

「順番は分かったが、その時間がない」というのが、多くの院長の本音だと思います。実際に必要な時間を置いてみると、次のような分量になります。

院長がスタッフとの対話に確保したい時間(月あたり・スタッフ10名規模の目安)

個別面談 15分×10名150分
朝の申し送り 5分×20日100分
全体ミーティング 45分×1回45分

合計およそ5時間/月。診療日20日で割ると1日15分程度という設計上の目安です。

1日15分であれば、時間がないというより、時間の置き場所が決まっていないという状態に近いと思います。それでも捻出できないときは、院長が抱えている医療以外の業務を移すところから始めます。発注、シフト作成、請求書の整理、求人対応。これらは院長でなければできない仕事ではありません。院長の手元に業務が集まりすぎている構造そのものが、報告を受ける余裕を奪っています(開業医が休めない本当の理由|週1日休む仕組みを作る5ステップ)。

関係は一度に戻るものではありません。私の実感では、院内の空気が変わるまでに3か月、離職が落ち着くまでに半年、採用への影響が出るまでに1年ほどかかります。逆に言えば、90日続ければ何らかの変化は現れます。院長ご自身が消耗しきっている状態では、聞く姿勢を保つこと自体が難しくなりますので、疲れを感じている段階であれば、まずご自身の負荷を下げる仕組みから見直してください(院長が疲れたと感じたら|休めない開業医が見直す3つの仕組み)。スタッフとの関係を立て直す作業は、院長を守る作業でもあります。

よくある質問

Q. スタッフとの関係が悪いとき、まず何から始めればよいですか

A. 全員との短い個別面談です。一人15〜20分、質問を3つに固定して聞き、出てきた要望のうち1つを2週間以内に実行して見せると、「話しても無駄」という諦めが解けます。

Q. 給与や賞与を上げれば、院長とスタッフの関係は改善しますか

A. 単独では戻りにくいと考えています。決定の背景と評価基準が不透明なままだと「黙らせるため」と受け取られます。聞く→決める→見せるの後に、待遇へ反映する順番をおすすめします。

Q. 一部のスタッフだけが不満を広げている場合はどうすればよいですか

A. 個別対応の前に、全員へ同じ質問をして事実を集めてください。配置や処遇の変更は就業規則と労働関係法令の範囲で判断が必要ですので、社会保険労務士に確認しながら進めます。

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この記事を書いた人

佐藤雄亮(さとう ゆうすけ)。整形外科医、横浜市立大学医学部2016年卒。医師の不動産株式会社 代表取締役。複数の法人を経営しながら、病院・クリニックの経営改善・再生と事業承継の支援に取り組んでいます。毎月220名以上の医師が参加するコミュニティを運営。著書『初心者からはじめる医師の不動産投資』。

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