「不動産投資は、結局いくら儲かるのか」——この質問に一般論で答えても意味がありません。そこでこの記事では、私がこれまで1件ずつ公開してきた収支シミュレーション9件を、物件価格の安い順に1枚の表にまとめました。480万円の中古戸建てから1億円の新築アパートまで、価格差は約20倍あります。
私は整形外科医として働きながら2019年に不動産投資を始め、現在はアパート9棟・戸建て5軒、年間の家賃収入は3,000万円を超える規模になりました。物件を検討するときは、必ず家賃収入だけでなく経費、融資返済、税金、そして売却まで含めて試算します。その形式をそろえた9件を並べると、価格帯ごとの性格の違いがはっきり見えてきます。
先に結論を3つ書きます。
- 年間の手残りは、物件価格が20倍違ってもほとんど変わらない(9件すべて年50万〜120万円の範囲に収まる)
- 差がつくのは「投じた自己資金が何倍になって戻るか」。利回りの高い築古ほど倍率が大きい
- 利回りの低い新築は、保有中に手残りが出ても売却まで含めると損失になり得る
9件の収支を、物件価格の安い順に並べる
各行の記事名をクリックすると、その物件の詳しい試算内訳を読めます。自己資金マルチプルとは、投じた自己資金が売却時に何倍になって戻るかを示した数字です。
| 物件 | 価格 | 築年数 | 表面利回り | 年間CF (2年目以降) | 自己資金マルチプル (5年 / 10年) |
|---|---|---|---|---|---|
| 中古戸建て | 480万円 | 築45年 | 15% | 薄い(10年融資) | 1.89倍 / 3.3倍 |
| 中古アパート | 1,600万円 | 築40年 | 14% | 約50万円 | 2.16倍 / 3.72倍 |
| 中古アパート | 1,800万円 | 築35年 | — | 50万円台 | 1.92倍 / 3.27倍 |
| 中古アパート | 1,900万円 | 築30年 | 13% | 約65万円 | 約2.1倍 / — |
| 中古アパート | 2,000万円 | 築25年 | 12% | 約61〜62万円 | — |
| 中古アパート | 3,000万円 | — | 9% | 約43〜53万円 | — |
| 新築アパート | 7,000万円 | 新築 | 6.5% | 約48〜62万円 | 1.48倍 / 2.75倍 |
| 新築アパート | 9,000万円 | 新築 | 7% | 約120万円(月10万円) | — |
| 新築アパート | 1億円 | 新築 | 6.5% | 約100万円 | 1.39倍 / — |
わかること① 年間の手残りは、価格が20倍違ってもほとんど変わらない
表を縦に見てください。480万円の戸建てから1億円の新築まで並べても、2年目以降の年間キャッシュフローは、どれも50万円から120万円の範囲に収まっています。物件価格は20倍違うのに、毎年手元に残る金額は2倍程度しか変わりません。
理由は融資の返済です。表面利回りが下がるほど、入ってくる家賃に対する返済の比率が上がり、手残りが痩せていきます。1億円・利回り6.5%の物件では、年間家賃650万円に対して元金返済が約235万円、金利が約142万円。この2つだけで家賃の6割近くが出ていきます。そこへ空室損、募集費用、原状回復費、管理料、固定資産税を差し引けば、残るのは100万円前後です。
ここから導かれる結論はシンプルです。手残りを増やしたいなら、物件価格を上げるのではなく、利回りを上げるしかありません。「規模を大きくすれば手残りも比例して増える」という感覚は、この表を見る限り成立していません。
わかること② 差がつくのは「自己資金が何倍で戻るか」
では9件に差がないのかというと、そんなことはありません。差は売却時に表れます。右端の列を見てください。
- 480万円・利回り15%の戸建て … 5年で1.89倍、10年で3.3倍。築55年になることを見込んで売却価格を400万円まで下げても2.92倍
- 1,600万円・利回り14%の築古アパート … 5年で2.16倍、10年で3.72倍
- 7,000万円・利回り6.5%の新築 … 5年で1.48倍、10年で2.75倍
- 1億円・利回り6.5%の新築 … 5年で1.39倍
利回りの高い物件ほど、毎年の返済で元金が速く減ります。売却価格が同じでも、残債が少ないぶん手元に戻る金額が大きくなる——これが倍率の差の正体です。毎年の手残りが薄く見える築古が、実は資産の増え方では新築を上回っているということが、数字で確認できます。
480万円の戸建ての年間キャッシュフローが薄いのも、同じ理由の裏返しです。融資期間が10年と短いため返済額が大きく、その分だけ利益が残債の減少という形で積み上がっています。手元に現金が残らないことと、儲かっていないことは別物です。
わかること③ 1億円・利回り6.5%は、売却まで含めると損失になり得る
1億円の新築は、保有中は年間約100万円のキャッシュフローが出ます。5年後も家賃650万円を維持し、利回り6.5%のまま1億円で売却できれば自己資金は1.39倍です。ただしこれは、5年後も新築時と同じ家賃が取れているという前提の数字です。
新築の家賃には新築プレミアムが乗っています。築3年、4年と経てば、8万円だった家賃が7万5,000円、7万3,000円へ下がることは珍しくありません。収益物件の売却価格は家賃から逆算されるため、家賃が下がればそのまま売却価格に効きます。家賃が1割落ちれば、売却価格も1割前後落ちる。そうなると、保有中に積み上げた100万円×5年の手残りは、売却時の目減りで簡単に消えます。
だから私は、新築時の家賃と利回りが続く前提で事業計画を作ってはいけないと繰り返し言っています。1億円の融資枠は一度使えばしばらく戻ってきません。その枠を利回り6.5%の物件に使うかどうかは、慎重に考えるべきです。融資枠の使い方は不動産投資の融資枠1億円をどう使う?金利上昇時代の分散戦略でも解説しています。
9件の試算に共通する前提
数字を比較できるようにするため、9件はいずれも次の条件をそろえて試算しています。
- 金利は2%前後。融資期間は構造と築年数に応じて設定(法定耐用年数を超えた築古ほど短くなります)
- 空室による損失、入居者の募集費用、原状回復費、管理会社への支払い、固定資産税を差し引いている
- キャッシュフローは税引後の数字
- 初年度は仲介手数料・不動産取得税などが重なるため、いずれも帳簿上は赤字
- 売却価格は「購入時と同じ価格で売れた場合」を基本に置いている
表の「表面利回り」は、満室を想定した年間家賃を物件価格で割った数字です。ここまで見てきたとおり、手残りとはまったく別物です。表面と実質、ROIとCCRの違いは不動産投資の利回りとは?4つの種類と計算式・目安で整理しています。
自分の検討物件に当てはめるときは
販売図面の表面利回りだけを見て判断しないために、最低限この5つを自分で埋めてから買うかどうかを決めてください。
- 満室想定ではなく、平均入居期間と空室期間を織り込んだ年間家賃
- 募集費用・原状回復費(家賃の何カ月分で見るか)
- 融資期間と金利。築古なら融資年数が短くなる前提で組む
- 固定資産税・都市計画税などのランニングコスト
- 5年後・10年後にいくらで売れるか。その時点の家賃から逆算する
築古で融資年数が短くなる仕組みと、それでも私が築古を狙う理由は安い築古アパート投資の注意点3つに、どの金融機関から借りるかは不動産投資の融資はどの銀行で借りる?金融機関5種類の整理にまとめています。
まとめ
- 9件の実例を並べると、年間の手残りは物件価格が20倍違っても50万〜120万円の範囲に収まる。価格を上げても手残りは比例して増えない
- 差がつくのは自己資金が何倍で戻るか。利回りの高い築古は元金の減りが速く、480万円の戸建てが10年で3.3倍、1,600万円の築古アパートが3.72倍に対し、7,000万円の新築は2.75倍
- 1億円・利回り6.5%の新築は、新築プレミアムが剥がれた後の家賃から売却価格が逆算されるため、保有中の手残りが出ていても売却まで含めると損失になり得る
- 手残りを増やしたいなら、価格ではなく利回りを上げる。そのうえで、土地値が価格を下支えする物件を選ぶ
数字は嘘をつきませんが、前提を置き間違えれば簡単に嘘になります。販売図面に載っているのは満室想定の表面利回りだけです。空室と経費と返済と税金と売却まで自分で埋めて、はじめて「儲かるかどうか」が見えます。この試算の型を身につけたい方は、拙著初心者からはじめる医師の不動産投資(Amazon不動産投資部門1位)もあわせてご覧ください。
よくある質問
不動産投資では物件価格を上げれば年間の手残りも比例して増えますか?
増えません。480万円の戸建てから1億円の新築まで9件を比較すると、2年目以降の年間キャッシュフローはいずれも50万〜120万円の範囲に収まります。利回りが下がるほど家賃に対する融資返済の比率が上がるためで、手残りを増やすには価格ではなく利回りを上げる必要があります。
利回りの高い築古物件と利回りの低い新築では、どちらが資産の増え方で有利ですか?
築古のほうが有利です。利回りが高いほど毎年の返済で元金が速く減り、売却時に残債が少ないぶん手元に戻る金額が大きくなります。実例では1,600万円・利回り14%の築古アパートが10年で自己資金3.72倍に対し、7,000万円・利回り6.5%の新築は2.75倍でした。
1億円・利回り6.5%の新築アパートは売却まで含めて儲かりますか?
損失になり得ます。保有中は年約100万円の手残りが出ますが、新築プレミアムが剥がれて家賃が下がると、家賃から逆算される売却価格も1割前後下がります。その目減りで5年分の手残りは簡単に消えるため、新築時の家賃が続く前提で事業計画を作ってはいけません。
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