「手元にまとまったお金ができたから、住宅ローンを繰り上げ返済しようか」——医師の先生から、よくいただくご相談です。借金は早く返して身軽になりたい、という気持ちはとてもよく分かります。ただ、本気で資産形成を進めたいのであれば、私は「いま急いで繰り上げ返済する必要は、ほとんどの場合ない」と考えています。この記事では、その理由を「金利の損得」「機会費用」「インフレ」の3つの視点から、数字を使って整理します。
私は整形外科医として働きながら不動産投資を続け、現在は週1勤務まで本業を減らし、アパート9棟・戸建て5軒、年間の家賃収入は3000万円を超える規模になりました。毎月200名以上の医師に勉強会やコンサルティングを行うなかで見えてきた「住宅ローンとの付き合い方」をお伝えします。
なぜ「繰り上げ返済したい」と思うのか
繰り上げ返済を考える理由は、大きく2つに分けられます。
- 精神的な解放:「借金」という言葉の響きから来るストレスから、1日でも早く自由になりたいという感情
- 金利の節約:元本を減らせば、将来支払うはずだった利息を払わずに済むという経済合理性
感情面の価値を否定するつもりはありません。ただ2つ目の「金利の節約」は、数字で冷静に確かめると、思っているほどの効果がないケースが多いのです。
金利節約の効果を数字で確かめる
まず前提を整理します。日本の住宅ローンは、世界的に見ても異例なほど条件の良い借入です。超低金利期(おおむね2016〜2022年頃)に変動金利で借りた方なら、金利は0.3〜0.6%程度という方が多いはずです。2026年現在は日銀の利上げを受けて新規の変動金利も最優遇で1%前後まで上がってきましたが、それでも海外と比べれば十分に低く、「物件価格のほぼ全額を35年の長期で貸してくれる」国は世界でもまれです。
では、繰り上げ返済で節約できる金利はいくらか。たとえば残債5000万円・金利0.4%なら、年間の利息はおおよそ20万円です(元利均等返済では残高の減少とともに利息も減っていくため、実際はこれより少なくなっていきます)。5000万円という大金を投じて得られる「確実なリターン」が年20万円、率にして0.4%——これが繰り上げ返済の経済効果の実態です。
さらに、住宅ローン控除の存在があります。控除の適用期間中であれば、年末のローン残高に応じて税金が戻ってきます(2022年以降の入居ならおおむね残高の0.7%。借入時期や住宅の性能などの要件で変わります)。借入金利が控除率を下回っている場合、支払う利息より戻ってくる税金のほうが大きい、つまり「借りているだけで得をしている」状態です。ここで繰り上げ返済をすると控除対象の残高を自ら減らすことになり、経済合理性だけを見てもむしろ損というケースがあります。(※控除の適用可否は税理士や金融機関にご確認を。金利1%前後で借りている方はこの逆転は成り立ちません。)
本当の理由は「機会費用」——現金は次の資産を生む種銭
ただ、私が繰り上げ返済をおすすめしない最大の理由は、金利の損得ではありません。機会費用です。
手元の500万円、1000万円という自己資金は、数%にも満たない金利を節約するために使うべきお金ではなく、次の5000万円、1億円という資産を生み出すための最も重要な種銭だと私は考えています。
比較してみます。1000万円を繰り上げ返済に充てた場合、得られるのは金利分(0.4%なら年4万円程度)の節約です。一方、同じ1000万円を自己資金として高利回り物件に投じたらどうなるか。私の実例でいえば、築50年の長屋6戸を1200万円で購入し、月18万円・表面利回り18%で稼働しています。21万円で買った築40年超の戸建てを再生し、月5.3万円・利回り30%超で貸している物件もあります。もちろん表面利回りは家賃÷価格の見かけの数字にすぎず、修繕費・広告料・固定資産税・返済・税金を引いた後の手残り(キャッシュフロー)で判断する必要がありますし、物件選びを間違えれば損もします。それでも「確実だが年0.4%」と「学べば二桁利回りが狙える世界」——どちらに種銭を使うかで、10年後の資産規模は大きく変わります。
住宅ローンがあっても、投資用の融資は引けるのか
「住宅ローンが残っていると、次の不動産投資の融資が組めないのでは」という不安もよく聞きます。ここは正確に理解しておきたいところです。
まず前提として、住宅ローンと投資用ローンは別物です。住宅ローンは「自分が住む家」のための優遇された融資で、低金利・長期という好条件はその目的だから成り立っています。投資物件には使えませんし、投資用の融資は金利も審査基準も異なります。
そのうえで、年収に対してめいっぱい住宅ローンを組んでいる場合、個人の与信枠(年収から見た借入余力)が足かせになることは確かにあります。しかし医師のような高属性の方は事情が違いますし、より本質的なのは「物件そのものの事業性」です。利回りが十分に高い、土地値で価値が下支えされている、空室リスクが小さい——賃貸事業としてきちんと回る物件であれば、自己資金を2〜3割入れる前提で銀行は融資をしてくれます。物件が良ければ、住宅ローンの有無が投資の障害にならないケースは多いのです。
私自身、住宅ローンを引く前に不動産投資を始め、6年間で累計2億円を超える融資を引き、返済が進んで残債は借入総額の半分ほどまで減りました。医師の年収から見た個人の与信枠だけなら、とっくにオーバーしている金額ですが、良い物件と実績の積み重ねで、銀行からは「良い物件があればまだ貸せます」と言っていただける関係になりました。さらにその状態で、法人の決算書を提出しながら、都内の自宅用に1億円超の住宅ローンを別途引くこともできました。不動産投資が事業として自立していれば、個人の与信とは別の土俵で評価される——これが私の実感です。
逆に、価値のない物件を高値掴みすると与信を毀損し、将来の開業資金の融資にまで響きかねません。だからこそ、始める前に勉強し、味方になってくれる経験者をそばに置くことをおすすめします。
インフレ時代、低金利の長期借入は「貴重な資産」
そして、いちばん本質的な話をします。大きな金額を、低い金利で、長期間借りておけること自体が、インフレの時代にはとても貴重だということです。
10年前、20年前の1万円と今の1万円は、同じ価値ではありません。身近な例でいえばラーメンです。私が学生の頃は1杯700〜800円が普通でしたが、いまは1000円を切ると安く感じるほどです。物価は長期的に上がり続けています。
借金も同じです。いま抱えている5000万円の残債と、20年後の5000万円は「重さ」が違います。インフレが進めば、借金の実質的な負担は年々目減りしていくのです。一方で、借金と引き換えに手に入れた土地や建物は、立地が良ければ物価上昇とともに価値が上がりうる資産です。この差が長期ではとても大きく効いてきます。借金には良い借金と悪い借金があり、低金利・長期の住宅ローンは良い借金の代表格だと私は考えています。
自宅選びも「投資家の目線」を半分入れる
私は都内に土地を買い、新築の戸建てを建てて住んでいます。このときも半分は投資家の目線で考えました。都内なので、仮に貸した場合の利回りは3〜4%程度と、インカム(家賃収入)狙いの投資としては成立しない水準です。それでも、土地の価値が下支えされ将来的な値上がりも期待できる立地を選び、周辺相場より1〜2割安く土地を仕入れることにこだわりました。
同時に、自宅は人生の満足度に直結する買い物でもあります。私は子どもが3人おり、田舎の出身ということもあって「庭のある戸建てに住みたい」という思いがありました。住みたい環境はプライスレスです。人生の満足と投資家目線、その両面で考えて大きな買い物をする——これが私のおすすめする姿勢です。
すでに繰り上げ返済してしまった場合の対処法
「もう繰り上げ返済してしまった」という方も、打つ手はあります。
- 完済している場合:無借金の自宅を担保に入れることで、投資用融資を有利な条件で引ける可能性があります。金融機関に交渉する余地があります。
- 一部だけ繰り上げ返済した場合:物件の価値と残債の間に差(含み)ができていれば、その含みを評価して第二順位の担保設定を条件に融資条件を優遇するなど、柔軟に対応する金融機関もあります。
どの手が使えるかは残債や物件の評価次第ですが、「やってしまったから終わり」ではありません。
まとめ
- 繰り上げ返済で節約できる金利は、超低金利で借りていれば年0.4%前後とごくわずか。住宅ローン控除の適用中なら、残高を減らすことでかえって損をするケースもある(要件は要確認)
- 最大の問題は機会費用。手元の現金は金利節約ではなく、次の資産を生む種銭として使うほうが資産形成は速い
- 住宅ローンと投資用ローンは別物。事業として回る良い物件なら、住宅ローンがあっても投資用融資は引けることが多い
- インフレ時代、低金利・長期の借入は実質負担が目減りしていく「良い借金」。焦って返す必要はない、というのが私の考え
- すでに返済した場合も、自宅の担保提供や第二抵当の活用など打ち手はある
住宅ローンをどうするかは、金利・控除・家計・投資計画が絡む大きな意思決定です。この記事はあくまで私の考え方の共有であり、最適解はお一人おひとりの状況で変わります。大きなお金を動かす前に、実際に不動産で結果を出している人の視点を取り入れてみてください。
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