医師のワンルームマンション売却|赤字区分を売るか持つかの判断基準

「毎月赤字が出ているワンルームマンション、売るべきでしょうか。それとも持ち続けるべきでしょうか」。私のもとには、この相談が毎月のように届きます。結論から言います。この問いに感情で答えを出してはいけません。見るべき数字は3つだけです。毎月の実質収支、残債と売却可能価格の差、そして塞がれている与信枠。この3つを紙に並べれば、答えは自ずと見えてきます。

申し遅れました。私は整形外科医として働きながら不動産投資を続け、現在はアパート9棟・戸建て5軒、年間の家賃収入は3,000万円を超えています。この実績をもとに毎月200名以上の医師に不動産投資を教えており、その中には「すでに区分を買ってしまった」先生が数多くいらっしゃいます。この記事は、損切りを煽るためのものではありません。かといって塩漬けを勧めるものでもありません。売るか持つかを自分の頭で判断するための、数字の並べ方をお伝えします。

なお、そもそもなぜ医師がこうした物件を買わされてしまうのかという構造の話は、医師が不動産投資でカモにされる構造で詳しく書いています。過去を責める必要はありません。ここからは、今の数字だけを見ていきましょう。

判断基準①:毎月の実質収支は、この先も維持できるか

最初に見るのは、家賃収入からローン返済、管理費、修繕積立金、賃貸管理料、固定資産税を引いた後の毎月の手残りです。ここがすでに赤字なら話は早いのですが、要注意なのは「今はギリギリトントン」の物件です。

ワンルームの収支は、時間とともに悪くなる方向の力しか働きません。管理費と修繕積立金は築年数とともに上がり、家賃は新築プレミアムが剥がれて下がっていきます。私が相談を受けた30代・年収1,200万円の勤務医の先生は、表面利回り5%のワンルームを10戸持っていましたが、当初トントンだった収支は約5年で1戸あたり月5,000円前後の持ち出しに転落し、10戸合計で毎月5万〜10万円が給料から消えていく状態になっていました。

ですから、今月の収支だけを見て「まだ耐えられる」と判断するのは危険です。管理組合の長期修繕計画で積立金の値上げ予定を確認し、周辺の同じ間取りの募集家賃と自分の物件の家賃を比べてください。5年後、10年後の収支を線で引いたとき、上向く要素があるか。ほとんどのワンルームでは、ありません。

判断基準②:残債と売却可能価格の差は、払える範囲か

次に、ローンの残債と、実際に売れる価格の差を確認します。やることは単純で、複数の会社に査定を出すだけです。ここで多くの先生が初めて現実の数字と向き合うことになります。

先ほどの勤務医の先生の場合、残債2,000万円に対して売却査定は1,700万〜1,800万円でした。つまり売るためには1戸あたり200万〜300万円を自己資金で持ち出す必要があります。10戸あれば単純計算で1,000万〜2,000万円規模の含み損です。この実例の全体像は年収1200万の勤務医が破産寸前になった全数字にまとめています。

持ち出しが出ると聞くと「損をしてまで売りたくない」と感じるのが人情です。しかしここは算数の問題です。仮に手出し250万円で売れる物件を、月2万円の赤字を垂れ流しながら10年持ち続ければ、赤字の累計だけで240万円。しかもその間に残債の減りより早く物件価格が下がれば、10年後の手出しは今より大きくなっているかもしれません。「今売ると損」ではなく、「今の損と将来の損のどちらが小さいか」を比べるのが正しい問いの立て方です。

判断基準③:医師にとって最大のコストは、塞がれた与信枠

そして3つ目が、医師にとって一番重いのに一番見落とされている数字です。区分マンションの残債は、あなたの与信枠を塞いでいます。

医師には、金融機関から大きな融資を引ける属性という強力な武器があります。ところが収益の出ていない区分の残債が数千万円あると、金融機関は次の融資に慎重になり、本来なら買えたはずの一棟物件への融資が止まるケースが実際に多いのです。毎月の赤字が月2万円だとしても、失っているのはその2万円だけではありません。年間数百万円の家賃収入を生むはずだった次の投資の機会そのものを失っている。これが「持ち続けるコスト」の本当の中身です。

医師の与信を正しく使えば、家賃収入で本業に頼らない収入の柱を作ることは十分可能です。その道筋は家賃収入月30万円へのロードマップに書きました。赤字の区分がその入口を塞いでいるなら、それは月々の赤字よりはるかに大きな損失です。

売却を考えるときに知っておくべき2つの論点

5年ルール(短期譲渡と長期譲渡)に振り回されない

不動産を売って利益が出た場合、保有5年以下の短期譲渡では税率が約40%、5年超の長期譲渡では約20%と、税率に大きな差があります(正確な判定と税率は税理士にご確認ください)。この差は確かに大きいので、売却益が出る見込みなら考慮に値します。

ただし、注意してほしいことがあります。そもそも残債割れしている物件の売却では、譲渡益が出ないことも多い。譲渡益が出ないなら、この税率差は関係ありません。それなのに「5年待てば税金が安くなるから」という理由だけで、毎月の赤字と塞がれた与信を数年間放置するのは本末転倒です。待つことで得られる税差と、待つ間に出ていく赤字の累計、失う投資機会を並べて比べてください。

サブリース契約は売却価格を下げる

家賃保証の一括借り上げ(サブリース)契約が付いている物件は、買い手側の自由度が下がるため売却しにくく、価格も下がりがちです。売却を考えるなら、サブリースの解除条件を契約書で確認することが先決です。解除には交渉が必要な場合が多く、弁護士など第三者の専門家を入れて進めている先生もいます。時間がかかる工程なので、売却を視野に入れた時点で早めに着手してください。

区分を売却して、一棟アパートで再スタートした先生の実例

最後に、実際に出口を取った先生の話をします。ある先生は区分マンションを保有していましたが、管理費と修繕積立金の上昇、家賃の下落でキャッシュフローが出なくなり、売却を決断しました。ご本人の言葉をそのまま借りると「管理費と修繕積立費の上昇、家賃下落でキャッシュフローが出なくなってきていたので、次に一棟ものをと思い探していました(区分は売却しました)」。

この先生はその後、関西の一棟アパート(6戸、築36年、5,200万円、表面利回り8.1%)に買い替え、満室経営に転換しました。表面利回り5%前後のワンルームと8.1%の一棟では、経費と返済を引いた後に残る金額がまるで違います。区分を持ち続けていたら、この再スタートはありませんでした。売却は敗北ではなく、次の一手のための資金と与信を取り戻す行為です。

まとめ:判断を先送りにしている時間が、最大のコスト

  • 見るべき数字は3つ。毎月の実質収支(今後も悪化が続くか)、残債と売却可能価格の差(手出しは払える範囲か)、塞がれた与信枠(次の投資機会を失っていないか)
  • 「今売ると損」ではなく「今の損と将来の損のどちらが小さいか」で比べる。毎月の赤字を給料で埋めながら持ち続けても、値上がりしない限り出口はない
  • 5年ルールは考慮に値するが、それだけを理由に赤字と塞がれた与信を放置するのは本末転倒
  • サブリース付きは売却価格が下がる。解除条件の確認は早めに
  • 売り急いで買い叩かれるのも悪手。複数査定で相場を掴み、数字を全部並べてから決める

売るにしても持つにしても、最初の一歩は同じです。残債、査定価格、毎月の収支、修繕積立金の値上げ予定、サブリースの契約条件。この数字を全部、一枚の紙に並べることです。数字が並べば、感情ではなく事実で判断できます。逆に言えば、数字を並べないまま「いつか値上がりするかもしれない」と先送りにしている時間こそが、最大のコストです。

数字の見方や出口の取り方を体系的に学びたい先生は、拙著初心者からはじめる医師の不動産投資(Amazon不動産投資部門1位)にまとめています。すでに買ってしまった物件の対処も、まだ手立てが残っている場合があります。一人で数字と向き合うのが難しければ、実際に出口を取った先生たちの事例を知る第三者を頼ってください。

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