「区分所有法の改正で、駅前のボロマンションが億ションに化ける」——最近、こんな話を耳にした方も多いのではないでしょうか。実際、2026年4月に施行された改正区分所有法で、マンション建替えのハードルは確かに下がりました。一方で、「塩漬け物件が最後の仕込みチャンス」と煽って売り込んでくる業者も増えています。この法改正は、条件次第でチャンスにも罠にもなります。この記事では、法改正で何が変わるのか、価値が上がり得るのはどんな物件か、そして「儲かる」と言われても手を出してはいけないのはどんなケースか、両面から整理します。
私は整形外科医として働きながら2019年に不動産投資を始め、現在は週1勤務まで本業を減らし、アパート9棟・戸建て5軒、年間の家賃収入は3000万円を超えました。その経験をもとに、毎月200名以上の医師に不動産投資を教えています。普段から「区分マンションは土地がないから買うな」とお伝えしている私が、この法改正をどう見ているか。結論を先に言えば、「例外的にアリなケースはある。ただし大多数の人にとっては、業者のセールストークに乗ってはいけない話」です。
区分所有法改正で何が変わるのか
まず制度の骨子です。これまで、分譲マンションを建て替えるには所有者の5分の4(80%)以上の賛成が必要でした。しかも、連絡がつかない「所在不明の所有者」は実質的に反対票として扱われてきました。50戸のマンションなら40戸以上の賛成が必要で、そのうち数戸が連絡不能なら、残りでほぼ全員一致に近い賛成を集めなければならない。どんなに立地が良くても、建替えは事実上不可能に近かったのです。
今回の改正のポイントは大きく2つです。
- 賛成要件の緩和:耐震性の不足など「建物をそのままにしておくと危険」といった一定の事由がある場合、建替え決議の要件が5分の4から4分の3(75%)に引き下げられる
- 所在不明所有者の除外:連絡がつかない所有者を決議の母数から除外できるようになり、実質的に「出席して意思表示をする人」ベースで決議が進められる
(※改正法は2026年4月1日に施行されています。緩和が適用される事由には耐震性不足のほか火災安全性や外壁剥落の危険などの類型があり、被災マンションではさらに要件が緩和されます。実際に投資判断に使う際は、必ず最新の公式情報と専門家の確認を。)
これまで「建て替えたくても建て替えられない」まま止まっていた老朽マンションが動き出す可能性がある——ここまでは事実です。問題は、これを誰のチャンスと読むかです。
チャンス面:駅前の築古マンションが「お宝」に化け得る理由
ここで不動産の立地の本質を思い出してください。街で一番いい場所には、一番古い建物が建っています。駅の目の前の一等地には、高度経済成長期に真っ先に建てられた築40〜50年のマンションが今も残っていることが多い。これまでは「古くて住めない」「建替えもできない」という理由で、価値がかなり低く見積もられてきました。
しかし、法改正を追い風に建替えが決まればどうなるか。駅前のボロ物件が、同じ場所で最新のタワーマンションに生まれ変わります。その建物に区分所有権を持っていれば、資産価値が何倍にも跳ね上がる可能性がある。これが「錬金術」と言われるゆえんです。
もちろん、すべての築古マンションが建て替わるわけではありませんし、再開発が実現する確証もありません。だからこそ、狙うなら条件を厳しく絞る必要があります。
- 立地は一切妥協しない:区分の最大のメリットは立地です。駅のすぐそば、スーパーが近い、学区が良いなど、デベロッパーが「ここなら再建築したい」と考える場所であること。立地が悪ければ、建替えの担い手が現れず、この戦略は成立しません
- 容積率に余裕がある:今の建物より大きな建物を建てられる土地なら、建替え後により価値の高い物件になるため、デベロッパーが参入しやすい。土地の面積と建物の規模から建蔽率・容積率を自分で計算し、「余裕があるか」を確認します。資料は不動産業をやっていれば取り寄せられるものです
- 長期で持ちきれる資金力:いつ動くか分からない話なので、返済に追われず何年でも待てる人だけの土俵です
私自身、地方の一棟アパートも戸建ても、新築戸建ても、土地を運送会社に貸して地代をもらう駐車場用地も持っています。種別とエリアを分散したポートフォリオの中の一枠として、普段は利回りの高い土地付き物件でキャッシュフローを稼ぎ、返済を進めて自己資金を回復させながら、その余力の一部でこうした一等地の区分を長期保有する——資金力と時間的余裕のある医師・高所得者なら、そういう組み込み方はあり得ると考えています。
警鐘面:「儲かる」と煽られて買ってはいけない理由
ここからが本題です。同じ法改正を、私は「大多数の個人投資家は手を出すべきではない」とも考えています。理由は3つあります。
理由①:80%が75%になっても、壁は依然として高い
冷静に考えてみてください。50戸のマンションなら、75%でも40戸近くの賛成が必要です。古いマンションの住民は年齢層が高く、「終の住処にするつもりだった。解体から新築まで2〜3年もかかる引っ越しなんて絶対に嫌だ」という方が必ずいます。家賃の安さでそこに住む子育て世代にとっても、転居は学区や生活の問題に直結します。反対する人には反対する合理的な理由があるのです。合意形成の本質的な困難さは、法改正でも変わっていません。他人の意思決定次第で自分の資産の行方が左右される、不確実性の極めて高い投資であることに変わりはないのです。
理由②:本当の勝者はデベロッパー
この法改正で本当に利益を得るのは誰か。私たち個人投資家ではなく、不動産のプロ、再開発を専門とするデベロッパーです。彼らはターゲットとなる古いマンションの部屋を、何年もかけて市場に気づかれないよう静かに、安値で買い集めていきます。そして自らが議決権の75%以上を握ったところで建替え決議を主導し、大きな利益を得る。
個人投資家がこうした物件に中途半端に手を出すと、どうなるか。プロの計画の駒として安く買い叩かれるか、複雑な権利関係に巻き込まれて、本業のかたわら膨大な時間とストレスを費やすことになります。「格安で仕込める最後のチャンス」というセールストークで区分を売り込まれたら、その物件を本当に安く仕込みたいプロがいる市場に、素人として参加させられている可能性を疑ってください。
理由③:保有している間もコントロールできない
区分の問題は建替えだけではありません。管理費・修繕積立金は築年数とともに上がっていきます。築浅のうちは月1万円台でも、築20年、30年となると月2万〜3万円と増えていくのが一般的な傾向です。しかもその使い道を、自分では決められません。管理組合に投資家目線を持つ人は少なく、業者の言い値で割高な工事を発注してしまう例も耳にします。自分が積み立てたお金の使われ方すら、自分でコントロールできないのです。
さらに近年は、一定期間が過ぎたら土地の権利を地主に返す定期借地権付きマンションも増えています。期限が来れば土地は手元に残らず、期限が近づくほど建物は古び、価値はゼロに収束していきます。修繕積立金を払えない所有者が増えて大規模修繕もできず廃墟化し、最後はデベロッパーに安く買い叩かれる——区分マンションには、そうした「価値がゼロに向かう」経路がいくつもあることを知っておくべきです。
結局どう判断するか——4つの基準と、医師の向き合い方
「チャンス」と「罠」、どちらの話も嘘ではありません。条件次第でどちらも正しいのです。分かれ目は次の4点です。
- 立地:デベロッパーが再建築したくなる一等地か。立地に少しでも妥協があるなら、この戦略の前提が崩れる
- 土地の価値と余地:敷地にどれだけの価値があり、容積率に余裕があるか。数字で自分で計算できるか
- 管理状態:管理費・修繕積立金の水準と今後の上昇、滞納状況、管理組合が機能しているか。定期借地権付きでないか
- 出口と資金力:建替えが10年動かなくても困らない資金力があるか。売却・保有・建替え待ちのシナリオを自分で描けるか
この4つをすべて自分の目で判断できて、初めて「例外的にアリ」になります。逆に、業者の「法改正で儲かります」という説明を検証できない段階なら、答えは明確にノーです。
そして本業が忙しい医師にこそお伝えしたいのは、不動産投資の主戦場は、他人の合意に依存しない「自分でコントロールできる投資」に置くべきだということです。私は利回り10%以上・土地値がしっかりした物件を、10〜15年の短めの融資で買い進めてきました。完済すれば物件はただで手に入ったのと同じ状態になり、返済のない家賃がまるごと入ってきます。いつ修繕するか、いつ解体して何を建てるか、いつ売却するかまで、すべて自分で決められる。土地付きの一棟アパートや戸建てを軸に据え、区分はやるとしてもポートフォリオの端に置く。この順番を間違えないことが、法改正の時代でも変わらない原則だと考えています。
まとめ
- 2026年4月施行の改正区分所有法で、建替え決議の要件は一定の条件下で5分の4→4分の3に緩和され、所在不明所有者も母数から除外できるようになった(適用条件の詳細は最新の公式情報を確認)
- 駅前一等地の築古マンションは、立地と容積率の余裕次第で建替えにより価値が大きく上がる可能性がある。ただし長期で待てる資金力がある人限定の話
- 一方で合意形成の困難さは本質的に変わらず、本当の勝者は安値で買い集めるデベロッパー。「法改正で儲かる」という売り込みに乗った個人はプロの駒にされかねない
- 区分は保有中も管理費・修繕積立金・大規模修繕を自分でコントロールできず、定期借地権付きなど価値がゼロに収束する経路もある
- 判断基準は立地・土地の価値と容積率・管理状態・出口と資金力の4つ。検証できないなら買わない。主戦場は自分でコントロールできる土地付き物件に置く
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