「不動産投資は節税になりますよ」——医師・高所得者なら、一度はこのセールストークを聞いたことがあるはずです。結論から言うと、減価償却「だけ」を目的にした不動産購入は、節税ではなく単なる税金の繰り延べ、下手をすればただの浪費です。この記事では、業者が決して語らない減価償却のカラクリを数字で解剖し、そのうえで「本当の節税」とは何かをお伝えします。
私は整形外科医として働きながら6年前に不動産投資を始め、現在は週1勤務まで本業を減らし、アパート9棟・戸建て5軒、年間の家賃収入は3000万円を超えました。その実績と積み上げてきた知見をもとに、毎月200名以上の医師に不動産投資を教えています。業者には少し不都合な内容も含みますが、正直に書きます。
なぜ医師は「節税」の言葉に弱いのか
まず前提として、医師や高所得のサラリーマンにとって税負担は本当に重いです。日本は累進課税なので、課税所得が一定のラインを超えた部分には、所得税と住民税を合わせておおむね43%、さらに高い層では50%を超える税率がかかってきます。(※税率は「年収」ではなく各種控除後の「課税所得」で決まり、超えた部分にだけ高い税率がかかる仕組みです。ご自身の正確な数字は税理士に確認してください。)
感覚的に言えば、高所得の先生が1日10万円のバイトを増やしても、手元に残るのは半分程度。給与明細を見て「こんなに引かれるのか」と感じ、「どうにか減らせないか」と不動産投資に興味を持つ——この入り口自体は、私は悪くないと思っています。
問題はその先です。「医師 節税」「不動産 節税」と検索すると出てくる業者の多くが、減価償却という分かりにくい言葉を魔法のように使って近づいてくるのです。
業者が語る「減価償却で節税」の仕組み
減価償却とは、建物の価値が帳簿の上で年々減っていく分を、実際にお金が出ていっていないのに経費として計上できる仕組みです。建物には構造ごとに「法定耐用年数」が定められており、木造なら22年、軽量鉄骨は厚みに応じて19年や27年、重量鉄骨は34年、RCは47年といった具合です。
ここで業者がよく使うのが、法定耐用年数を超えた中古物件は短期間で償却できるというルールです。たとえば築25年や築30年の木造アパートは耐用年数の22年を超えているため、4年で償却できます(いわゆる「築古4年償却」。耐用年数を全部経過した物件は「法定耐用年数×20%」で償却年数を計算します)。
具体例で見ましょう。1億円の築古木造アパートを、土地6000万円・建物4000万円という内訳で買ったとします。建物4000万円を4年で償却すれば、年間1000万円の帳簿上の赤字を作れます。実際には出費していないのに経費にでき、これを給与所得と合算(損益通算)して税金の還付を受ける——これが彼らの言う「節税」です。
一見すごい仕組みに見えますよね。しかし、ここには重大な罠が2つ隠されています。
罠①:出口で待ち受ける「税金爆弾」——数字で検証する
業者が決して語らないのは、減価償却で経費にした分だけ、物件の帳簿上の価値(簿価)は確実に下がっているという事実です。先ほどの例なら、4年経てば建物部分の簿価はゼロに近づき、物件の簿価は土地の6000万円だけになります。
この状態で、仮に5年後に買値と同じ1億円で売れたとしましょう。税務上は「簿価6000万円のものを1億円で売った=4000万円の儲け」と見なされ、そこに譲渡所得税がかかります。保有5年超の長期譲渡なら税率はおおむね20%なので、4000万円×20%=800万円の納税です。(※短期譲渡なら約40%とさらに重くなります。長短の判定や正確な税率は税理士にご確認ください。)
一方、保有中に節税できた額はいくらでしょうか。実は帳簿上の赤字は、家賃収入と相殺した後の分しか作れません。利回り7%なら家賃収入は年700万円。減価償却1000万円をぶつけても、赤字は年300万円です。税率50%の先生なら、還付されるのは年150万円ほど。5年間で150万円×5年=750万円です。
お気づきでしょうか。保有中に節税できた750万円に対し、出口で払う税金は800万円。ほぼトントン、むしろ持ち出しです。「節税できた」と思っていたお金は、将来一括で返済する繰り延べにすぎなかった——これが減価償却の不都合な真実です。
罠②:節税が目的化して「高値掴み」する本末転倒
もうひとつの罠は、もっと根深いものです。節税=赤字づくりが目的になると、本来の目的であるはずの「きちんと利益が得られるか」「手残り(キャッシュフロー)が出るか」を忘れてしまい、利回りが低く資産価値もない質の悪い物件を、高値で掴まされるのです。こうなると、もはや投資ではなくただの浪費です。
先ほどの例には続きがあります。土地と建物の割合で建物を大きく取れる物件は、郊外に多い。そして郊外の築25年・利回り7%というのは、投資家ならまず買わない水準です。つまりその時点で高値掴みをしています。5年後には築30年。同じ利回りでは売れず、9000万円、8500万円と価格を下げざるを得ません。高値で掴んだ分の損切りに加え、残債との関係によっては、売却するために1000万〜1500万円の自己資金を持ち出さないと出口すら迎えられない——そんなケースが実際に起きています。
誤解しないでいただきたいのは、減価償却そのものが悪いわけではないことです。減価償却はどの物件でも取れますし、節税はどの物件でもできます。問題は「節税」を前面に押し出して売り込んでくる業者の物件は、ほぼ例外なく収益性の乏しい物件だという点です。数字を自分で理解し、良い物件を見抜く目線を持ったうえで買うなら、減価償却は当然についてくる副産物にすぎません。
本当の節税とは——優良物件を買い続け、資産形成と両立させる
では、私たち医師・高所得者にとっての「本当の節税」とは何か。私の答えは、優良物件を買い続け、税金の仕組みをきちんと把握したうえで動くことです。節税は目的ではなく、良い投資に自然とついてくる結果です。
私自身、21万円で買った築40年超の6DK戸建てを再生して月5.3万円の家賃(利回り30%超)を得ていたり、築50年の長屋6戸を1200万円で買って月18万円(利回り18%)を得ていたりします。こうした物件は節税のために買ったものではありませんが、しっかり収益を生みながら、経費や償却の効果も当然に受けられます。順番が逆なのです。収益が先、節税は後。
そのうえで、健全に使える節税の工夫もあります。個人で物件を持てば、不動産賃貸業にプラスになる支出を経費にできます。たとえば次のようなものです。
- 物件視察のための交通費・宿泊費
- 地方で開かれる大家仲間の勉強会・交流会への参加費や、その際の飲食費
- 不動産投資の書籍代・セミナー参加費
税率40〜50%の先生にとって、税引き前のお金で支出できるということは、実質40%オフ・50%オフでそのサービスを受けているのと同じです。もちろん「事業にプラスになる」という理由付けをきちんと説明できることが大前提で、どこまで認められるかは税理士・税務署の領分です。クリーンにやれる範囲で活用してください。
そして不動産投資の最大の強みは、銀行融資というレバレッジを使いながらこれができることです。医師には与信という大きな武器があります。ただし、その与信は業者から見れば「高く売りつけられる客」の証でもあります。だからこそ、自分で学び、相談できる味方をつけたうえで動くことが欠かせません。
まとめ
- 減価償却による「節税」は、基本的には税金の繰り延べ。出口で簿価との差が譲渡益として課税され、節税額と納税額がトントンになる構図を数字で理解しておく
- 節税を前面に出す業者の物件は要警戒。節税が目的化すると、収益性のない物件を高値掴みし、出口で損切り+自己資金持ち出しという最悪の結果になり得る
- 減価償却・節税はどの物件でもできる。良い物件を見抜く目線が先、節税は後からついてくる副産物
- 本当の節税=優良物件を買い続けて資産を膨らませながら、経費・償却を健全に活用すること。融資のレバレッジと組み合わせれば、月5万・10万円分の効果はすぐに実感できる
- 税率・償却年数・譲渡所得の扱いは税制で定められ、改正もあり得る。具体的な適用は必ず税理士に確認を
医師の不動産投資を、正しい順番で学ぶ

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