「インフレでこれから物価が上がる。だから今のうちに新築のマイホームを買っておいた方がいい」——最近、こうしたアドバイスをよく耳にします。実際、郊外の3,000万円の建売住宅が、10年後には5,000万円になる。そんな予測を語る専門家もいます。マクロ経済の理屈だけを見れば、この読み自体は決して間違っていません。
ですが、不動産投資メンターのDr.いなせとして、私はここで一つ警告をしておきたいのです。「インフレで価格が上がるから」という理由だけで、今の相場のまま何も考えずに新築マイホームや新築アパートを買ってしまうと、資産形成という観点ではむしろ最悪の結果を招きかねません。この記事では、なぜインフレ局面で安易に新築を買うと資産が溶けるのか、そして与信や自己資金という武器を持つ医師が、どうインフレを味方につけるべきなのかを、投資家目線で整理します。
「3,000万円が5,000万円になる」——値上がり予測の中身を分解する
まず、なぜ郊外の建売住宅が10年後、20年後に3,000万円から5,000万円に値上がりする、と語る人がいるのか。その中身を分けて考えてみましょう。理由は大きく二つあります。
- 土地の価格が上がっている:都内の立地の良いエリアでは、地価が年5%ほど上がることも珍しくなく、坪650〜700万円という水準まで来ているところもあります。こうした一等地の地価上昇が、値上がり予測の一つの根拠になっています。
- 建築費が上がっている:世界的なインフレと資材ショックで、木材・断熱材・人件費といった建築コストが歴史的な高騰を見せています。土地が上がり、そこに建てる建物の原価も上がる。だから完成品の価格も上がる——これが「値上がり予測」の骨格です。
ここまでは事実です。ただ、私は地価の上昇が永遠に続くとは考えていません。坪800万円、900万円まで届く可能性はあっても、上昇の「加速度」はいずれ鈍化し、ピークを打って横ばいに転じる局面が来る。値上がりを前提に高値で掴むほど、その反動を受けやすくなります。だからこそ、値上がりストーリーを鵜呑みにするのではなく、その中身に潜む「罠」を知っておく必要があるのです。
新築の最大の怖さは「建築会社の倒産」
建築費が上がり続けると、実は建売業者や建築会社の経営が苦しくなります。仕入れる部材は高いのに、それを販売価格へ十分に転嫁できない。すると利益がどんどん削られ、赤字に陥り、倒産する会社も出てきます。
新築を語るとき、多くの人は「ピカピカで綺麗」「中古よりトラブルが少なそう」というイメージを持ちます。ですが、新築には大きな落とし穴があります。それが建築会社の倒産です。私は医師や不動産投資家を中心に月1回の勉強会を開いており、家賃年収が高い実力者の大家さんに登壇いただくこともありますが、新築を数多く手がけてきた投資家ほど、どこかで一度は建築会社の倒産を経験しているのが実情です。
工事の途中で建築会社が倒産すると、現場が中途半端な状態で残ります。ここから別の会社に引き継ごうとしても、「どういう構造で、どう作られたのか」が分からない建物の責任を、後から入る会社は取りたがりません。結果として、途中まで作った建物の調査費や保証のための上乗せが発生し、当初の見積もりより大幅にコストが膨らみます。
私の勉強会に登壇いただいた、家賃年収のかなり高いある先生も、建築中に建築会社が倒産する事態を経験しました。追加で発生した損失は、3,000万円から5,000万円ほど。本業のかたわら必死で追加の融資を引き、副業でも稼ぎながら、なんとか完成にこぎ着けたそうです。無事に建ったとはいえ、当初より費用がかさめば当然、利回りは下がります。新築の「途中から値上げ」——資材高騰や設備の納期遅れを理由に、数百万〜数千万円の追加費用を求められるパターンも、決して珍しくありません。
建築会社の倒産リスクは、こうやって事前に調べられる
では、こうした倒産リスクは避けようがないのでしょうか。あまり語られない話ですが、事前にチェックする方法はあります。私は外部CFO(財務の専門家)や融資担当者にも相談できる立場にあるので、その一人に「建築会社の倒産リスクをどう調べるか」を尋ねました。ポイントは次のとおりです。
- 取引金融機関に問い合わせる:建築会社のホームページなどを見ると、取引のある金融機関が分かることがあります。「この会社で新築を建てようと思っているが、決算の状況や、融資の返済遅延、顧客とのトラブルはないか」と聞いてみる。少し変わった動きなので怪しまれるかもしれませんが、金融機関も無下にはせず、教えてくれることが多いようです。
- 弁護士に過去の訴訟をチェックしてもらう:過去に訴訟を抱えていないか、顧客とトラブルになっていないか。専門家が使えるデータベースで確認してもらえば、リスクをある程度ヘッジできます。
ここまで手をかける人は多くありません。ですが、数千万円の買い物で、しかも工事の完成を相手の経営に委ねる以上、相手の「体力」を確かめておくのは決して過剰ではないと私は考えます。
マイホーム(実需)と投資用アパートは、判断軸がまったく違う
ここで整理しておきたいのが、実需(自分が住むマイホーム)と投資用物件は、そもそも判断の軸が違うという点です。マイホームは、住み心地や家族の満足といった「使用価値」で買うもので、資産性を支えるのは基本的に土地です。一方、投資用のアパートは、家賃を生む収益資産であり、判断軸は利回りとキャッシュフロー(手残り)になります。
「インフレで価格が上がるから」という理由は、この二つを混ぜてしまいがちです。仮に郊外の新築マイホームを3,000万円、新築アパートを5,000万円で買えたとして、価格がインフレについていけたから万々歳、とはなりません。見るべきは中身です。
- その土地は上昇・横ばい・下落のどの傾向か:土地が上がり続けるエリアならまだしも、いずれ下がるエリアなら、値上がりストーリーは前提から崩れます。
- 間取りと入居者需要は噛み合っているか:私が別の動画でも繰り返し言っているように、狭い間取りやワンルームでも、駅近で需要の高い立地なら、社会人が長く住み、家賃も維持・上昇させられます。逆に郊外の新築アパートは、家賃下落や空室リスクを抱えやすい。
- 利回り(表面と実質)を分けて見ているか:家賃÷価格の見かけの数字が「表面利回り」。そこから返済・経費・税を引いた後に手元に残るのが「実質(手残り)」です。新築や築浅は表面利回りが低くなりがちで、これが最大のリスクになります。
建物は経年で必ず下がる——だから土地値と坪単価を自分で計算する
非常に重要なポイントです。建物の価値は、経年とともに必ず下がっていきます。だからこそ大事なのは、土地の価値を自分で算出し、建物の坪単価も自分で計算して、高値掴みを避けることです。
具体的にはこう考えます。3,000万円の物件で、土地が1,000万円、建物が2,000万円だとします。この建物の2,000万円を延床の坪数で割ると、坪単価が出ます。仮に坪100万円、あるいは坪80万円。構造(木造・鉄骨・RCなど)によって相場は違うので、その相場と照らして「割高な建物代を払っていないか」を見定めるわけです。
土地についても同じです。たとえば土地値が500万〜1,000万円のエリアにマイホームを建てて、30年後・40年後にその土地が1,000万円の価値に落ちてしまうなら、建物代の目減りと合わせて実質2,000万円を失うことになりかねません。土地が上昇傾向のエリアならまだ耐えられますが、そうでないなら、土地値・建築坪単価・(収益物件なら)間取りと需要を総合して判断する必要があります。数字の一面だけで買わない。これが高値掴みを避ける鉄則です。
金利上昇局面では、利回りの低い新築ほど不利になる
新築や築浅の一番のリスクは、繰り返しになりますが利回りが低いことです。そして今、金利は上昇傾向にあります。金利が上がるほど、返済に占める利息の割合が重くなります。利回りが低い物件ほど、この利息負担や、共用部などのランニングコストが相対的に効いてきて、手残りが出づらくなるのです。裏を返せば、金利上昇局面では、利回りの取れる中古が相対的に有利になります。
参考までに、私自身は現役の整形外科医として2019年に不動産投資を始め、今は週1勤務にしながら、アパート9棟・戸建て5軒、年間家賃約3,000万円まで積み上げてきました。その柱になっているのは、新築のピカピカな物件ではありません。たとえば21万円で買った築古の戸建てを再生して月5.3万円(利回り30%超)、築50年の長屋6戸を1,200万円で買って月18万円(利回り18%)といった、土地値の下支えと高い利回りが効く物件群です。もちろん、これは私が住むための家ではなく収益物件としての設計であり、実需のマイホームとは目的も判断軸も違います。だからこそ、与信や自己資金という「武器」を持つ医師の方には、その武器を活かした投資の設計をおすすめしたいのです。
まとめ:インフレは「乗る」ものではなく「使う」もの
- 「インフレで上がるから今すぐ新築を」という話は、マクロの理屈は正しくても、そのまま行動に移すと高値掴みになりやすい。
- 新築の最大の怖さは建築会社の倒産と途中値上げ。取引金融機関への問い合わせや弁護士チェックで、事前にリスクを調べられる。
- マイホーム(実需)は土地の資産性、投資用は利回りとキャッシュフロー。判断軸を混同しない。
- 建物は経年で必ず下がる。土地値と建物の坪単価を自分で計算し、表面と実質の利回りを分けて見て、高値掴みを避ける。
- 金利上昇局面では、利回りの低い新築ほど不利。与信・自己資金という武器を活かした投資設計を。
インフレは、ただ乗るものではなく、正しく「使う」ものです。値上がりの物語に急かされて焦る前に、その物件の土地値と利回りの中身を、一度自分の手で計算してみてください。それが、資産を溶かさないための最初の一歩になります。
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