不動産投資の勉強を始めると、「資産管理会社」「法人化」といった言葉に必ず出会います。医師の場合はMS法人(メディカル・サービス法人。受付や物品管理など、医療行為以外の周辺業務を担う法人)という形で、すでに法人をお持ちの先生もいるかもしれません。ただ、多くの方が法人化の目的を「節税のため」「なんとなく良さそうだから」程度にしか理解していません。もし先生が節税だけを目的に法人化を考えているなら、それは非常にもったいない。法人化の本当の価値は、個人の高い税率から法人という低い税率の「器」へ物件を移し、資産を効率的に蓄積していけることにあります。この記事では、節税の先にある法人化の本当の力を整理します。
私は整形外科医として働きながら不動産投資を続け、現在は週1勤務まで本業を減らし、アパート9棟・戸建て5軒、年間の家賃収入は3000万円を超える規模になりました。毎月200名以上の医師に勉強会やコンサルティングを行うなかで実感してきた「法人という器の使い方」をお伝えします。
なぜ高所得の医師ほど法人化が効くのか——税率の圧倒的なギャップ
大前提として押さえたいのが、個人の税率と法人の税率のギャップです。
個人の所得税は累進課税です。課税所得が概ね900万円を超えると、所得税と住民税を合わせた税率は約43%に達し、概ね1800万円超で約50%、4000万円超では最高約55%になります。勤務医としてしっかり稼いでいる先生の多くは、この43〜55%のゾーンにいます。最高税率帯の先生なら、日給10万円のアルバイトを1日入れても、約半分が税金で消えていく計算です。
一方、法人はどうか。中小法人の実効税率(法人税・地方税などを合わせた実質的な負担率)は概ね23〜33%程度の帯に収まります。個人と決定的に違うのは、利益が数千万円になっても、1億円、2億円になっても、概ね33%程度で頭打ちだという点です。稼げば稼ぐほど税率が上がっていく個人と、どれだけ利益が出ても頭打ちの法人。高所得の医師ほど、この15〜20%以上の税率差が大きく効いてきます(税率は所得の内訳や自治体・法人の規模などで変わります。ご自身のケースは税理士にご確認ください)。
法人は資産を貯める「器」——節税はスタート地点にすぎない
この税率差を踏まえると、法人化の本当の意味が見えてきます。法人とは、個人の高い税率を通さずに、低い税率の中で家賃収入を再投資に回し続けられる「資産の器」だということです。
個人で物件を持つと、家賃から経費と返済を引いた利益に最大約55%の税率がかかり、手元に残るお金——次の物件の頭金になるお金——が大きく削られます。法人の器に物件を貯めていけば、利益にかかる税率は概ね3割前後で済み、残りをそのまま次の購入資金に回せます。1棟ごとの節税額の差ではなく、「再投資に回せるお金の差」が複利で積み上がっていく。ここが、節税だけを見ていると気づけない法人化の本質です。
誤解のないように言うと、私は個人での購入を否定していません。1棟目(あるいは1戸目)を個人で持つのはありだと考えています。減価償却が使えますし、物件の視察にかかる交通費や宿泊費、不動産投資のセミナー参加費など、事業に関連することを論理的に説明できる支出は経費にできます。事業的規模になれば青色申告の特別控除(最大65万円。要件があるので税理士にご確認を)も受けられます。ただし、個人で経費として使える幅には現実的な限りがあります。だからこそ、本格的に規模を拡大していくなら、資産を貯める先は法人という器に切り替えたほうがいいのです。
節税だけではない、法人がもたらす3つの力
法人という器を持つと、税率差に加えて3つの武器が手に入ります。
1. 経費枠の拡大
個人では経費として認められにくい支出も、法人では扱いやすくなります。たとえば事業に使う車や、ご家族に事務作業を手伝ってもらった対価として給与を出すことなどは、法人のほうがやりやすい。家族への給与は、世帯全体で見れば所得の分散にもなります(もちろん実態のある業務であることが前提です)。
2. 売却戦略の自由
個人で物件を売却して利益が出た場合、所有期間が5年以下だと「短期譲渡」として売却益に概ね39%の高い税率がかかります。5年を超えて売れば概ね20%に下がりますが、逆に言えば個人は「5年縛り」を意識して売り時を選ばされるということです。法人には短期・長期の区別がなく、売却益もほかの損益と通算したうえで法人の税率で課税されます。相場が良いタイミングで売る、利益を確定させて次に乗り換える——市況に合わせた柔軟な出口戦略は、法人のほうが格段に取りやすくなります。出口(売却)まで設計して初めて不動産投資は完結する、というのが私の一貫した考えです。
3. 融資枠の分離
金利が上昇して融資の目線が厳しくなっている今、実はこれが最も大事なメリットかもしれません。銀行は個人と法人を別の人格として審査してくれます。
もちろん、設立したばかりの法人には売上も実績もないので、最初は個人の年収と一体で見られます。しかし3期ほど決算を重ね、物件が増え、賃貸事業としてきちんと回っている決算書ができてくると、銀行は「この法人は事業として成り立っている」と評価してくれるようになります。そうなれば、個人の年収から計算した与信枠(借入余力)とは別の土俵で、法人に融資が付くのです。将来、勤務を週4日、週3日と減らして個人の年収が下がっても、法人が事業として自立していれば融資への影響は小さくて済みます。
私の実例——法人に借入2億円があっても、住宅ローン1億3000万円が下りた
この「融資枠の分離」を、私自身の数字でお話しします。私は現在、法人で総資産およそ3億円の不動産を保有しており、借入は返済が進んで2億円ほど、含み益は1億円以上ある状態です。借入2億円という金額は、医師としての私の年収から見た個人の与信枠を明らかにオーバーしています。それでも銀行が貸してくれるのは、法人が不動産賃貸業としてきちんと運営できていると、決算書で評価してもらえているからです。
さらにその状態で、私は個人として都内に土地から新築の自宅を購入しました。法人に2億円の借入があるにもかかわらず、住宅ローンとして約1億3000万円の融資が別途下りたのです。法人の借入が個人の足かせになるどころか、事業がきちんと回っていることはむしろプラスに評価されうる——これが私の実感です。
将来の開業を考えている先生も同じです。「不動産投資をやると開業資金の融資に響くのでは」とよく聞かれますが、影響が出るのは、担保評価も収益性も低い物件を高値掴みしてしまった場合です。それは当然、掴んでしまった分だけ銀行評価を毀損します。逆に、事業として単体で成り立つ良い物件をきちんと買っていれば、資産として評価され、開業の障害にはなりません。だからこそ、始める前に学び、物件を見る目を鍛えることが何より大事なのです。
器は次の世代へ——物件とノウハウの承継
法人という器に貯めた資産は、いずれ相続の場面でも効いてきます。一般に、現金1億円をそのまま相続するより、1億円の価値がある不動産で相続したほうが相続税評価は圧縮され、税負担を数百万円、場合によっては数千万円単位で抑えられる可能性があります(評価方法や適用要件は個別性が大きいので、必ず税理士にご確認ください)。
ただ、私が本当に伝えたいのは、物件だけでなくノウハウごと家族に承継してほしいということです。不動産投資は、学んでしまえば天才的な頭脳が必要なスキルではありません。物件を見る目線と、相談できる味方と、自分の立場に合った戦略。これらは配偶者やお子さんにも引き継げます。私には子どもが3人いますが、子どもたちが私と同じ道を選ぶかは分かりませんし、稼ぐことが正義だとも思いません。それでも、月10万円、20万円の家賃収入という柱があれば、給与が高くない仕事でも「本当にやりたいこと」を選べるようになります。お金のために働くのではなく、やりたいことのために働く。その支えを家族に残せるのが、不動産という事業の良さだと考えています。
まとめ
- 高所得の医師は所得税・住民税で最高約55%の税率。法人の実効税率は概ね23〜33%程度の帯で、利益が増えても頭打ち。この税率差こそ法人化の出発点
- 法人化の本当の目的は節税ではなく、低い税率の「器」に物件を貯め、再投資の複利で資産を効率的に蓄積すること
- 器を持つと3つの力が手に入る:経費枠の拡大・売却戦略の自由(個人の短期譲渡・概ね39%の縛りから解放)・融資枠の分離
- 法人が事業として自立すれば、個人の与信とは別の土俵で融資が付く。私は法人借入2億円の状態で、個人の住宅ローン約1億3000万円が下りた
- 器に貯めた資産は、物件とノウハウごと次の世代へ承継できる。相続の面でも有利に働きうる(税務の判断は必ず税理士に確認を)
法人化は強力な武器ですが、良い物件を見極める目がなければ器だけあっても意味がありません。不動産業界には残念ながら悪質な業者も多く、業者に勧められるまま買って失敗した人は、失敗を口にしないだけで数多くいます。大きな一歩を踏み出す前に、実際に結果を出している人の視点を取り入れてみてください。
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