9000万円の新築アパートは儲かるか|医師が知るべき表面利回り6%の落とし穴

「新築でピカピカ、修繕もかからず、資産性も高い」——業者からそう勧められて9000万円クラスの新築アパートを検討している医師の方は多いと思います。ですが、2026年の金利と家賃の状況を前提に手取りまで計算すると、それは「投資」ではなく「借金をしながら買う、極めて効率の悪い貯金箱」になりかねません。私、Dr.いなせが、業者の提示する期待値をそのまま数字で追いかけながら、新築アパートの利回り・手取り・出口を投資家目線で分解していきます。

私は現在、整形外科医として週1勤務をしながら、アパート9棟・戸建て5軒を保有し、家賃年収は3000万円を突破しました。自分で壁を塗り、床を張り、DIYで再生した物件もあります。いまは毎月200名以上の医師に不動産投資をお伝えしている立場から、「なぜ新築アパートが危ういのか」「では何を買えばいいのか」を、できるだけ平易に解説します。

目次

業者が提示する「期待値」をそのまま計算してみる

まず、業者がよく持ってくる条件をそのまま置いてみます。東京近郊(埼玉・神奈川・千葉あたり)で新築アパートを建てる想定です。

  • 物件価格:9000万円(フルローン)
  • 表面利回り:6%(=家賃年収540万円)
  • 融資条件:期間30年・金利2%

ここで大事なのが「表面利回り」という言葉です。表面利回りは家賃 ÷ 物件価格の見かけの数字にすぎません。ここから経費と返済、そして税金を引いた後に手元に残るお金(実質的なキャッシュフロー)こそが、投資家が本当に見るべき数字です。表面6%と、手取りベースの実質は、まったくの別物だと最初に押さえてください。

手取り(税引前キャッシュフロー)は月2.7万円しか残らない

540万円の家賃から差し引いていきます。

  • 家賃年収:+540万円
  • 運営経費:約107万円(管理費・固定資産税・退去時のリフォーム・火災/地震保険など)
  • 銀行返済:約400万円(金利2%・元利込みの目安)
  • 税引前の手残り:約33万円/年 = 月約2.7万円

9000万円の借金を背負って、手元に残るのは月2.7万円台。ここで見落としがちなのが保険です。9000万円のうち建物の価値が仮に6000万円だとすると、火災保険・地震保険はその建物価格に見合った金額をかける必要があります。保険料は年々上昇しており、新築アパートだと年20万〜30万円かかることも珍しくありません。年20万円でも5年で100万円。新築でも経費は決して軽くないのです。

「税引後は赤字」——新築が資産を溶かす本当の理由

さらに怖いのは、この月2.7万円が税引前だということです。家賃には所得税・住民税がかかります。個人で保有し、経費をあまり使わずに利益が残る場合、給与を含めた所得次第では家賃部分に高い限界税率が乗ってきます。おおむね、課税所得が高い医師ほど税負担は重く、給与所得と合算すると手残りはさらに削られます。

結果として、「家賃は入ってきていて、計算上(税引前)は黒字だったはずなのに、税引後にすると赤字になる」という状況が起こります。ここで業者はこう言ってきます。「赤字になった分、税金が還付されて戻ってきますよ。だからお得です」と。数字のマジックです。

ですが、経費で赤字をつくって還付を受けるのは、事業として本末転倒です。本来、事業は黒字になるのが本筋。利回りの高い物件なら、不動産に関連する交通費や宿泊費などを経費に落としても、なお黒字が残ることが多い。わざわざ赤字をつくることは事業ではありません。しかも赤字は次の銀行融資を引きづらくします。減価償却による節税は「おまけ」であって、それ目当てで買うのは順序が逆なのです。

私が利回り10%以上を買う理由——耐用年数・融資年数・出口の関係

ここで、私自身が実際に買っている物件と比べてみます。私が仕込むのは利回り10%以上(立地が良ければ8〜9%も可)の物件です。利回りが10〜12%あると、自己資金を少し入れることで融資を10〜15年で返し切る設計ができます。

  • 5〜6年前に購入し、10年返済でキャッシュフローはトントンだが、返済がどんどん進む物件があります。5000万円で買った物件の借入が、5〜6年で2500万円まで減っている。減らしたのは私のお金ではなく、入居者さんの家賃です。
  • さらに古くから保有する物件は、5〜6年で融資を完済し、実質タダで手に入れている状態になります。こうなると、何をしても利益が残ります。

融資年数を「長く引くか・短く引くか」はメリット・デメリットの両面があり、正解が一つではありません。ただ、利回りが高ければ短く引けます。短く引ければ、金利上昇の影響を受ける期間も短くて済む。実際、私の物件も当初1%台だった金利が2%台に上がったものがあります。金利上昇局面で割を食うのは、低い利回りの物件を、長い融資年数で買った人です。

「高利回りの築古なんて出口がないのでは」とよく言われますが、そうとは限りません。私が仕込むのはある程度立地の良い物件なので、土地の価値が下支えになります。たとえ告知事項が発生しても、10年ほど持って完済してしまえば、木造・軽量鉄骨は解体費もRCより安く抑えられるため、更地にして土地として売れば購入額より高く出せることさえあります。更地で売る/建て直して売る/保有し続ける——立地と構造に応じて出口を選べる。これが土地値が下支えする物件の強さです。

新築アパートは「時期を選ぶ」商品——新築プレミアムが外れると価格も下がる

新築の弱点は、家賃が「築年数とともに必ず下がる」ことです。とくに間取りが狭い新築は、新築プレミアム家賃が外れた瞬間に賃料が落ちます。ここで利回りの逆算を思い出してください。物件価格は「家賃 ÷ 利回り」で評価されます。つまり家賃が下がれば、同じ利回り6%でも評価額が下がります。

  • 9000万円・利回り6%(家賃540万円)で購入
  • 新築プレミアムが外れて家賃が下落
  • 利回り6%のままでも評価額は8500万円、8000万円へと下がっていく

家賃が下がると、利回りから逆算した物件価格も一緒に沈む。だから新築は、実は相場の時期を選ぶ、投機的な要素の強い商品でもあるのです。もちろん、新築・築浅はフルローンが引きやすく、レバレッジ(借入で規模を効かせること)の面では有利です。相場より明確に安く買える、立地が良く今後もキャピタルゲイン(値上がり益)が見込める——そうした査定眼を持って買うなら十分ありです。危ういのは、その目利きなしに「新築だから安心」と思考停止で買ってしまうことです。

まとめ:新築神話に飲まれないための3点

  • 表面利回りと実質(手取り)を分けて見る。表面6%でも、経費・返済・税金の後は月2.7万円台、税引後は赤字さえあり得る。
  • 節税(還付)目当てで買わない。赤字を作る投資は事業ではなく、次の融資も引きづらくなる。黒字で回るのが本筋。
  • 利回り・融資年数・出口を一体で設計する。高利回りなら短期完済でき、金利上昇の影響も限定的。土地値が下支えする物件なら出口が複数持てる。

不動産は「投資」と「事業」の合間にあります。本やYouTubeでかじった知識だけで成功できるほど甘くありません。だからこそ、数字だけで飛びつかず、経費・税・出口まで含めた総合判断を身につけることが、資産を溶かさない唯一の道です。

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