戦争・地政学リスクは不動産投資にどう影響する?資材高騰・工事ストップの現場で学んだ備え

ある日、付き合いのある建設業者から一本の連絡が入りました。「来週から工事が全部止まるかもしれません」——。この動画を収録した時点では中東情勢が緊迫し、石油由来の建築資材の供給不安が、日本の不動産投資の現場にまで及んでいました。「戦争なんて遠い国の話でしょう」と思うかもしれません。しかし建築やリフォームの現場は、実は地政学リスクと地続きです。この記事では、私が実際に現場で経験したことをもとに、戦争や地政学リスクが不動産投資に何をもたらすのか、そして投資家はどう備えておくべきかを、時事ニュースとしてではなく「いつか必ずまた起きること」への備えとして整理します。

私は整形外科医として働きながら不動産投資を続け、現在は週1勤務まで本業を減らし、アパート9棟・戸建て5軒、年間の家賃収入は3000万円を超える規模になりました。毎月200名以上の医師に勉強会やコンサルティングを行うなかで得た視点も交えてお伝えします。

目次

戦争は「遠い国の話」ではない——不動産投資への波及経路

建築やリフォームの現場は、石油製品なしには成り立ちません。改めて数えてみると、その依存度に驚くはずです。

  • 塗料とシンナー:外壁や内装の塗装に必須。シンナーがなければ塗料を薄められず、塗装工事そのものが止まる
  • アスファルトルーフィング:屋根の防水に使う下地材。名前のとおり石油由来
  • 断熱材:多くが石油化学製品
  • 接着剤・プラスチック部品:キッチンやユニットバスの組み立てに使われる細かな部材。ひとつ欠けるだけで設備一式が納品できない
  • トイレなどの住宅設備:部品供給が乱れると、メーカー製品ごと納期未定になる

だから産油地域で紛争が起き、原油の供給に不安が生じると、資材の価格高騰・品薄・納期の遅れという形で日本の工事現場に波及します。原油高は燃料費を通じて輸送コストにも跳ね返りますし、材料が入らなければ職人さんは仕事ができず、工程全体が玉突きで乱れていきます。これは今回に限った話ではなく、原油や資材の供給が揺らぐ局面では、いつでも起こりうる構造的な話です。

私の現場で実際に起きたこと

当時、私と付き合いのある建設業者やリフォーム業者からは、「来週から仕事が回らなくなる」「納期がまったく読めなくなった」という悲鳴が次々と上がっていました。ホームセンターの店頭からシンナーが消え、内装業者や塗装業者は材料の確保に奔走。塗料はあっても薄められないので、塗装屋さんは仕事になりません。

価格面では、部材によっては見積もりが従来の1.2倍から1.4倍に跳ね上がりました。しかも工事の見積もりは、途中から「原価が上がったので値上げします」とは変えにくいもの。業者側は原価高騰を転嫁できずに苦しみ、発注側は「この見積もり金額で本当に最後まで終わるのか」が読めなくなる。双方にとって苦しい状況でした。

私自身の現場でも影響が出ました。私は賃貸経営と並行して宿泊業(旅館業)の立ち上げも進めているのですが、リフォーム中の物件でトイレを新調しようとしたところ、予定していたメーカーの製品が手配できず、別の製品への変更を余儀なくされました。それでも納期は未定。賃貸でも宿泊業でも、運営開始が1か月遅れれば、その分の家賃や宿泊収入がまるごと入ってこないわけですから、工期の遅れはそのまま機会損失です。

打撃が大きいのは「新築・フルリフォーム前提」の投資

こうした局面で最も割を食うのは、大量の資材と長い工期を必要とする投資です。具体的には、これから新築アパートを建てる計画や、戸建てを買ってフルリフォームする計画。使う資材の種類も量も多く、工程が長いぶん、資材の品薄・価格高騰・納期遅延のすべてを正面から浴びることになります。工期が読めなければ完成時期も読めず、予算は当初の想定から大きく変わる可能性があります。

ここから引き出せる教訓はシンプルです。工事のボリュームが大きい投資ほど、地政学リスクや資材市況の影響を受けやすい。新築やフルリノベーションを否定するわけではありませんが、こうした手法を取るなら、資材市況が荒れたときに予算と工期がどれだけ膨らみうるか、余裕を持った計画が欠かせません。

築古物件が意外に打たれ強い理由——家賃帯のからくり

「いなせ先生は築古のアパートや戸建てを推奨していますが、築古こそ修繕だらけで、資材高騰の影響をもろに受けるのでは?」——そう思った方もいるでしょう。ここに、私があまり語ってこなかった大事なからくりがあります。実は築古のほうが、修繕・リフォーム費用は低額で済みがちなのです。理由は家賃帯にあります。

私は築40年代・築50年代の平屋やアパートを複数保有していますが、この築年数帯の家賃は1戸あたり4万円前後です。この家賃帯に住む方は、高品質な設備を求めていません。「使えればいい」というスタンスの方が多く、家賃に見合わない高級な設備を入れたところで、家賃はほとんど上がらないのです。むしろ「設備は普通でいい、家電も2〜3年落ちの型でいいから、家賃は安く住みたい」というニーズのほうが圧倒的に多い。だから築古は、そもそも高いお金をかけたリフォームが必要ない場面が多いのです。

ここで医師の先生方に特に意識してほしいのが、「自分の価値観で物件を判断しない」ことです。所得の高い方ほど、物件を内見して「自分が住むならここが気になる」「ここは汚いから直したい」と、自分の生活水準を基準にリフォーム範囲を決めてしまいがちです。しかし、あなたの物件に住む入居者さんとあなたの生活は別物です。新築や築浅に住むのは、所得のある方や親の援助がある若い世代が中心。一方、古めのアパートや戸建てには40代〜60代の方が多く、多少の汚れや古さは気にしないという方が大半です。投資家としての自分と、生活者としての自分を切り分ける——これが築古投資のコスト管理の出発点です。

お金をかける所・削る所を見極める

もちろん「築古は何も直さなくていい」という話ではありません。必要なのは、ポイントを絞ったリフォームです。

  • お金をかける所=水回り:キッチン・トイレ・風呂は生活の基本機能に直結するため、ここは綺麗にする。特に和式トイレのままでは入居はまず決まらないので、和式便器に載せて洋式化する簡易器具(スワレットなど)を設置するか、場合によっては10万〜15万円かけて洋式トイレに交換する
  • 削る所=細かい内装:天井の一部めくれはシートで補修する、障子の汚れは入居者さんに張り替えてもらう前提でそのままにする、など。家賃4万円前後の物件では、細かい部分は入居者さんは思っているほど気にしない

注意したいのは、業者さんは「ここもリフォームが必要だと思います」と提案してくるのが仕事だということです。私も強く勧められれば実施することはありますが、「入居者さんは気にならないと思うので、これは導入しなくて大丈夫です」と自分の考えを伝えて交渉し、費用を抑えたうえで入居を決めることも多い。提案を鵜呑みにせず、経営者として費用対効果で取捨選択する。資材が高騰している局面では、この見極めの価値がさらに大きくなります。

投資家が取るべき備え——有事は必ずまた来る

地政学リスクそのものは、個人の投資家にはコントロールできません。できるのは、影響を受けにくい体質をあらかじめ作っておくことです。

  • 修繕費・工事費に余裕を見た資金計画を組む:私の現場では見積もりが1.2〜1.4倍になった部材もありました。工事費は見積もりどおりに収まらない前提で、予備費を確保しておく。表面利回り(家賃÷価格の見かけの数字)だけで判断せず、修繕費や空室損を引いた後の手残り(キャッシュフロー)に耐久力があるかで物件を選ぶ
  • 過剰な設備投資をしない:家賃に反映されない高級設備は、平時でも回収できない。有事にはその無駄がさらに膨らむ。家賃帯と入居者ニーズに見合った仕様に絞る
  • 納期遅延を前提に計画する:特定の製品・メーカーに固執せず、代替品で柔軟に対応できる工事計画にしておく。運営開始の遅れはそのまま収入ゼロの期間になる
  • 工事ボリュームの大きい手法はリスクを厚めに見積もる:新築やフルリフォーム前提の投資は、資材市況が荒れると予算も工期も大きくぶれる。その振れ幅を織り込んでも成立する計画かを確認する

まとめ

  • 建築・リフォームは石油製品の塊。産油地域の紛争や供給不安は、資材高騰・品薄・納期遅延・輸送コスト上昇という形で日本の不動産投資の現場に波及する
  • 私の現場でも、業者からの「工事が止まる」という悲鳴、見積もりの1.2〜1.4倍への上昇、設備の納期未定を実際に経験した
  • 打撃が大きいのは新築・フルリフォームなど工事ボリュームの大きい投資。築古は家賃帯のからくりにより、そもそも高額なリフォームを必要としないことが多く、意外に打たれ強い
  • お金をかけるのは水回り、削れるのは細かい内装。自分の価値観ではなく入居者ニーズで判断し、業者の提案は費用対効果で取捨選択する
  • 備えの本質は、修繕費に余裕を見た資金計画・過剰設備を入れない規律・納期遅延前提の柔軟な計画。知っているかどうかで数百万円単位の差がつくのが不動産投資の世界

地政学リスクは、いつどこで再燃するか誰にも分かりません。だからこそ、平時から「コストをかけずに家賃を最大化する」経営者の視点を鍛えておくことが、有事に慌てない一番の備えになります。これから不動産投資を始めたい方は、大きなお金を動かす前に、実際に現場で結果を出している人の視点を取り入れてみてください。

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