「不動産は、個人で買うべきか。法人で買うべきか」——これは、私が毎月200名以上の医師に不動産を教えるなかで、最も多くいただく質問のひとつです。結論から言えば、多くの先生にとっての現実解は「1棟目は個人から始めて、2棟目以降を法人で拡大していく」という順番です。この記事では、医師・高所得者が節税と資産拡大を両取りしていくための考え方を、私自身の運営経験をもとに整理します。
私は整形外科医として働きながら不動産投資を続け、現在は週1勤務まで本業を減らし、アパート9棟・戸建て5軒、年間の家賃収入は3000万円を超える規模になりました。医師という本業を持つ人間だからこそ見えてきた「やらなくていいこと・必ずやるべきこと」を、ここでお伝えします。
なぜ医師は「個人スタート」が有利なのか
私が教えている医師の半分以上が、まずは個人名義でスタートします。理由はシンプルで、医師の給与所得にかかる税率が高いからです。
一般論として、勤務医の平均年収は1500万円前後、若いうちから2000万円を超える先生もいます。課税所得が大きくなると、所得税と住民税を合わせた負担はおおむね40%台、さらに所得が上がる層では50%近くに達します。給与を上げても、増えた分の多くが税金として引かれてしまう——これが高所得者の現実です。(※具体的な税率・課税所得の区分は、その年の税制や各種控除で変わります。ご自身の数字は必ず税理士に確認してください。)
この高い税率の「手前」でお金を使えるようにするのが、個人で物件を持つ最初の意味です。順番に見ていきます。
個人で持つメリット①:経費と損益通算
個人で不動産賃貸を営むと、その事業に関連する支出を経費として計上できます。あくまで「不動産賃貸業にプラスになる可能性がある支出」に限られますが、たとえば次のようなものです。
- 事務用品・パソコン・携帯電話など(プライベートと兼用の場合は、税理士と相談して按分)
- 不動産投資のセミナー参加費・書籍代
- 物件視察のための交通費・宿泊費
- 情報交換を目的とした会食費(事業への関連性が説明できる範囲で)
ポイントは「税引き前のお金から使える」ことです。給与だけの人は、所得税・住民税で40〜50%引かれた「後」の手取りから同じ買い物をします。一方、個人事業として経費計上できれば、税率が高い人ほど実質的な負担が軽くなる——言い換えると、40%オフ・50%オフで支出しているような状態になります。これが給与所得と不動産所得を合算する「損益通算」の効き目で、個人の手残りを増やす第一歩になります。
(※どこまでが経費として認められるかは事業との関連性次第で、判断は税理士・税務署の領分です。「なんでも経費」ではない点は必ず押さえてください。)
個人で持つメリット②:減価償却と「長期譲渡」の税率差
もうひとつが減価償却です。少し難しい話なので、ざっくりした例で説明します。
たとえば5000万円の物件を、土地3000万円・建物2000万円という内訳で買ったとします。このうち建物部分は、建物の耐用年数に応じて毎年「減価償却費」として費用計上でき、帳簿上の赤字(=課税所得の圧縮)を作り出せます。個人でこの赤字を作れば、40〜50%という高い税率の分だけ税負担が圧縮されます。
ただし、ここは誤解が多いところなので正直に書きます。減価償却は「節税」ではなく、基本的には税金の繰り延べです。償却で作った帳簿上の赤字は、売却時に取得費が下がることで、譲渡益として跳ね返ってきます。それでも個人にメリットが出るのは、保有中は40〜50%の税率で圧縮し、5年超(長期譲渡)で売却すれば譲渡益への税率が下がるという「税率差」があるからです。この差の分(おおむね20〜30%程度)が実質的なお得になり得る、という構図です。
(※長期譲渡・短期譲渡の判定期間や税率、減価償却の計算方法は税制で定められており、改正もあり得ます。具体的な数字と適用可否は必ず税理士にご確認ください。ここでは考え方の骨格として読んでください。)
「節税目的」で買うと危ない理由
ここまで税のメリットを書いてきましたが、私は正直、「節税」という言葉があまり好きではありません。不動産投資の本質は、きちんと黒字を出し、決算書をプラスに保ち、その実績で融資を伸ばして利益を積み上げていくことだからです。節税や帳簿上の赤字づくりは、あくまで副次的な効果にすぎません。
むしろ「節税になります」「減価償却で税金が戻ります」を前面に押し出して売り込んでくる業者は、警戒したほうがいいです。よくあるのが、相場4000万円の物件を5000万円で売りつけられるケース。1000万円を高値掴みしてしまえば、数百万円の節税効果など一瞬で吹き飛び、トータルでは大きなマイナスです。
ここで大事な考え方を補足します。家賃÷価格で出る「表面利回り」は見かけの数字にすぎません。返済・経費・税を引いた後に手元に残る「実質(キャッシュフロー)」で判断しないと、節税以前に投資として成立しません。節税に釣られる前に、「そもそもこの価格は妥当か」「表面ではなく手残りは出るか」を自分の目で見抜けるようになることが先決です。
2棟目以降は法人へ——法人化のタイミング
では、いつ法人に切り替えるのか。私は2棟目以降を法人で買っていくことをおすすめしています。最大の理由は「本業の年収に縛られなくなる」ことです。
多くの医師が不動産投資を始める動機は、夜勤を減らしたい・週5から週4へ、といった働き方の見直しです。ところが本業を軽くすると、当然ながら医師としての年収は下がります。ここで個人だけで物件を拡大してきた人は不利になります。個人の与信は本業の年収に直結するため、収入が下がると新規融資が引きづらくなり、結果として「勤務を減らしたくても減らせない」という本末転倒に陥りがちです。
一方、法人で物件を積み上げておくとどうなるか。目安として設立から3期分の決算書が出せ、不動産賃貸業として問題なく回っている状態になると、銀行は法人単体の事業性で評価してくれるようになります。こうなれば、個人の年収を下げても法人の実績で融資は続き、むしろ実績が積み上がるほど「もっと貸させてください」という姿勢に変わっていきます。個人と法人を切り分けておくことが、働き方の自由と融資の両立につながるのです。
個人・法人それぞれの使い分けを、ざっくり整理すると次の通りです。
- 1棟目(個人):高い給与所得を、経費・損益通算・減価償却で圧縮し、手残りを増やして次の元手をつくる
- 2棟目以降(法人):本業の年収に依存しない与信を育て、勤務を減らしても融資を伸ばし続けられる体制をつくる
- 共通:節税ではなく「黒字を積む・良い物件を安く買う」を軸に据える
(※法人化が有利になる所得水準・法人と個人の税負担の分岐点は、所得規模や役員報酬の設計、税制改正によって変わります。「◯◯万円を超えたら必ず法人」といった一律の閾値はありません。設立の判断は必ず税理士と一緒に検討してください。)
私の実例:法人の実績が「桁違いの融資」を引き出す
私自身も、数年前に法人を立ち上げて不動産投資を本格化させました。融資の返済は10年〜15年と短めの年数で組んでいるため、残債は着実に減っています。始めた当初は2億円近くあった残債が、今では1億円ちょっと。1億円弱の返済が進んだ計算です。
この実績があるからこそ、1億〜2億円規模の借入が残っている状態でも、自宅として土地・建物あわせて1億5000万円の融資を新たに引くことができました。個人の年収から見れば十数倍〜20倍規模の融資です。これは、法人と個人を切り分け、法人側で実績を積み上げてきたからこそ引き出せたものだと考えています。
そして家賃収入1000万円、その先の2000万円を目指すうえで欠かせないのが、キャッシュフローが出る物件・利回りの高い物件を積み上げることです。私が教えている先生方には、都心の高額物件は少し避け、アクセスは十分に良くても土地値が下支えされ、利回りが高く、間取りが広くて入居が安定するエリアの物件をおすすめしています。手残りを増やし、借入を減らしながら、売却も絡めて自己資金を回収していく——この循環に入ると、精神的にも自由な状態に近づいていきます。
まとめ
- 高い給与所得を持つ医師・高所得者は、1棟目を個人で持ち、経費・損益通算・減価償却で税負担を圧縮して手残りを増やすのが現実的なスタート
- 減価償却は「節税」ではなく税の繰り延べ。長期譲渡との税率差でメリットが出る構図を理解しておく
- 節税目的の物件購入は危険。高値掴みすれば節税効果は一瞬で消える。表面利回りでなく実質(キャッシュフロー)で判断する
- 2棟目以降は法人へ。3期分の決算で法人単体の与信が育てば、本業を軽くしても融資を伸ばし続けられる
- 税率・閾値・法人化の判断は年ごとの税制と個々の事情で変わる。数字は必ず税理士に確認を
医師の不動産投資を、正しい順番で学ぶ

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